しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

千葉と言ったら○○○○○ランド

 

6月も半ばに入ると本格的な蒸し暑さが始まった。


僕が住んでいる舞浜は海も近く、熱と湿気を帯びた海風が東京湾から漂ってくる。

都内よりも一段と不快指数が高いだろう。ジメジメって形容詞がピッタリすぎる。


こんな辺鄙な町にもう2年以上も住んでしまった。ディズニーランドの新エリア工事に関わる事になり、渋谷の家から足繁く通っていたのだが、高速の渋滞やら通勤ラッシュやらが自分のポリシーに反し...ってか嫌になり、ディズニーランドから最短距離の賃貸に引越した。


ディズニー信者からしたらこの立地はまさに聖地。夜には花火が毎日家から観れる。毎日ホールニューワールド。通勤には便利だが、ディズニー好きでもないもんだから、ひたすらに辺鄙であり、苦痛な日々を送っていた。コロナで自粛真っ最中だった頃だからこそ、辺鄙でも諦めこそついたが、健全な社会であれば、こんな町に我慢出来ずにとっくに飛び出していたに違いなかった。


2年以上も住めば少しは気にいると思っていた。「住めば都」ってやつだ。だが、駅まではバスか自転車が無いと行けないし、駅を使う時もネズミの耳飾りをしたパリピとぎゅうぎゅう詰めになって電車に乗るしかなく、不快でしかなかった。

 

 

千葉と言ったらディズニーランド。

千葉なんて、嫌いだ。

そう思って、諦めていた。

 

 

 

そんなある日。

給料が月払いになったことに慣れずに金を使い果たした僕は、まだ6月も半ばというのに月末までどう生き延びようか模索していた。額から流れる汗は、暑いからではない。焦りだ。


ありとあらゆる魔法カードも使えず、ペイペイだかチンチンだかよくわからない電子決済もチャージしてないから使えない。


ついにここまで来たか、と日雇いバイトを携帯で調べた。


今日働ける仕事、仕事、仕事。

 

あった。

舞浜から少し離れたところ、南船橋にあるヤマト運輸だ。

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日程を見てみると毎日18時から22時までの4時間で4900円(交通費込)。募集の枠が50人と書いてある。なんて人数だ。時給で1100円。自分の日中の仕事の時給換算の半分以下。こんなんやってられっか。やる訳ないだろ。


とか言いながら、応募を済ませて、仕事を切り上げ、電車に乗り込む。Suicaになけなしの小銭をチャージする。計算するとギリギリ往復できる。今日も京葉線は夕日が綺麗だ。

 

 

 

南船橋駅で下車。キヨスクに立ち寄り、缶ビールを買う。500mlを2本。もちろん、サッポロだ。この季節の酒は恐ろしく、美味い。腰に手を当ててグビリ。グビリ。飲みながら気づいたが、酒を買ったせいで帰りの電車賃が尽きた。まぁ、ヤマト運輸のバイトが終われば、その場で即入金されるので問題なく帰れる。大丈夫だ。


南船橋駅を出てすぐのところにちっさなバスロータリーが。予定通りの送迎バスが来た。ヤマトの定番のマークをつけたマイクロバスだ。乗車するのは僕と知らない人が1人だけ。合ってるのか、これ。


17時ちょうどに扉は閉められ、バスが勢いよく走り出す。運転の荒さっぷりが日本離れしている。きっと海沿いの工場地帯のこの辺りは、一般の車もほとんど通らないからだろう。

 


ワクワクしながら周りを見渡してる僕の姿がよっぽどおかしかったのだろうか。しばらくして先に乗っていた人に声をかけられた。

 


「あら。初めてなんですか?」

 


「あぁっ!そうなんですよ!」

 


よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに僕は、どんなところなんですかー?とか、面白そうてワクワクしてるんですよー!とか小学生レベルの好奇心全開で質問した。


その人は何度もヤマト運輸にバイトに来ているようで、短時間で稼げること、そして華奢な私でも楽に働けるのだと言っていたのを聞いて、安心した。なにかわからないことが有ればなんでも聞いてください。と親切に言ってくれた。


そんな僕らを乗せたヤマトのマイクロバスはセンターにたどり着いた。


薄暗くなった空に、オレンジのスポットライトを浴びた、潮風で錆びついた巨大な倉庫。ヤマト運輸のセンターはどこか南米のジャングルの中にあるコカインでも作ってる工場みたいな面構えをしていた。


入り口にアサルトを抱えてる兵士とか居たらどうしよう。銃で脅されるのはインドのコルカタだけでもう十分だ。


先に降りる人の後ろをついていく。きっとついて行けばなんとかなる。そう直感した。


入り口で検温、消毒。2階に上がると待機所があった。大量のロッカーとベンチ。ここにこれからたくさんの人が来るのだろう。なんか鬱蒼としていて、アメリカの刑務所みたいな乱雑で汚い感じだ。


日雇いバイトの集合時間が18時。少し早く着いてしまったせいで、暇を持て余すところだったが、一緒にバスに乗っていた人と意気投合してずっと楽しく会話できた。


あっという間に18時に。ヤマト運輸の服装をしたスタッフがメガフォン片手に現れた。体のサイズがアメリカナイズされていて、湯婆婆に魔法にかけられた人みたいなボディだった。QRコードを提示してきて、それぞれがスマホでチェックインする。今時のバイトはスマホで勤怠記録を取れるのだ。

 


「では、今日の作業の方の点呼を取ります。」

 


アメリカナイズが1人ずつ名前を呼び、点呼していく。50人のうち半分くらいが日本人、半分は外国人といったところか。松本って名前の奴がやたらと多くて僕入れて4人もいた。そして揃いも揃ってみんな頭悪そうな顔していた。特にあの金髪ロン毛で頭のてっぺんだけ禿げてる、Tシャツに英文字プリントされてる松本ってのがとびきりだ。松本って名前の奴にロクなやつはいない。

 

 

 

アメリカナイズは体重を二本足で支えられないのか、杖をつきながら、はぁはぁと倉庫内でのルールを伝えていく。

 


18時からは時給が発生しているので私語厳禁、携帯の持ち込み禁止、その他素行が悪い人は容赦なく帰ってもらいますから、とか色々説明していたが、僕はマイクロバスに乗ってた人とずっとベラベラ喋り続けていたせいで、めちゃくちゃ怒られた。

 


もう少しで僕もあの杖で魔法にかけられるところだった。仲良く喋ってくれてた人まで一緒に怒られてしまい、なんだか申し訳なかった。

 


二回目以降の人は説明もそこそこに構内に入っていった。30人くらいか。マイクロバスで乗り合わせた人とはここでお別れとなる。

 

 

 

講習が終わり、続いて書類に氏名、遵守事項のチェック、最後に印鑑を捺して終わりだ。

 


周りの20人くらいがそれぞれ印鑑を取り出した時に、僕は大変なことに気がついた。

 


僕は印鑑を持ってきていなかった。思い返せば確かに、募集規約に必ず印鑑を持ってくること、持参してこなかった人は就労出来ずに帰らせます。と書いてあった。太字で。赤線のラインと共に。

 


やばい。僕は真っ青な顔になっていただろう。たぶん。いや、酒入ってるから赤いか。

 


せっかくここまで来たのに。

いや、それも仕方ない。

 


金がないからバイトに来たのに。

いや、それも仕方ない。

 


一番問題なのは、そう。

 


なによりも、働かないと、

帰る電車賃がない。

 


これはまずい。

 


なんで調子のって酒なんぞ買って飲んだんだ。しかも500mlを2本。アホか。

しかも仕事前に飲む量じゃないだろ。

 


印鑑持って無いことがバレたらまずい。

 

 

 

考えろ、考えろ、僕の脳みそ!

少し考えたところで、ハッと閃いた。

そうだ、ここには4人の松本がいるんだ、彼らから印鑑借りればいいんだな。

 


周りを見回すと、4人いたうちの2人は二回目以降だったので作業に行っていたが、あと1人だけ松本と呼ばれていた奴がいた。よりにもよってあの金髪ロン毛英文字ハゲ松本だ。恐る恐る声をかけてると、心よく印鑑を貸してくれた。シャチハタじゃないぞ、認印だぞ。悪用されたらどうするんだこいつ、でもいい奴だな、悪く言ってごめんな、松本。


そう、松本って名前の奴に悪い奴はいないのだ。


あからさまに印鑑借りてるところをアメリカナイズに観られていたせいで、仕事こそ出来るが、完全に「やばい奴」認定されてしまった。

 


アメリカナイズはなんか紙にメモしてるし、スタッフに耳打ちしてるし。ヤマト運輸のバイトにDQNとか永遠のフリーターとかばっかり来ている中の「やばい奴」認定。ある意味誇らしい。

 

こうして僕はなんとかいくつもの試練を乗り越えて、ようやく仕事を開始することが出来たのだ。

 

「では、手続きは以上です。ここからはスタッフが作業場に案内します。着いていってください!」

 


僕ら新人20名は黒縁メガネのスタッフと3階の構内に入った。

 


ムアッと熱気が身体を包み込む。

外よりも暑い。圧倒的な暑さ。真夏の体育館みたいだ。日中の熱気がそのままこもっていて、倉庫内の気温計をちらっとみると26度。外は多分22度くらいか。この暑さは湿度が相当高いようだ。

 


ざっと見渡す感じ、3〜5人の数名ごとのチームに分かれて作業しているみたいだ。チームごとに扇風機が置かれており、首を振って生温い風を送っている。冷暖房なんて無い。底辺っぷりがすごい。うわあ、来るとこまで来たなって感じだ。ペリカで給料払われたらどうしよう。

 


それぞれに安全靴とヘルメットが支給される。安全靴は世の中の人間の怨み嫉みを具現化した臭いがした。


全員がヘルメットと安全靴を着けたところで黒縁メガネのスタッフの指示で名前が呼ばれ、メンバーが二手に分けられた後、作業説明を始めた。


基本的にはベルトコンベアに乗って流れてくる段ボール、梱包の袋のシリアルナンバーを見て、自分の担当する番号だけ取り出して、決められたケースに入れる、というものだ。


あまりにも大量の荷物が流れてるから流石に機械かなにかでベルトコンベアに載せるのだろう。1人あたりのシリアルナンバーの担当の物流はそれほどでないから、簡単そうだ。


だから基本的にぼーっと眺めてはたまにやってくる自分の番号を見定めて取る。これだけである。二回目以降の人たちの動きを見てみると、それぞれ4、5人で固まってはワイワイ、キャアキャアと会話を楽しみながら作業している。底辺ながらも、楽しそうである。


じゃあ今日は色んな人と話しながら仕事を楽しみますか、なんて悠長に構えていた。

 

「ハイ!ミナサン、コッチキテネ」


東南アジア系のやたらと肩幅の広い女性外国人スタッフがカタコトの日本語で手招きする。


二手に分けられたグループの片方だけ呼ばれている。どうやら僕の入ってる班だ。女性外国人スタッフに導かれるままついて行く。


着いた先は先ほどの倉庫から階段を上がった4階だった。明らかに3階より暑い。冷暖房の無い倉庫は露骨に上の階に上がる度に気温が上がっていた。

 


「ミナサンハ、ココデ、シゴトシテモライマス。」


周りを見回すと、明らかにさっきの3階とは雰囲気が違った。一本のベルトコンベアに外国人ががむしゃらに荷物を載せていた。誰も何も喋らず、というか喋る暇もなさそうだ。というか日本人が1人も居ない。全員がナイジェリア系の黒人とかバングラデシュ人みたいな褐色の人だった。扇風機もグループに1つじゃなくて、この階に一個しか無く、監視スタッフに扇風機が向けられているだけだった。

 


圧倒的底辺。

さっきの3階より底辺だ。

 

どうやら、ここには日本語が使えない人とか、「ヤバい奴」認定された人だけが送り込まれる、「地獄」なのであった。


ベルトコンベアの列に並ばされ、一人一人に大量の荷物が詰め込まれたカートを渡される。僕ら新人は作業員の間にそれぞれ並ばされていく。さっき3階で見たベルトコンベアを流れる大量の荷物は、どうやらここで積んでいたのか。機械じゃなくて人力なのか。まじかよ。

 


あとは分かるだろ?ジャップ。ここは日本じゃねえぞ。って顔でスタッフに睨まれた。

 


多分さっきの女性外国人スタッフしか日本語使わないんだろう。僕はひたすら目の前のカートの荷物をベルトコンベアの上に置いていく。カートの中身が空になるとすぐさま次のカートが運ばれてくる。早くやれば終わる、とかでもないらしい。


暑すぎて身体から湯気が出てくる。それなりに急いでいるのに、周りよりやたら僕だけが遅い。なにかが足りないらしい。監視スタッフが後ろで舌打ちする。


左右を見回すと、僕の左手、ベルトコンベアの下流には150センチくらいの小柄なアジア人、右手上流側には190センチくらいのやたら手足の長いアフリカ人。


それぞれの動きを見ていると自信の身体の特性を上手に生かして、アジア人は背が低いなりに一度にたくさんの荷物を持ち上げてベルトコンベアの上で捌いている。アフリカ人は一個ずつだが手のリーチが長いので早い。


自分の身体能力に合った動きが求められる、ということだ。


僕はその2人のどちらでもないので、2、3個の荷を持ち上げてベルトコンベアの上で捌いた。ちょうど2人の中間的な動きだ。この時あまりにもサイズ間の違う荷物を選ぶと置く時にタイムロスしてしまうが、サイズの組み合わせを揃えることでスムーズに置くことが出来る。


単純な作業なのに、あまりにも奥が深い。


しばらくすると、左右の外国人と引けを取らないスピードで捌けるようになった。更には、カートの中の荷物の形、種類ごとにお互いにカートを交換した。大型で個数が少ないカートはアジア人、やたら個数が多くて小物ばかりのカートはアフリカ人、その中間は僕が担当した。僕らは一心同体だった。言葉こそ発しないし、発しても伝わらないのだろうが、お互いが何を考えているのか、お互いに知り尽くしていた。

 

 

集中していると時間の感覚が麻痺する。いつのまにか、バイト終了の時間になった。ベルトコンベアも一度停止した。


三人がお互いを認め合ったからか、アジア人が僕にウインクして、握手してきた。力強い握手。手汗が酷い。しなきゃよかった。

アフリカ人は感極まってハグしてきた。文化の違いか。汗ぐったぐたのシャツが僕の身体に押し付けられた。しなきゃよかった。

相手に合わせて空気を読むのが、日本人なのだ。


チェックアウトのQRコードを読み込み、入金を確認して、倉庫の外へ。

 


夜10時。外はだいぶ涼しくなっていた。あの倉庫内、暑すぎだろ。

 

倉庫の脇に、ヤマトのマイクロバスが止まっていた。これから南船橋駅に送迎してくれるらしい。行きはあれだけ空いていたのに、帰りは大量の人でぎゅうぎゅうだった。相撲取りみたいな体系のモンゴル人に押されて僕は窓際におでこを押し付けるような姿勢で乗った。バスが走りだす。案の定、荒い。猫バスかよ。

 

窓ガラス越しに倉庫が見えた。

外見からしてヤバいところだと思ったが、想像よりヤバいところだった。

それでも言葉を越えたあの彼らとの交流は、きっとここじゃないと経験できないのかもしれなかった。不思議な体験だ。ヤバいけど、悪くない。そう思った。

 

 

千葉と言ったらディズニーランド。

千葉なんて、嫌いだ。

そう思って、諦めていた。

 


でもヤマト運輸の倉庫に来ると、

ディズニーより不思議な体験ができる。

魔法使いもいるし、松本もいる、色んな国籍や色んな個性溢れるキャラクターがいる。国内に居ながら、海外に行ける。

 

そう、ここはヤマト運輸ランドなのだ。

 


千葉と言ったらヤマト運輸ランド。

千葉なんて、嫌いだ。

そう思ってたけど悪くないかもしれない。

 

 


二度と働かないけどね。

そう呟いて、ビールのプルタブを捻った。

 

おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

という始まりの文章だけがメモとして残っていた。

 

 

 

携帯のメモ機能ってのは、まぁとても便利なモノだよね。皆さんはどのように使っているだろうか。僕の場合は、本や広告にあるグッとくる文章をメモしてみたり、今度読んでみようかなって本のタイトルをメモしてみたり、ふっと思いついた文章をメモにしていつか使ってみようとメモしてみたりする。

 


時には酒を飲み過ぎて記憶を飛ばしているにもメモをしていたりして、隠されたもう一人の自分からのメッセージなんじゃないかってくらい意味不明なものも多い。宇宙人からのメッセージのようなものだ。

 


そんなお宝ざっくざくのメモを時折、とても暇なとき、見返したりする。

 

 

 

オタ恋には二次元が必要

学校 マッサージ スーパーオプション 金を取る学生 

 


マジでどういうつもりなのかわからないメモが出てくる。きっと相当酒を呑んで酩酊していたのかもしれない。夢で見たものをそのままメモしたのかもしれないが、さっぱりわからない。

 


他にもいくつもくだらない文章をウダウダと眺めていると、なにやら目を引く文章が。

 


おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

 


明らかに他を凌駕した文章がそこにはあった。なんでおっぱいの形の雲が浮かんだ空が夏の終わりなのか。よくわからないのだけれどなぜかそこには情緒があって、風物がある。「おっぱいの形の雲」があたかも夏から秋への移り変わりの季語の様に使われている。松尾芭蕉もびっくりだ。

 


「いい言葉だ。」

 


僕は、薄暗い部屋の中でスマホの画面に照らされながら独り言を呟いた。ぜひ、このタイトルでブログを書いてみたい。そう思った。この文章から膨らむ妄想の中に肩まで浸かりたい。そしてのぼせ上がってしまって現実に戻れない程に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の鐘が鳴った。放課後の時間。この鐘の音はロンドンのビックベンの音なのだとこの間Twitterで知った。どうでも良かった。

 


クラスメイトがそそくさと部活動を始める為に教室を出て行く。こんなクソ暑いのに白球を追いかけるなんて頭発狂してるんじゃないか、なんてぼんやりと思い眺めながら、そういえば自分は帰宅部だったのだと思い出した。

とっとと家に帰るべきだ。家で勉強などしないので教科書は全て机の中。空っぽのカバンを持って学校を出た。

 


田舎道の長い通学路。セミの声も無くなり、夏の終わりが近いことを感じる。一緒に帰る友達はいなかった。帰宅部なのも、友達がいないのも、集団で群れるのが嫌いだからという言い訳を自分に言い聞かせている。なんとなく、そもそもコミュ障なのだと気付いているのだけど、それは気づかないフリをして生きている。

 


歩きながらスマホの画面を注視する。最近ハマっているアニメは、ラノベから漫画、漫画からアニメと、ヒットする作品の王道を行く人気作品になりつつあった。その作品の中に出てくる「ジェニファー」はいわゆる僕の推しだった。

 


「だった」という表現には理由がある。

漫画の段階でのジェニファーは作画崩壊かと思われる程のアンバランス差を誇る巨乳なのだ。

 


アンバランスという言葉は通常、デメリットな点としての表現に使われがちだが、おっぱいの件に関しては別である。

 


アンダーが大きくておっぱいも大きいのはバランスがとれているが、それは俗に言うデブである。物理法則的に考えると大きい土台の上に大きいおっぱいがあるのはごく自然な話なのだが、それでは魅力がない。細いくびれたアンダーの上にある大きいおっぱいというのが、アンバランスながらにも魅力的なのだということだ。

 


それは時に非合理的なものかもしれないが、アートであり、SFなのである。太陽の塔なんかもあんな非合理的で生産性のないもので、岡本的に言えば「芸術は爆発だ!」みたいな感じなのだ。だから僕的に言うと「芸術は爆乳だ!」となる。

 


ちなみに乳首に関しては実際なんでも良い。それは目の無いダルマのようなものだ。物事を成し遂げて達成した時にダルマに二つ黒目を描くが、その黒目自体にはなんの意味もなく、物事を成し遂げたプロセスに意味がある。だから乳首はなんでもいい。

 


少し話がそれたが、そんな、アートであり、SFなおっぱいの持ち主であるジェニファーが、なんと漫画からアニメ化する際、過激な表現を抑えるという名目でおっぱいがかなり縮小されてしまっているのだ。もはや作画崩壊でもなく、標準のおっぱい、普通のおっぱいを持つ女性、Woman with ordinary boobs

になってしまったのだ。

だから、僕はジェニファーのことを、推し「だった」と言わざるを得ないのである。

 

 

 

ふぅ、とため息を吐き、画面から顔をあげると、いつもと全く違う景色が広がっていた。田舎道を歩いていたはずなのに、いつのまにか舗装が整った人のごった返す街並みが広がっている。まるでSFみたいだ、と思いながら知らない道をひたひたと歩く。なんとなくそっちに行けば、駅とかあるんじゃないかと期待を持ちながら。

 


しばらく歩いていると街は期待に応えることなく、どこまでも路地が続いた。駅も、大通りもない。次第に夕暮れに近づき、夜を待ちきれないかの様に路地に怪しいネオンの光が輝きだした。所々にスーツ姿の男が立っていて、鴨が葱を背負って来るのをじっと待っていた。僕の体裁はどうにも金の無さそうな格好なので、ありがたいことに誰からも声はかけられなかった。

 


「オニイサン、オニイサン。」

 


外国人の女の声が聞こえる。どうやら、僕に声をかけているらしかった。無視すればよかったのに、このときはなぜだか振り向いてしまった。声をかけてきたのは20歳くらいの若い外国人だった。

「オニイサン、マッサージドウ?」

 


「あ、いや、大丈夫。」

 


「オニイサン、キモチイイモアルヨ」

 


「いやいや、大丈夫。」

 


「スッゴイバクニュウノコモイルヨ」

 


「えっ!まじで!?」

 


バクニュウ、と言われてしまっては仕方ない。僕は外国人のお姉さんに腕を引かれながら雑居ビルの中に入っていく。ネオンの街並みが視界から途切れ、薄汚い蛍光灯に照らされた階段を登っていく。三階だろうか、外国人の女がピンクの汚い扉を開けて中に入り、手招きしてくる。一瞬、戸惑ったが、「スッゴイバクニュウノコモイルヨ」の言葉が脳裏に焼き付いているものだから、引き下がることはできなかった。

 


勧められた椅子に座り、出てきたお茶を啜る。どこの国だかわからない味のお茶の中に茶柱が立っていた。吉兆か?さっきの外国人の女とは別の、外国人の男が数枚のカードを持ってテーブルの向かいに座った。

 


「スキナコヲ、エランデネ」

 


まるで遊戯王カードの様に並べられた5枚のカード。そこには、いかにもってくらいのパネマジ(詐欺写真)な美女が写っていた。加工がすごくてもはやどの子にも特徴の差が見受けられなかった。ううん。どれにしよう。そうだ、バクニュウを聞かなければ。

 


「この中で1番爆乳の子は??」

 


「オオ、オニイサンサスガネ。ソレナラコノコガイイヨ」

 


5枚のうち真ん中のカードの子を男は指した。

 


金髪のブロンドヘアーの子はいまにも「ラックススーパーリッチシャイン」を発音の良い言葉で言いそうな顔だ。この子に決めた。

 


男に財布のなけなしの金を渡した。

ショウショウオマチクダサイ。と言われ、しばらく椅子に座って待つ。数分もしないうちに男に呼ばれた。僕は男に続いて怪しさ満点の廊下を歩いた。

 


「コチラデスドウゾ」

 


緊張の瞬間。

 


もうカードは選び直せない。

 


やり直しは効かない。

まさに人生そのもの。

 


促された扉を開けた。

 

 

 

そこに居たのは写真とはとてもにも似つかない程のブサイクデブ女が見事な仁王立ちを決めて立っていた。ラスボスの中のラスボス。圧倒的ラスボス。地球を大陸ごとに分割したときのアジア大陸のトップみたいなラスボス。もう僕は泣きたいを通り越してただ笑っていた。ははは。

 


恐怖で笑い出す膝を押さえながら、部屋に置かれた小汚いベットに腰掛けた。ラスボスが近寄ってくる。写真と全く違うじゃないか!でも爆乳であることは間違いなかった。

 


「ワタシ、ジェニファー、デス。ヨロシクネ。」

 

 

 

これはもう、神様のいたずらに違いない。よりにもよって推しだったジェニファーとおんなじ名前だなんて。背筋に冷たい汗が一筋流れた。なんてこった。

 


「あ、ああ。よろしくね。」

僕は朧げな思考の中、かろうじて会話を繋いだ。

 


「ワタシ、ガクセイ。オカネナイノ。」

 


JKとかとはかけ離れた図体のジェニファーが自身は学生なのだとほざいている。

 


このまま帰ってしまおうか。と思ったのだが、なけなしの金を払ってしまった今、このまま帰るのはあまりにも忍びなかった。だからといって、この目の前のジェニファーに何かを期待することがどれだけ愚かなのかも、勿論わかっていた。思考の泥沼。

 


僕の隠しきれない動揺を感じとったのだろう。

 


「オニイサン、マッサージダケデモイイヨ。」

 


そう提案してきた。なるほど。あの発達した腕の筋肉、マッサージには最適かもしれない。ラスボスも行為を致すとなるとなかなか渋いが、所詮整体師だと思えばなんでもない。じゃあお願いします。と言ってベットに横になると、ジェニファーはいきなり僕の股間を触ってきた。なんだこのババア。普通のマッサージだと思ったのに完全に狙ってきてやがる。絶対に屈しないぞ、屈しないぞ、、、屈し、、。

 


僕のそんな思いとは裏腹に、僕の股間は素直にむくむくと膨らんでしまった。目の前のジェニファーは完全に化け物なのだが、いかんせんテクニックがすごかった。まるで一つの意思を持った手のひらで僕の股間に呼応していく。脈打つ股間が熱くなる。

 


「スーパーオプション、アルヨ。オニイサン。」

 


ジェニファーが耳元で囁く。もうこの時にはすでに僕はこの環境に順応していていた。目を閉じて視界を遮断し、僕の理想の、推しのジェニファーを妄想の中で展開、構築していた。完全に推しのジェニファーに僕の股間を触られているのだ。それはまるで、昔、日本で行われたキリスト教弾圧の際、逆さ吊りで目隠しをされたキリスト教信者が苦痛の果てに暗闇の中から現れた神を見出した心境に酷似していた。

 


「スーパーオプション、お願いします。」

 


そう、僕は小さく、言い放った。

 


僕は財布とは別にしていた、上着の中のお金に手を伸ばした。緊急を要する際のために隠してある、非常用の金だ。諭吉が微笑んでいた。ジェニファーは金を受け取るとそそくさと大切そうに枕元の簡易の金庫に閉まった。

 


「ジャア、ハジメマスヨー。」

 


僕は目を閉じた。閉じた瞼の暗闇が、何故だか心地よかった。

 


ぼんやりとした意識。暗闇の向こう側に、神がいるのを感じた。

 

 

 

股間にヌルっとした感触。完全に意識の中で構築した、推しのジェニファーの中に、僕は今、入っている。

 


数分もしないうちに、僕は推しのジェニファーの中で果てていた。愉悦。それと入れ替わるように襲いかかる、現実。そう、目を開けると、現実が待っているのだ。それを受け入れるのには、勇気が必要だ。

 


そっと、目を開けた。

 


そこには化け物が僕の股間をヌルヌルした手で握っている姿だった。スーパーオプションという名の手コキで、僕の諭吉は天に昇ったのだ。

 


そそくさと服を着た。無言。誤魔化すような会話をする気にもなれなかった。店を出るときにあの店員の男に一瞥をくれてやろうと思っていたが、彼の姿はなかった。

 

 

 

雑居ビルを出た。頬に少しだけ冷たい風が当たった。

見知らぬ通りを、家に向かって歩き出した。

夕日がこんなに綺麗だと思ったのは、初めてかもしれない。

あの、瞼の裏にいた神様の存在を感じて、空を見た。

そこには、雲が浮かんでいた。おっぱいの形だった。

 

 

 

おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

 

 

 

Pokemon LEGENDS と湯島のダイアモンド&パール

ポケモンマスターに、俺はなる!

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 というセリフでお馴染みの大人気ゲーム『ポケットモンスター』の新情報が2月27日、ポケモン公式YouTubeチャンネルで発表。

2006年9月に発売されたニンテンドーDS用ソフト「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」のリメイク版『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド』『ポケットモンスター シャイニングパール』が、ニンテンドースイッチにて今冬に発売されることが明かされた。

また、新作『Pokemon LEGENDS アルセウス』が2022年初頭にニンテンドースイッチで発売されることも発表された。

 

そんなニューストピックスをスマホでチラリと覗きながら、僕は角ハイボールを流し込んだ。

コロナだの自粛だのと騒がれている昨今からは想像も付かないような賑わいをみせる東京、上野。

アメ横の市場には沢山の旅行客から地元の人間、ケバブ売り付けてくるトルコ人(多分パキスタン人)がひしめき合う。

アジアの熱気が大好きな僕にとっては国内で手軽に来れるこの場所が大好きだ。

そんなアメ横の一角にある萎びた名もない居酒屋で、酒の飲み過ぎで萎びた僕と萎びたメザシの頭にかぶりつく職場の先輩。僕が空になった角ハイボールのグラスを手に掲げると気の利いた中国人の従業員がスっと新たな角ハイボールを持ってくる。

先輩のビールの進みがいつもよりだいぶ遅いことに気がついた。もしかして具合でも悪いのだろうか?僕は先輩に尋ねた。

 

「サトシさん(仮名)、体調でも悪いんですか?」

 

『ううん、いや、違うんだ。、、実はな、』

 

少しの奇妙な間が空いた。緊張感。耐え切れなくなり角ハイボールを啜る。

 

『実は、最近これがダメなんだ。』

 

そう呟くサトシさんがおもむろにポケットから取り出したのは、なんとゲームボーイゲームボーイポケット)だった。

1996年に任天堂から発売された、もう25年も前のゲーム機である。深刻な顔をしてなに言ってんだこの人。そう思っていると、更に話が始まった。

 

『もう少し!もう少しなんだ!なのに、ポケモン図鑑が完成しない。』

 

サトシさんの握っていたメザシの胴体が、手の内からするりと力なく抜け落ち、油ぎった店内の床に落ちた。未来が見えないんだって言い出しそうなくらい絶望的な顔をしていた。

 

ポケットモンスター、すなわち‘‘ポケモン‘‘について知らない方の為に軽く説明させて頂く。あるインフラの整っていない町の青少年の主人公が近所の老人科学者にそそのかされて、野生に生息する動物を無作為に捕獲し、調教する。その生き物をポケットモンスター(懐に所有する生物)と呼び、その所有者をトレーナーと呼ぶ。そしてトレーナー同士でお互いに調教の済んでいるポケモン同士を互いに怨恨も無いままに戦わせる。そうして自分のポケモンがあいてを倒せば勝ちであり、金品の授受やジムマスターとしての地位が与えられる。そして全国に生息するポケモンを全て捕獲し図鑑上にある生物を全てコンプリートすることを‘’ポケモンマスター‘’と呼ぶ。完全に人類至上主義的で道徳心の無い作品だと僕個人は認識しているが、とても人気の高いゲームだ。

サトシさんが持っているのはそのポケモンシリーズでも初期のゲームのポケモン緑だ。

 

「えっどうしてですか?図鑑が完成しないなんて。」

 

『最近、実はな、興味がなくなってしまったんだ。後もう少しのところまでポケモンのレベル上げでの進化から、他のカセットとの通信交換、そこまでも完璧な計算の上でこなしていたのに、図鑑完成間際で、完成させる気がなくなってしまったんだ。だったらやらなきゃ良いだけなのに、やらないといけない気になっていつもどうしてもゲームボーイを持ち歩いてしまうんだ。』

 

おそらく誰もが一度は経験しているかもしれない。

慌ただしく取り組み続けた職場でのプロジェクトが完成間際になって、なんだか気が抜けてしまったり。

試験前日になって試験勉強に身が入らなかったりするときのように。

写真がすごい可愛くて指名して散々待合室で待たされた挙句に地雷嬢を引いてしまったときのように(これは違うか)。

ゴールが見えたことでの気の緩みなのか、はたまたゴールが見えてしまったことで起きる強烈な虚無感、、、くだらないと感じてしまう気持ち。もしかしたらそんな感情をサトシさんは無意識の中で感じているのではないか。

 

更には‘’完璧にクリアしなければいけない‘’という完璧主義のようなもの、例えば読んでいて途中でつまらなく感じる小説も、半ば義務感のような気持ちで最後まで読み切ろうとする気持ちとか、

少しだけ掃除するつもりが止まらなくなり家中の掃除をしてしまったりする時の気持ちとか、

風俗で射精するタイミングを間違えて結構プレイ時間が残ったものの頑張って賢者タイムなのに風俗嬢とトークしてみたり(これも違うか)。

 

そんな煮え切らない感情も合い重なっているのではないか。

 

そうだったのか。サトシさんは苦境に立たされているのか。そんな心境の中にいるのにこんな僕なんかの誘いで一緒にこんな萎びた居酒屋で酒を一緒に飲んでいてくれていたなんて。感謝しかない。

 

僕が、サトシさんを助けないと。

うん、まずはサトシさんが抱いている完璧主義、これを打ち砕いてしまえば、ポケモン緑のポケモン図鑑コンプリートを辞めることへの罪の意識も無くなるんじゃないか。

今時ゲームボーイなんかやってたってなんの意味もないってこと、教えてあげるんだ。よし、それで行こう。

 

「サトシさん」

 

項垂れるサトシさんがテーブルから顔を上げた。

 

ポケモン、また新しいソフトが出るみたいですね!なんでも、リメイク版だとか、」

 

『…。』

 

「サトシさん。人も、時代も進化し続けています。そして、ゲームも。勿論、昔のゲームが面白いことはわかりますが、ずっとそこに固執していては前に進めないのではないでしょうか。ポケモン緑を完全に攻略する事よりも、まだプレイしたことのないゲームに挑戦することの方が良いのではないですか?」

 

しばらくの沈黙。サトシさんは手に握りしめたビールのジョッキを持ち上げ、ひと思いに喉に流し込んだ。口に白い髭をつけながら、答えた。

 

『そうだな。その通りだ。過去にしがみつく必要など、ないのだ。』

 

にっこり笑うサトシさんの顔はまるで少年のようだった。まあ、悩む内容がかなり少年すぎるのだが。

それから僕らは、次にやりたいゲームは何か?の話題に入った。やはり、ポケモンの他のシリーズが良いのでは?という結論に至った。

 

『俺、新作のポケモンがしたいんだ。あの、ダイアモンドとパールのリメイク。』

 

「うーん、しかし発売はまだ先ですよ。確か来年ですよ。」

 

せっかく、サトシさんの気持ちを晴らすことができたというのに、現実は厳しい。あの少年のように笑ったサトシさんの表情がだんだんと翳り出した。このままでは大変だ。

とりあえず、飲んで盛り上がりましょうよ!そう声をかけようとした、そのときだった。隣にいたおっさん連中の会話にある興味深いワードが浮上したのである。

 

おっさんA「そうそう、初めてだったんだよ、ダイアモンド。最高だったよ。」

 

おっさんB「そうだろ?ゲヘヘ。最後までできるもんな。」

 

ダイアモンド!??その言葉を耳にした僕らは驚き、互いに顔を見合った。間違いない。確かに言った。ダイアモンドと。一応尋ねてみる。

 

「えっ、すいません。ダイアモンドって知ってるんですか?」

 

おっさんB「え?知ってるよ。ダイアモンドとな、パールって言うんだ。新しくできたんだ。ゲヘヘ」

 

ダイアモンドにパール。そして新作ということが的中。このおっさん連中の話はポケモンで間違いないらしい。そして何故か、このおっさん連中はすでに発売前なのにプレイしているらしい。でも何故だ!!?もしかして、発売前の体験版とかそういうやつを軽くプレイしただけなのか?謎に包まれていると、遂にサトシさんがグイッと身を乗り出して尋ねた。

 

『もうプレイってしてるんですか?』

 

おっさんA「ウヘヘ、もちのろんよ。ダイアモンドはプレイしたから、今度はパールだな。」

 

「ちなみに、それっておためしだけってやつですか?ソフトですか?」

 

おっさんA「なぁに言ってんのよ兄ちゃん。そんなので満足するわけないでしょ!モ・チ・ロ・ン最後までプレイしたわい!まあ、ハードかソフトかっていうとソフトだね。」

 

ここまで凄い情報を手に入れてしまった僕とサトシさんはもう、鼻血でも噴き出さんばかりの大興奮状態になった。

お試しのサンプルダウンロードとかじゃない。最後までプレイできるのだ。そしてSwitchとかのハードにダウンロードしたのじゃない、ソフト版だそうだ。

こりゃあもう、何がなんでもプレイするしかない!ポケモンマスターになれる!と意気込むサトシさんは生気に満ち溢れていた。

 

『おっさん!!すまん、ぜひ俺にも教えてくれ!!』

 

おっさんB「ゲヘヘ。若いもんは元気だねぇ。じゃあ今からついてきな!」

 

そう言って居酒屋を出るおっさん二人。え?出るってどういうことだ?

 

「え?どこに行くんですか?」

 

おっさんA「どこって、あたりめえだろ!買いに行くんだよ!湯島にある!」

 

なるほど。手に入る店が湯島にあるということか。それなら販売店の場所はゆっくりGoogleマップで調べながら角ハイボールの残りでも飲みますか!なんて思ったときだった。サトシさんがいきなり立ち上がった。

 

 

『俺は、いく。』

 

「えっ、お酒、飲んでから行きませんか!?」

 

『いやいいんだ。酒よりも大事なことがあるんだ。』

 

「えっ、それって…。」

 

ポケモンマスターに、俺はなる!』

 

そう言い残したサトシさんは飲み代をテーブルの上に置き、おっさん連中の後を追っていった。

 

飲みかけのビール。千切れたメザシ。埃っぽい店内に残る僕。

 

あの歳で『ポケモンマスターに、俺はなる!』はだいぶ問題があるが、それでも目標に向かって進んでいくサトシさんの後ろ姿は、カッコよかった。角ハイボールが美味しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数週間が過ぎた。久しぶりに上野、アメ横で会ったサトシさんはとても和かな表情だった。

萎びた居酒屋で乾杯をし、あれからの様子を聴いてみた。

 

おっさん連中がサトシさんを連れて行ったのは、湯島にある「ダイアモンド」「パール」という名前の中国人エロマッサージ店(いわゆるチョンのま)だったらしい。

お店が改装されて「新しく」なり、ハードかソフトかっていうとソフトなサービスらしい。

そしてモ・チ・ロ・ン最後まで(本番行為)プレイ出来てしまうのだとか。

買いに行く、というのは、「女を」買いに行くということだったのだ。

なるほど。おっさん連中との会話が絶妙に噛み合った、ということだ。

結果としてポケモンがプレイできなかったのだが、現在のサトシさんは湯島の「ダイアモンド」「パール」に連日のように通いつづけて遂に、店の中国人女性全員と遊んだ。サトシさんはやはり、完璧主義者だったのだ。巷では『湯島のポケモンマスター』とまで称されているらしい。

 

「すごいですね、サトシさん。湯島のポケモンマスターだなんて。…お店の女の子制覇した今、これからはどうするんですか?」

 

意気揚々と生ビールを飲み干すサトシさん。自信に満ち溢れている。

 

『そうだな。他の地方のポケモンも制覇しないとな。東京だけでもまだまだ店はゴマンとある。』

 

「えぇ‼︎?それってつまり…」

 

ポケモンマスターに、俺はなる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕たちはあいみょんを抱けない

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「僕はあいみょんを抱けない。」

 

 

日曜日。曇り空。昼の居酒屋。少し薄暗い店内にまばらな客。その中に僕の声明が響いた。

 

人生において何の接点もない老若男女がこの居酒屋にランダムに集い、そして僕の「あいみょん」を「抱けない」という声が鼓膜を伝い、海馬に焼き付かれながら酒を流し込む。

彼らは勿論、好んで僕の情報を聴いた訳じゃない。知り合いでもなんでもなく、同じタイミングに店に居合わせただけだ。

そして僕の声のボリュームが酒の勢いを借りて大きくなっているからで、無理矢理「聴かされた」のである。これはもう、レイプなのかもしれない。一緒にレモンサワーを飲んでいる友人は僕のこの声明に対し、意を唱えた。

 

「何故だ?俺は抱けるぞ、あいみょん。可愛いじゃないか。」

 

「声に騙されるな。」僕はすぐさま反論した。あいみょんは聴くと可愛いかもしれないが顔はブスだ。騙されちゃあいけない。思わず酒を握る手に力がこもる。だいたい、映像やら写真で載ってるあいみょんってのはな、加工されたあいみょんなんだぞ。無加工のあいみょんなんてな、あいみょんなんて呼べないんだからな。
そうだな、例えば、酔った勢いで無料案内所に入ったとしよう。店のスタッフのツーブロックヤンキー感のあるおっさんが声をかけてくるんだ。「オススメはこのパイズリ女子学園の新規入店の子、『あいみょん』ちゃんですね。スタイル良し、ルックス良し、サービスはものすごく良いです。」なんて言われるんだ。うん、なるほどね、じゃあ『あいみょん』ちゃんでお願いします。60分15000円で。って返事する。近くのラブホテルを紹介されて、部屋に入ったらこの番号に電話して下さいって言われて紙を渡されて案内所を出るんだ。言われたとおりにホテルに入って電話するんだ。「あいみょんちゃん指名で60分の者です。ホテルZEROの203号室です。」「わかりました!あと5分程で女の子が到着します。」そして電話を切る。あぁ、とっても可愛い子が来るんだろうな、スタイルも良いって言ってたしな、どんなサービスされちゃうんだろう!なんてどんどん妄想も股間も膨らんで、あいみょんあいみょん口ずさんだところで、鳴るわけだよ。チャイムが。軽くステップ踏みながらはいっはーいって言ってドアを開けると、あれ?どなた?ってなる訳だ。そこにいたのはただのブス。おっぱいは洗濯板。そして余計に「みょん」がブスとのコントラストを加速させるんだ。どうしてくれるんだ。返してくれ僕の15000円。返してくれ僕のお金では買えない60分。まぁ結局することはするんだが。

 

「という訳だよ。」

 

「意味わからん。」

 

「つまりだね、『みょん』はダメなんだ。」

 

「それは把握した。」

 

熱く語って乾いた喉にレモンサワーを流し込む。氷もほぼ溶け切ってしまい薄まったレモンサワー。グラスを空けて店員を呼んだ。結構なブスがグラスを運んでいった。あれが『○○みょん』だったら、ただじゃおかない。

「これだけ説明してもお前は抱けるのか?あいみょんを。」

「俺は、抱ける。」
彼はぐいっとグラスを傾けて、空にしたグラスをテーブルに置き、語り出した…。
.

.

.


渋谷、道玄坂。コロナの恐怖の渦の中から少しずつ、過去の賑わいが戻りだしてきた今日、俺は道玄坂の坂を上がっていた。そう、目的があったからだ。普段は人混みの喧騒なんて避けて陰日向で生きてきた俺にはこんな場所は似合わない。だが、目的があれば、やむを得ないだろう。

ラブホテルに入ったことを電話で店員に伝える。予約はすでにネットで済ませているから、俺はシャワーを浴びて待つだけだ。シャワーを浴びた頃を見計らうようにチャイムが鳴る。こちらが開けることもなく、相手がドアを開けた。あいみょんだ。

「今日も呼んでくれたんだね、ありがとう。」

俺には分かる。今日のあいみょんは様子がおかしいと。混沌とした意識の中から絞り出した作られた笑顔は、余りにも違和感があったからだ。いくら隠したつもりでも、俺には分かる。

「…。」

「どうしたの?」

まぁ、ちょっと横に来てくれ。と言って、あいみょんとベッドの縁に並んで腰掛けた。あいみょんには似合わない少し派手目な洋服から突き出した細い腕。白い肌。僅かに震えている。

「…なにか、あったのか?」

「…うん、実は、」

そう言ってあいみょんはゆっくりと語りだした。
あいみょんがこのパイズリ女子学園に入店してから一か月程が経ったころ、お店の雰囲気が変わっていったらしい。最初の頃はお店に新しく入ってきた新人の女の子としてそれなりに指名で客が入ってきたのだが、一か月も経つとだんだんと客がつかなくなった。しかもお店には更に新しい女の子が次々と入店する為、あいみょんが指名される機会も減っていった。一日中待機室で待ち続けた挙句、お茶を引いて帰る日もあった。見てはいけないと思いつつもインターネットの爆サイでパイズリ女子学園のレスを調べてみると、『15000円返せ』とか、『60分は返ってこない』とか、『みょんはイカンだろ』みたいなコメントが羅列していた。ショックだった。それに、「売れない女の子」に対するスタッフの対応もだんだんと冷ややかなものになっていき、キャスト同士の陰湿なイジメも繰り返された。
それでもあいみょんは耐えた。なぜならあいみょんは多額の奨学金を使って入った音楽専門学校の支払いが残っており、水商売でもしないと払うことも生活もままならない状態だったからだ。親の反対を押し切り飛び出して上京。それでも両親のことを裏切るつもりはないから、奨学金を踏み倒す手段も取れなかった。だからこそ、こうして水商売で働くしかなかった。なんの為に音楽専門学校に通ったのか。なんの為に払った学費だったのか。そんなことすら考える思考も停止していた。私はもう、死ぬしかないのだろうか…。

 

そんな過去があったのか。俺は驚いた。何度も何度もホテヘルに通ってあいみょんと何度も会ったのに、一度もそんな過去は垣間見ることが無かっただけに、衝撃的だった。俺が、あいみょんを助けてあげないと。

すっと、あいみょんの頬から涙が伝い、白い手の甲に落ち、細かく弾けた。それを目で追ったとき、俺は決心したんだ。


あいみょん、俺と一緒に住もう。そしてこんな仕事辞めて、まともな仕事に着くんだ。確かに、給料は減るかもしれない。だけど、俺の稼ぎもあるから、奨学金はなんとかなる。こんなあいみょんの姿、両親が知ったら悲しむぞ。だからいまからお店を辞めてこのまま一緒に逃げよう!!」


「無理です。」

.

.

.

.

 

「という訳だ。俺は抱けるんだ。あいみょんを。」

「意味わからん。」

「つまりだね、爆サイの書き込みは人を傷つけるんだよ。」

「それは把握した。」


2人でレモンサワーを頼み、ブスが運んでくる。自然と乾杯した。

あいみょんを抱けるか。抱けないか。それは善と悪の様に極端なものでは決してないということだ。抱くという行為は単に一つのプレイとして定義するのではなく、人間と人間、思想と思想といった相互の意識の交わりあいなのではないだろうか。抱くという行為そのものよりも、もっと深い意識の中に本当の答があるのだ。


居酒屋に流れる有線のJ-POPが偶然変わって、あいみょんの「マリーゴールド」が流れ出した。

あいみょんもやっと風俗あがったんやなぁ。奨学金きっとこれで払えたんやなぁ。そう思いを馳せた僕と友人の頬を、ゆっくりと涙が流れた。

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 9

 

1月6日。

西成の光と闇をずいぶんと満喫したこの数日を振り返りながら目が覚めた。今日も二日酔い。鉄格子がクネクネと、砂漠の陽炎のようにうねるのをみながら、あぁ、昨日も飲み過ぎた。と後悔の念が押し寄せた。

 

もう正月も明けてしまった。

朝6時。外に出ると沢山の労働者の格好をしたオッサンが9割、若者と外国人が1割くらいいた。

 

「日当10000円!昼飯付き!」とか、「宿あります!」と手書きで書かれたダンボールをフロントガラスに貼り付けたハイエースの車がゾロゾロと路上に列をなし、その車に沢山のオッサンが吸い込まれていった。

 

正月は明けたのだ。

 

いくら西成に馴染んできた!とは言っても、結局僕は蚊帳の外の人間であって、もう数日経つと東京に戻って仕事をしなければいけない。仕事も生活も安定した人間の、所詮は束の間の放浪なのであった。

 

よし、そろそろ帰ろうか。そう思って財布に入れていた青春18きっぷを取り出し、、、

 

あれ?、、無い?

 

そうだった。僕が買ったのは2日分の青春18きっぷなので、もう使い果たしていたのであった。どうしよう。

 

ヒッチハイクという手段も脳裏によぎったが、辞めた。どうせこの時期に大阪から東京方面を目指そうとすると一般の車はなかなか捕まらず、長距離トラックのオッサンで妥協する羽目になるのだ。

 

以前、東京の環状8号線から大阪までヒッチハイクを決行したことがあった。色んな人との交流、とか、様々な土地での感動、とか想像して始めたが、すぐ止まって乗せてくれたのが長距離トラックで、無言の6時間を過ごしてストレートに大阪まで着いたのだ。せめて運転手との交流を、と喋ってみたが、「うるせえ奴は嫌いだ。」と一言言われ、撃沈した。あんな思いはもうしたくない。

 

仕方ない、飛行機でもさがしますかな、とネットで調べてみると、あら不思議!正月明けだからか、格安で東京行きがあったのだ。しかも天下のJAL航空。そして極め付けの羽田空港行き。こりゃあみっけもんだぜぐふふふ。僕は早速昼の14時30発のJAL120便を購入した。ラッキーである。

 

そうと決まればドヤに戻り、荷物をまとめた。二日酔いが抜けるまで少しの間横になった。2、3時間ほど寝た後起きるとだいぶ良くなってきたので、西成で最後の飯を食べることにした。もちろん、マルフクだ。

 

マルフクでホルモン焼きを買い、テイクアウトした。その後に並びにある弁当屋で白飯を買うことに。弁当屋で白飯を頼むと、普通かやわらかいのどっちか選べと言われた。何故そんな二択があるのかと店主のおばちゃんに尋ねると、「歯がない客もいっぱいおるんやで!」とのことだった。どうやらやわらかいにすると、お粥をくれるらしい。そうか、西成だもんな、と思いつつもおばちゃんの優しさが垣間見えた。

 

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マルフクのホルモン焼きと弁当屋の白飯のコンビを路上に腰掛けて食べた。最高に美味い朝飯。愛情たっぷりの朝飯。

 

 

 

 

朝飯をぺろっと平らげたところで、そろそろ西成をおさらばする時間になった。町をペタペタと歩きながらドヤに荷物を取りに行く。

 

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まさにこの西成を象徴するようなプーさんが木に吊るされていた。汚くて、酒ばかり飲んでいて、どうしようもない人々。本当にどうしようもない。でも彼らには彼らなりの日常があり、幸せな日々を謳歌している。そんな西成のオッサン達がたまらなく好きであり、また来たいと思う町である。

 

リュックを背負い、電車に乗った。離れていく西成。ここに数日居たのか?と思えてくるほど呆気なく町並みは通り過ぎていき、程なくしてバスに乗り換え、空港についた。

 

大阪国際空港、又の名を伊丹空港とやらにたどり着いた。かなり綺麗な空港で、1時間ほど前まで路上で飯食ってた奴がいて良いのだろうか、と思わせられる程の清潔感であった。

 

クレジットカードの特典でラウンジに入り、小一時間時間を潰し、手荷物検査やらなんやらを通過して搭乗口へ。飛行機を待つ沢山の人の姿があった。ほとんどがサラリーマン達で、訝しげに腕時計を睨んだり、脚を組み替えたりしている。

 

2時半を過ぎた。が、搭乗の案内は無い。

しばらくしてアナウンスが流れた。

 

「14時30分発予定のJAL120便は、欠航致しました。誠に申し訳ありません。」

 

騒然となる搭乗口。苛立ったサラリーマン達がゾロゾロと出口に向かっていく。どうやら、飛行機のメンテナンス上の問題で、欠航となったらしい。

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空港の受付まで戻り、キャンセル手続きの行列に並んだ。

 

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皆、ものすごい形相で並んでいた。「仕事の大事な会議があるんだぞ!!!」とか、「私の時間を返して!」なんて怒号が響いていた。

 

そんな列に並んでいて、ふと、西成で炊き出しに並ぶ行列を思い出していた。

 

仕事の会議どころか仕事もないオッサン。

 

私の時間なんてむしろあげるよくらいのニコニコしたオッサン。

 

あの行列には、ここにいる人たちの様な経済的豊かさは微塵もないが、ここの人達のように、何かに追われたり、怒号をあげる人はいなかった。あの西成のオッサン達の方が、人生を幸せに生きているんじゃないか?とも思えてくる。

 

しばらく待った後、ようやく受付にたどり着いた。どうやらキャンセルの代わりに新大阪駅までのバス代と、新幹線代を出して貰えるようだ。ありがたや。

 

空港からバスに乗り、新大阪駅へ。

新幹線の時間まではまだ多少時間があるので、たこ焼きとビールを買い、胃袋に流し込んだ。そして滑り込んでくる新幹線にそのまま乗車。

 

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飛行機のキャンセルになった人が結構、この新幹線に乗っていた。そして新幹線に乗ってもなお、怒り心頭の人達の姿がいた。顔を真っ赤にしていた。西成のアル中みたいだ。だけどこっちは怒ってる。可哀想な人だと思った。新幹線はゆっくりと動き出し、僕の身体がそれに合わせて加速していった。

 

東京に帰るのだ。

 

 

今回、二度目の青春18きっぷ旅行で、熊本、大阪間を移動した。およそ移動時間が20時間。

 

こんなことする奴は狂ってる。

 

そう言われた。

まぁ本望だけども。

 

でも、それでも良かったと思える心境の変化が僕にはあった。

 

飛行機で大阪伊丹から東京羽田までおよそ1時間半。たしかにそれに比べたらたしかに新幹線は遅い。リムジンバスで新大阪、そこから乗り換えて新幹線。およそ3時間半。

 

 

でも、3時間半でも充分早くないだろうか?

 

これが青春18きっぷで鈍行で行くと9時間23分かかる。

 

魔の静岡県を通り、東京にたどり着くころには日付が変わっている。でも普通に考えてみてほしい。

 

これって遅くないのではないか?

 

 

556キロ。これを1時間、2時間で移動したいとか、時間通りに運航しろってのは単純に人間のエゴだとも思う。

 

多分JAL120便欠航した人の中で僕だけが、


「新幹線、めっちゃ早え!」

 

って思っているはず。

仕事があるから早く帰らないとダメなんだ、とか言う人達はきっと普段から仕事に人生を振り回されている。

 

時間がかかるとイライラするとか言う人達は単に心に余裕がない。

 

それに対して、仕事に責任感が無いとか、暇人なんだろとか、反論されても構わない。だってそんな人間になるくらいなら狂ってる人でいたい。

 

時間をあえて掛けて鈍行で旅をすると、色んなものがみえてくる。

 

例えば、様々な街並みが見えてきて、そこに住む人達に思いを馳せたり。

 

ゆっくりと瀬戸内海を車窓から眺めたりできる。

 

駅で途中下車して近くの屋台のおでん屋で酒を少々、とか。

 

降りた町で公園でヤンキーに絡まれたりフェラチオ見たかったなとか。

 

普段の生活がいかに狭い視野で、喜怒哀楽、ストレスに振り回されていたことか。そんなこと気にしない気にしない。

と心の豊かさが湧いてくる。

でも、きっと偉そうに言う僕だって、日常に戻ればまた時間にせっかちになり、仕事に振り回される日が始まる。

 

それでも、いまのこの心境を忘れちゃあイカンとばい。と胸に刻んだ。

 

新幹線の車窓から外をみた。

 

流れていく美しい日本の景色。

 

やっぱり、速いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 8

 


「おうー!あんちゃんマルフクにおったやん!!」

 


はまちゃんの声はボリューム調整のつまみが壊れたラジオみたいなデカさだ。とりあえず僕のピンクジャケットではまちゃんも僕のことを思い出してくれたらしい。ぼくとはまちゃんの意外な関係性を知った東さんはかなりビビってしまった。

 


「お、おめえ、はまさんと知り合いだったのか!」

 


それならそうと早く言えとかなんとか言いながら冷や汗をかく東さん。とりあえず東さんのオラオラは治った。が、逆にこの西成ブリーチははまちゃんがどういう人なのか、どうして東さんがいきなり怒るのをやめてしまったのか、色々と分からなかった様だ。

 

西成ブリーチははまちゃんに向かって聞いた。


「おっさん、ヤクザなんやろ??こいつ、歌聞きたくないからって金払わんのや。なんとかしてくれ。」


それを聞いたはまちゃん。みるみるうちに顔が真っ赤になって、ぶち切れた。

 

「ヤクザヤクザって言うなや!!わしはカタギじゃーー!!カタギにヤクザって言うとヤクザが黙ってないでえ!」


はまちゃんがそう怒鳴った。

どうやら、結局のところみんなカタギらしい。その後はまちゃんも知り合いにいっぱいヤクザいるから呼んでやるからな!!みたいな脅しを始めだした。はまちゃん、オマエもか。

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はまちゃんが西成ブリーチの胸ぐらを掴んだり、どついたりしている。その姿を見ながら、僕は合間にローソンで酎ハイを買ってズズズと呑み、東さんははまちゃんと一緒になって「ほら!はまちゃん怒らせたらヤバいんやで!」みたいなことを言っている。カオスだ。

 


どっかから湧いて出たように警察官が来る。まぁまぁ、お二人とも辞めて下さい。なんて言われながらもはまちゃんは「わしはブタ箱いく覚悟は出来とるんやぁぁあ!!」とか言ってまだ懲りずにどつく。

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これいつ終わるんだ?と思ったが、とりあえず西成ブリーチがはまちゃんに謝って終了した。「おめえ気いつけや!ここは西成やで!」はまちゃんもそう言って、とりあえず満足したようだ。そこからなんだかんだみんなで仲良くなって、みんなでコンビニで酒を買って乾杯して飲んだ。

 


「そういや、お前はなんで西成におるんや??」

はまちゃんが西成ブリーチにそう聞いたら、西成ブリーチがここまでの生い立ちを喋りだした。

 


どうやらミナミでホストをしていたのだが、いつまでやっても売り上げは増えず、先輩にいじめられ、うだつが上がらないので這々の態でホストを辞めて西成に飛んできたらしい。確かに。こんな奴と金払って飲もうと思う奴はいないな。ホストでナンバーワンだったとか言ってるけど、嘘だな。ワースト1だな。

 


なんだかんだで通天閣の下ではまちゃん、東さん、西成ブリーチと僕でそれから5.6時間は飲み交わした。

観光客が明らかにキチガイがいる、みたいな目で見てくる。完全にこの時は僕も西成の人間に溶け込んだようだ。全員酔っ払いすぎて酒を延々と買ってはみんなで飲み、みんなで転び、みんなでションベンをぶちまけた。はまちゃんの知り合いがたまに合流したりして、その度に西成ブリーチは態度が悪いからと殴られたりしてた。

 


楽しいひと時を過ごし、さてそろそろ帰って寝ますか。なんて思った時だった。

 

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観光地全開の通天閣付近に明らかに浮いた感じのレトロな映画館が。どうやらポルノ映画とかやってるみたいだ。

「ここの映画館は面白いから、ぜひ行っとけよ。まっちゃん。」

ニヤニヤしたはまちゃんにそう言われ、期待を胸に僕は彼らと別れを告げた。また、何処かできっと会えるよね。

 


ナイトタイムは800円です。

 


と受付で言われ、金を払い、地下へ。

もう上映しているのだろう。中は真っ暗で、スクリーンの微かな光だけでなんとか歩いた。

 


普通の映画館よりも少し小さいくらいの規模だ。ただ内装はなかなかにボロい。そして変わったことに、何故だか来てる客はあんまり、映画をまともに観ていない。中には寝ちゃってる人もいる。なんか、不思議な場所だ。そう思ってぼんやりと周りを見渡していたときだった。

 


「あ♡あ♡あっ♡」

 


明らかに、いやらしい声が聞こえてくる。しかもそれは上映されているポルノ映画ではなく、どうやら客席から聞こえてくるのだ!なんてこった!

 


喘ぎ声を頼りに上映室の暗闇を、声のする方に歩いた。すると上半身裸体の女が椅子の上で露わな姿になっていて、隣にいる男がこれでもかってくらい乳首をペロンペロンと舐めている。

そしてその周りには4、5人のおっさんが立っていて、それぞれが己のペニスを手でさすっている。もうAVの世界だな。

 


面白がって近ずいてみると、激しくペロッペロしているおっさんが顔を上げてこっちを向いた。その眼差しで言おうとしているのはこうだ。

 

『俺は激しく舌を上下させていたから疲れている。お前が代われ。』

 

というアイコンタクトを僕に向けてきたので、僕も、

 

『あなたの為ならなんなりと御押しつけください兄弟。』

 

みたいなアイコンタクトで返しておいた。

 


これなんてことわざかなぁ?

棚からぼた餅?そんな感じかなぁ?

ウヘヘヘ。なんて思いながらペロっペロしてみると、

 

また相手が感じて「あ♡あ♡あっ♡」ってが喘ぎだした。

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

男??

 

 

 

 

 

 

男!???

 

 

 

マジかよ!!

 

 

 

僕がバトンパスされてペロッペロしていたのは暗闇で紛れていた女装した男だった。気色わるくて思わず、バシィィ!ってぶっ叩いたら「あああぁあん♡」って声出してた。もうモロに男の声。そりゃそうだ。男なんだから。

 


その瞬間、この場所の真実がわかった。そう、ここの映画館はいわゆる、「ハッテン場」だったのだ。同性愛者達が世界に断絶されながらも、僅かながらに共通の認識の同性が集まり、快楽を享受するエデンの園なのだ。

 


そんなことも知らずに僕は棚からぼた餅とばかりにペロッペロしたもんだから、アホにも程がある。

 


とりあえず心を落ち着かせるために喫煙所に行ってタバコ吸ってたらさっき僕にペロッペロされてた男が横にきてタバコ吸い出したんだけど、もうね、完全なるおっさん。普通に顎ヒゲ青いし。体毛すごいし。首吊りたいわ。

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完全に酔いも覚めてしまい、僕は映画館、いや、ハッテン場を出てドヤに帰った。好奇心の向くままになんでも挑戦するなんてもう言わない!そう胸に誓いながら、枕を濡らして眠りについた。

 

 

 

 

 

 

つづく

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 7

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軽い頭痛にうなされながら寝返りをうった。いまの夢はなんだ??知らないおっさんが舌を出している。ぼんやりと目を開ける。一瞬、ここはどこだ?となったのだが、昨日の出来事を思い出し、そしてドヤにたどり着いて倒れ込むように寝たことを思い出した。

 


窓をガラガラと引いて開けてみると、ロの字の形のドヤの他の部屋の窓が無機質に並んでいるのが見えた。飛び降りられないように鉄格子のようなものもついている。まるで刑務所だ。携帯を開くと、待ち受け画面には10:00という文字が浮かび上がっていた。どうやら5、6時間は寝たらしい。

 


他のドヤを探してみよう。僕はそそくさと表に出た。強い日差し。正月日和だ。

 


外には数人の老人がバイオバザードの様に目的もなく、ある者は奇声を発しながらヨタヨタと歩いている。

 


昨夜のヨネさんのおかげでだいぶ土地勘がついてきた。とりあえず四角公園の方へ、更にぐるっと回るように路地を通ると、泥棒市が。

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ただ、路上ではないのでこの時間帯でも警察と揉めないのであろう。たくさんの工具が並べられていた。安い。

 

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しばらく眺めてから表を彷徨うと、あった。安いドヤ。一週間4250円。一日あたりおよそ600円。ここだ。迷いなく扉を開けて中に入ったが、満室。どうやら正月は混むらしい。

 


そんなこんなで宿泊していたドヤのチェックアウト時間がきたので、延泊代を払い、2日目も同じドヤに泊まることに。まぁ、荷物移す手間もないから楽だし、いっか。

 


そのまま表に出る。11時前。いまから行けば炊き出しが食える。空腹で鳴るお腹をさすりながら炊き出しの行われているあいりん労働福祉センターへ。

 


数年前に訪れたときにはガード下のような作りの建物の下にたくさんの人がいて、ボランティアの人が用意した炊き出しやカラオケなどの催し物があり、そこそこの賑わいをみせていたが、その建物も封鎖。いまではその片隅の道路沿いで粛々と炊き出しを配る者、食べては2周目、3週目とおかわりする為に並ぶ者の姿しかなかった。

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あの情愛に溢れた炊き出しスポットの影はいまはない。

 


僕もとりあえず2週回っておかわりをして、薄味の塩だけのお粥を胃に流し込んだ。

 


二日酔いの時には、最高に美味い。だからこれを配ってるのか、などと一人で納得していた。ごちそうさま。

 


とりあえずなんの予定もないので、近くの道端に腰を下ろす。50円のコーヒーを飲みながらただひたすらにボーッとする。まるで自分がホームレスになったみたいだ。向かい側には知らないおっさんが気持ちよさそうに寝ている。

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ホームレスを非難する人は多い。

 

 

 

働いて社会に貢献しろ、とか

家庭を持って子供をつくれ、とか

身だしなみをちゃんとしろ汚い、とか

 


それはすごく真っ当な事で、社会的には正しいのかもしれないが、僕はホームレスを非難するつもりは、ない。

 


社会への貢献、人として生きる、というのは善とか悪とかそういう区別ではない。あくまでも一つの哲学だと思っている。多様な考え方の一つ、だ。

 


だから普通に生きて社会に貢献して働いて生きる、というのもあれば、仕事をしないでその日暮らしでボーッと暮らしてみる、これも立派な哲学なのではないか。

 


職場の人間関係やお金、名声に苦しんで自殺する人達は、「働かなくていい」「汚い格好しててもいい」という、いわゆるホームレス哲学を知らないばかりに命を絶ったのではないか。とも思う。

 


そんなに頑張らなくてもいい。

人にどう思われてもいい。

 


その局地が、ホームレスなのではないかと。

儒教の考えの根強い日本の中にある、道教のようなものではないか、とも感じる。

 


現に、アルコール中毒で苦しんだ挙げ句のホームレスが大半だが、中にはその他健常者がホームレスになって、時間や立場の拘束から解き放たれてその快感が手放せずに社会復帰ができない人がいるのも確かだ。

 


こうやってコーヒーをすすりながら、雲が流れていくのを眺めたり、蟻が道を選びながらアスファルトの上を歩く姿をまじまじと見る機会なんてのは子供の頃以来か。

 


いまのマインドだと、正月が明けて腕時計を睨みつけながら歩くサラリーマンとか観たら、さぞかし滑稽なのだろう。蟻みたいだ。

 

 

 

社会人は人間らしいのかもしれないが、ホームレスには生き物らしさがある。

 

 

 

そう思考を巡らせている時だった。

 

 

 

 


うヴヴヴヴヴ

 

 

 

突然獣の声がした。なんだなんだ!?

 

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背後を振り返ると、道路を呻きながら歩くおっさんの姿が。奇声を発しながら歩くおっさんなんてのはよく見るが、ここまでゾンビっぽいと怖い。しかもだんだんと僕の方に向かってきている。ヴヴヴヴヴという呻き声。完全にイっちゃってる目。やばい。これはやばい。

 


が、はたと足を止めたおっさん。僕の手の缶コーヒーを見ている。なんだ、という顔つきになって、踵を返し、また呻き声をあげながら次第に去っていった。

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いまのはなんだったんだ。いや、もしかすると僕が酒を持っていると思って寄ってきたのかもしれない。正直ビビって腰抜けた。僕はホッと息をつき、立ち上がり、また歩き回ることにした。

 


西成警察署から南へまっすぐ抜けると、三角公園がある。名前のとおりに三角形の形の公園で、ここもホームレス達の溜まり場になっている。汚い便所、ボロボロのステージ、幾つものブルーシートの住処、鉄柱の上に豪快に乗っかったテレビからはなんらかのニュース番組がながれている。

 

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外には大量のゴミ掃除の清掃員がものすごい勢いでゴミを拾っていく。おそらくこの辺の住人が公共事業の一環として雇われているのだろう。しばしば、ゴミだと思われて回収された私物を返せ!と怒鳴るホームレスと清掃員の姿もあり、刹那的だ。

 


ぐるっと見渡すと、やっぱりいた。変なおっさん。舌を突き出し、ベーっとやっている。いったい誰に向かってしているのか?おっさんには何かが見えるのか。怖い。

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とまぁ三角公園の辺りの現状を確認したところで、また歩きだすことにした。昼過ぎの3時。

そろそろ腹が減ったのでマルフクにでも行こうか。

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マルフクに着くと、やはり人気店。かなりの人混みだった。中に入り、瓶ビール、ホルモン、レバーを頼む。

 


「あー!昨日の兄ちゃん!」

 


昨日も来ていたのを覚えてくれていたのだろう、数名の客が声をかけてくれた。ろくに話をしたわけでもないのだが、おそらくピンクのジャケットのせいだろう。数人のおっさん客とたわいない会話をした。皆、なかなかに面白い人たちだった。

 

はまちゃん、田中さん、ボロ爺の三人のおっさん。

はまちゃんはとても元気で活気のあるおっさん、田中さんは少し大人しくてクールなおっさん、ボロ爺はなんかヨボヨボしている。

ちなみにボロ爺のあだ名は心も財布も服も家もボロボロ、だからボロ爺らしい。もうあだ名を通り越してただの悪口にしかなっていないのだが、本人は気にせずガハハと笑っていたので大丈夫らしい。

 

しばらくしてはまちゃんとボロ爺は帰ったのだが、田中さんが「このあと一軒どうだ?」と誘ってきたのでお言葉に甘えてついていくことにした。

 

田中さんの顔馴染みの店で、もう常連だ、俺が来ると店のママが喜んで飛びついてくれる、そう豪語しながら歩く田中さんの背中についていきながら、尊敬の眼差しで田中さんを見ていた僕。だが、お店についてみるとママはガン無視。

 

あなただれ?あー、どうもどうも。

と、忘れては申し訳ないから必死で知り合いの程でいく感じのママの気苦労を察しながら、乾杯。

 

このまま変な空気感になるのかなと思いきや、意外と田中さん、酒が回ると饒舌で周りの客もママも笑いが止まらないという、西成では奇跡に近い場の雰囲気が作られた。

 

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記念に一枚。ありがとうございます。撮影がママで、田中さんと知らない二人のおっさん。絵的にひどい。

もちろん、ワリカン。西成に奢る文化はない。それは明日にはもういなくなっているかもしれない人の間に過剰な恩や義理は要らない、というものかもしれないし、単に金が無いだけかもしれない。

 


僕は田中さんと熱い抱擁を済ませ、外の道をプラプラと歩いた。まだ日は高く、日没まではだいぶ時間があるようだ。新天地の近くだったので、そのまま新天地の方面に向かうことにした。

 


ヨネさんが、ここから先はモンスターが出るとかなんとか言っていた交差点を超えた先の通りまで来ると、道端にギターを置いたストリートミュージシャンみたいな男が座っていた。珍しく、おっさんではない。脱色した髪にシルバーだかなんだか色々混ざっていて汚い色がまた西成らしい。彼が話しかけてきた。

 


「お!そこのにいちゃん!一曲聴いてくかい?お金くれたら一曲歌うよ!」

 


そこにはダンボールに書かれた数曲の演歌が。どれもいつの時代かわからない。かなりマニアックな曲選だ。

 


「いや、大丈夫。聞かない。」

 


僕がそう言うと、彼はムッとした顔で立ち上がり、キレかかってきた。

 


「はぁ?あんた、こうやって声かけられて歌聞かへんの?なんちゅう神経なんや!??」

 


こんな知らない西成ブリーチ頭に払う金なんか無い。しかも歌ってるところを見てるわけでも無いし。そう頭によぎった。

 


「あのさぁ、普通のストリートミュージシャンってのはさ、路上で歌を歌って、通行人に評価されてから、お金もらうんよ。そんな知らない奴にリクエストして先に金払う奴なんか居ねーよ。」

 


と、僕なりの正論を返したのだがこれが彼の逆鱗に触れたらしい。

 


「な、な、なんやてーっ!!」

 


彼は西成の中じゃ顔が広いんだ、ヤクザの知り合いがいっぱいいるんだ、お前お天道さん拝めるのも今日までやで覚悟しときや、的な事をブツブツ呟きながら、誰かを呼びにすぐ裏の道に歩き出した。面白い展開だったので素直に僕も付いていく。

 


ローソンの外でチューハイをすすっているヤクザ風のおっさんに声を掛ける彼。どうやら東さんというらしい。

 


「おうにいちゃん!どういうことや!ワシの歌が聴けんらしいな!」

 


ん?どういうことだ?つまりさっきの演歌のレパートリーは西成ブリーチが歌う訳でもなく、この東さんが歌う訳か。なんてめちゃくちゃなストリートミュージシャンだ。

 


東さんが続けて話す。

 


「あのな、ワシはこの西成ではすごいヤクザ知り合いなんやぞ!めっちゃ怖いで!ワシはもうカタギやけどな!めっちゃ、知り合い怖いんやぞ!ヤクザやぞ!もうすぐ来るから、覚悟しときや!」

 


なんてこった。結局みんながみんなして知り合い怖いぞ!の脅し合戦。本人は何もせず知り合いを呼んでなんとかするバトル。まるでポケモンバトルじゃないか。

 


そんな時だった。

 

 

 

 


「おう、お待たせ。」

 

 

 

きた!ついに西成ブリーチが呼んだヤクザ風のカタギの東さんが呼んだ知り合いのヤクザだ!僕は声のする方をバッと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 


そこにいたのは、はまちゃんだった。

あっ、マルフクのときの!

 

 

 

 

 

続く。