しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 9

 

1月6日。

西成の光と闇をずいぶんと満喫したこの数日を振り返りながら目が覚めた。今日も二日酔い。鉄格子がクネクネと、砂漠の陽炎のようにうねるのをみながら、あぁ、昨日も飲み過ぎた。と後悔の念が押し寄せた。

 

もう正月も明けてしまった。

朝6時。外に出ると沢山の労働者の格好をしたオッサンが9割、若者と外国人が1割くらいいた。

 

「日当10000円!昼飯付き!」とか、「宿あります!」と手書きで書かれたダンボールをフロントガラスに貼り付けたハイエースの車がゾロゾロと路上に列をなし、その車に沢山のオッサンが吸い込まれていった。

 

正月は明けたのだ。

 

いくら西成に馴染んできた!とは言っても、結局僕は蚊帳の外の人間であって、もう数日経つと東京に戻って仕事をしなければいけない。仕事も生活も安定した人間の、所詮は束の間の放浪なのであった。

 

よし、そろそろ帰ろうか。そう思って財布に入れていた青春18きっぷを取り出し、、、

 

あれ?、、無い?

 

そうだった。僕が買ったのは2日分の青春18きっぷなので、もう使い果たしていたのであった。どうしよう。

 

ヒッチハイクという手段も脳裏によぎったが、辞めた。どうせこの時期に大阪から東京方面を目指そうとすると一般の車はなかなか捕まらず、長距離トラックのオッサンで妥協する羽目になるのだ。

 

以前、東京の環状8号線から大阪までヒッチハイクを決行したことがあった。色んな人との交流、とか、様々な土地での感動、とか想像して始めたが、すぐ止まって乗せてくれたのが長距離トラックで、無言の6時間を過ごしてストレートに大阪まで着いたのだ。せめて運転手との交流を、と喋ってみたが、「うるせえ奴は嫌いだ。」と一言言われ、撃沈した。あんな思いはもうしたくない。

 

仕方ない、飛行機でもさがしますかな、とネットで調べてみると、あら不思議!正月明けだからか、格安で東京行きがあったのだ。しかも天下のJAL航空。そして極め付けの羽田空港行き。こりゃあみっけもんだぜぐふふふ。僕は早速昼の14時30発のJAL120便を購入した。ラッキーである。

 

そうと決まればドヤに戻り、荷物をまとめた。二日酔いが抜けるまで少しの間横になった。2、3時間ほど寝た後起きるとだいぶ良くなってきたので、西成で最後の飯を食べることにした。もちろん、マルフクだ。

 

マルフクでホルモン焼きを買い、テイクアウトした。その後に並びにある弁当屋で白飯を買うことに。弁当屋で白飯を頼むと、普通かやわらかいのどっちか選べと言われた。何故そんな二択があるのかと店主のおばちゃんに尋ねると、「歯がない客もいっぱいおるんやで!」とのことだった。どうやらやわらかいにすると、お粥をくれるらしい。そうか、西成だもんな、と思いつつもおばちゃんの優しさが垣間見えた。

 

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マルフクのホルモン焼きと弁当屋の白飯のコンビを路上に腰掛けて食べた。最高に美味い朝飯。愛情たっぷりの朝飯。

 

 

 

 

朝飯をぺろっと平らげたところで、そろそろ西成をおさらばする時間になった。町をペタペタと歩きながらドヤに荷物を取りに行く。

 

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まさにこの西成を象徴するようなプーさんが木に吊るされていた。汚くて、酒ばかり飲んでいて、どうしようもない人々。本当にどうしようもない。でも彼らには彼らなりの日常があり、幸せな日々を謳歌している。そんな西成のオッサン達がたまらなく好きであり、また来たいと思う町である。

 

リュックを背負い、電車に乗った。離れていく西成。ここに数日居たのか?と思えてくるほど呆気なく町並みは通り過ぎていき、程なくしてバスに乗り換え、空港についた。

 

大阪国際空港、又の名を伊丹空港とやらにたどり着いた。かなり綺麗な空港で、1時間ほど前まで路上で飯食ってた奴がいて良いのだろうか、と思わせられる程の清潔感であった。

 

クレジットカードの特典でラウンジに入り、小一時間時間を潰し、手荷物検査やらなんやらを通過して搭乗口へ。飛行機を待つ沢山の人の姿があった。ほとんどがサラリーマン達で、訝しげに腕時計を睨んだり、脚を組み替えたりしている。

 

2時半を過ぎた。が、搭乗の案内は無い。

しばらくしてアナウンスが流れた。

 

「14時30分発予定のJAL120便は、欠航致しました。誠に申し訳ありません。」

 

騒然となる搭乗口。苛立ったサラリーマン達がゾロゾロと出口に向かっていく。どうやら、飛行機のメンテナンス上の問題で、欠航となったらしい。

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空港の受付まで戻り、キャンセル手続きの行列に並んだ。

 

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皆、ものすごい形相で並んでいた。「仕事の大事な会議があるんだぞ!!!」とか、「私の時間を返して!」なんて怒号が響いていた。

 

そんな列に並んでいて、ふと、西成で炊き出しに並ぶ行列を思い出していた。

 

仕事の会議どころか仕事もないオッサン。

 

私の時間なんてむしろあげるよくらいのニコニコしたオッサン。

 

あの行列には、ここにいる人たちの様な経済的豊かさは微塵もないが、ここの人達のように、何かに追われたり、怒号をあげる人はいなかった。あの西成のオッサン達の方が、人生を幸せに生きているんじゃないか?とも思えてくる。

 

しばらく待った後、ようやく受付にたどり着いた。どうやらキャンセルの代わりに新大阪駅までのバス代と、新幹線代を出して貰えるようだ。ありがたや。

 

空港からバスに乗り、新大阪駅へ。

新幹線の時間まではまだ多少時間があるので、たこ焼きとビールを買い、胃袋に流し込んだ。そして滑り込んでくる新幹線にそのまま乗車。

 

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飛行機のキャンセルになった人が結構、この新幹線に乗っていた。そして新幹線に乗ってもなお、怒り心頭の人達の姿がいた。顔を真っ赤にしていた。西成のアル中みたいだ。だけどこっちは怒ってる。可哀想な人だと思った。新幹線はゆっくりと動き出し、僕の身体がそれに合わせて加速していった。

 

東京に帰るのだ。

 

 

今回、二度目の青春18きっぷ旅行で、熊本、大阪間を移動した。およそ移動時間が20時間。

 

こんなことする奴は狂ってる。

 

そう言われた。

まぁ本望だけども。

 

でも、それでも良かったと思える心境の変化が僕にはあった。

 

飛行機で大阪伊丹から東京羽田までおよそ1時間半。たしかにそれに比べたらたしかに新幹線は遅い。リムジンバスで新大阪、そこから乗り換えて新幹線。およそ3時間半。

 

 

でも、3時間半でも充分早くないだろうか?

 

これが青春18きっぷで鈍行で行くと9時間23分かかる。

 

魔の静岡県を通り、東京にたどり着くころには日付が変わっている。でも普通に考えてみてほしい。

 

これって遅くないのではないか?

 

 

556キロ。これを1時間、2時間で移動したいとか、時間通りに運航しろってのは単純に人間のエゴだとも思う。

 

多分JAL120便欠航した人の中で僕だけが、


「新幹線、めっちゃ早え!」

 

って思っているはず。

仕事があるから早く帰らないとダメなんだ、とか言う人達はきっと普段から仕事に人生を振り回されている。

 

時間がかかるとイライラするとか言う人達は単に心に余裕がない。

 

それに対して、仕事に責任感が無いとか、暇人なんだろとか、反論されても構わない。だってそんな人間になるくらいなら狂ってる人でいたい。

 

時間をあえて掛けて鈍行で旅をすると、色んなものがみえてくる。

 

例えば、様々な街並みが見えてきて、そこに住む人達に思いを馳せたり。

 

ゆっくりと瀬戸内海を車窓から眺めたりできる。

 

駅で途中下車して近くの屋台のおでん屋で酒を少々、とか。

 

降りた町で公園でヤンキーに絡まれたりフェラチオ見たかったなとか。

 

普段の生活がいかに狭い視野で、喜怒哀楽、ストレスに振り回されていたことか。そんなこと気にしない気にしない。

と心の豊かさが湧いてくる。

でも、きっと偉そうに言う僕だって、日常に戻ればまた時間にせっかちになり、仕事に振り回される日が始まる。

 

それでも、いまのこの心境を忘れちゃあイカンとばい。と胸に刻んだ。

 

新幹線の車窓から外をみた。

 

流れていく美しい日本の景色。

 

やっぱり、速いなぁ。