しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

という始まりの文章だけがメモとして残っていた。

 

 

 

携帯のメモ機能ってのは、まぁとても便利なモノだよね。皆さんはどのように使っているだろうか。僕の場合は、本や広告にあるグッとくる文章をメモしてみたり、今度読んでみようかなって本のタイトルをメモしてみたり、ふっと思いついた文章をメモにしていつか使ってみようとメモしてみたりする。

 


時には酒を飲み過ぎて記憶を飛ばしているにもメモをしていたりして、隠されたもう一人の自分からのメッセージなんじゃないかってくらい意味不明なものも多い。宇宙人からのメッセージのようなものだ。

 


そんなお宝ざっくざくのメモを時折、とても暇なとき、見返したりする。

 

 

 

オタ恋には二次元が必要

学校 マッサージ スーパーオプション 金を取る学生 

 


マジでどういうつもりなのかわからないメモが出てくる。きっと相当酒を呑んで酩酊していたのかもしれない。夢で見たものをそのままメモしたのかもしれないが、さっぱりわからない。

 


他にもいくつもくだらない文章をウダウダと眺めていると、なにやら目を引く文章が。

 


おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。

 


明らかに他を凌駕した文章がそこにはあった。なんでおっぱいの形の雲が浮かんだ空が夏の終わりなのか。よくわからないのだけれどなぜかそこには情緒があって、風物がある。「おっぱいの形の雲」があたかも夏から秋への移り変わりの季語の様に使われている。松尾芭蕉もびっくりだ。

 


「いい言葉だ。」

 


僕は、薄暗い部屋の中でスマホの画面に照らされながら独り言を呟いた。ぜひ、このタイトルでブログを書いてみたい。そう思った。この文章から膨らむ妄想の中に肩まで浸かりたい。そしてのぼせ上がってしまって現実に戻れない程に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の鐘が鳴った。放課後の時間。この鐘の音はロンドンのビックベンの音なのだとこの間Twitterで知った。どうでも良かった。

 


クラスメイトがそそくさと部活動を始める為に教室を出て行く。こんなクソ暑いのに白球を追いかけるなんて頭発狂してるんじゃないか、なんてぼんやりと思い眺めながら、そういえば自分は帰宅部だったのだと思い出した。

とっとと家に帰るべきだ。家で勉強などしないので教科書は全て机の中。空っぽのカバンを持って学校を出た。

 


田舎道の長い通学路。セミの声も無くなり、夏の終わりが近いことを感じる。一緒に帰る友達はいなかった。帰宅部なのも、友達がいないのも、集団で群れるのが嫌いだからという言い訳を自分に言い聞かせている。なんとなく、そもそもコミュ障なのだと気付いているのだけど、それは気づかないフリをして生きている。

 


歩きながらスマホの画面を注視する。最近ハマっているアニメは、ラノベから漫画、漫画からアニメと、ヒットする作品の王道を行く人気作品になりつつあった。その作品の中に出てくる「ジェニファー」はいわゆる僕の推しだった。

 


「だった」という表現には理由がある。

漫画の段階でのジェニファーは作画崩壊かと思われる程のアンバランス差を誇る巨乳なのだ。

 


アンバランスという言葉は通常、デメリットな点としての表現に使われがちだが、おっぱいの件に関しては別である。

 


アンダーが大きくておっぱいも大きいのはバランスがとれているが、それは俗に言うデブである。物理法則的に考えると大きい土台の上に大きいおっぱいがあるのはごく自然な話なのだが、それでは魅力がない。細いくびれたアンダーの上にある大きいおっぱいというのが、アンバランスながらにも魅力的なのだということだ。

 


それは時に非合理的なものかもしれないが、アートであり、SFなのである。太陽の塔なんかもあんな非合理的で生産性のないもので、岡本的に言えば「芸術は爆発だ!」みたいな感じなのだ。だから僕的に言うと「芸術は爆乳だ!」となる。

 


ちなみに乳首に関しては実際なんでも良い。それは目の無いダルマのようなものだ。物事を成し遂げて達成した時にダルマに二つ黒目を描くが、その黒目自体にはなんの意味もなく、物事を成し遂げたプロセスに意味がある。だから乳首はなんでもいい。

 


少し話がそれたが、そんな、アートであり、SFなおっぱいの持ち主であるジェニファーが、なんと漫画からアニメ化する際、過激な表現を抑えるという名目でおっぱいがかなり縮小されてしまっているのだ。もはや作画崩壊でもなく、標準のおっぱい、普通のおっぱいを持つ女性、Woman with ordinary boobs

になってしまったのだ。

だから、僕はジェニファーのことを、推し「だった」と言わざるを得ないのである。

 

 

 

ふぅ、とため息を吐き、画面から顔をあげると、いつもと全く違う景色が広がっていた。田舎道を歩いていたはずなのに、いつのまにか舗装が整った人のごった返す街並みが広がっている。まるでSFみたいだ、と思いながら知らない道をひたひたと歩く。なんとなくそっちに行けば、駅とかあるんじゃないかと期待を持ちながら。

 


しばらく歩いていると街は期待に応えることなく、どこまでも路地が続いた。駅も、大通りもない。次第に夕暮れに近づき、夜を待ちきれないかの様に路地に怪しいネオンの光が輝きだした。所々にスーツ姿の男が立っていて、鴨が葱を背負って来るのをじっと待っていた。僕の体裁はどうにも金の無さそうな格好なので、ありがたいことに誰からも声はかけられなかった。

 


「オニイサン、オニイサン。」

 


外国人の女の声が聞こえる。どうやら、僕に声をかけているらしかった。無視すればよかったのに、このときはなぜだか振り向いてしまった。声をかけてきたのは20歳くらいの若い外国人だった。

「オニイサン、マッサージドウ?」

 


「あ、いや、大丈夫。」

 


「オニイサン、キモチイイモアルヨ」

 


「いやいや、大丈夫。」

 


「スッゴイバクニュウノコモイルヨ」

 


「えっ!まじで!?」

 


バクニュウ、と言われてしまっては仕方ない。僕は外国人のお姉さんに腕を引かれながら雑居ビルの中に入っていく。ネオンの街並みが視界から途切れ、薄汚い蛍光灯に照らされた階段を登っていく。三階だろうか、外国人の女がピンクの汚い扉を開けて中に入り、手招きしてくる。一瞬、戸惑ったが、「スッゴイバクニュウノコモイルヨ」の言葉が脳裏に焼き付いているものだから、引き下がることはできなかった。

 


勧められた椅子に座り、出てきたお茶を啜る。どこの国だかわからない味のお茶の中に茶柱が立っていた。吉兆か?さっきの外国人の女とは別の、外国人の男が数枚のカードを持ってテーブルの向かいに座った。

 


「スキナコヲ、エランデネ」

 


まるで遊戯王カードの様に並べられた5枚のカード。そこには、いかにもってくらいのパネマジ(詐欺写真)な美女が写っていた。加工がすごくてもはやどの子にも特徴の差が見受けられなかった。ううん。どれにしよう。そうだ、バクニュウを聞かなければ。

 


「この中で1番爆乳の子は??」

 


「オオ、オニイサンサスガネ。ソレナラコノコガイイヨ」

 


5枚のうち真ん中のカードの子を男は指した。

 


金髪のブロンドヘアーの子はいまにも「ラックススーパーリッチシャイン」を発音の良い言葉で言いそうな顔だ。この子に決めた。

 


男に財布のなけなしの金を渡した。

ショウショウオマチクダサイ。と言われ、しばらく椅子に座って待つ。数分もしないうちに男に呼ばれた。僕は男に続いて怪しさ満点の廊下を歩いた。

 


「コチラデスドウゾ」

 


緊張の瞬間。

 


もうカードは選び直せない。

 


やり直しは効かない。

まさに人生そのもの。

 


促された扉を開けた。

 

 

 

そこに居たのは写真とはとてもにも似つかない程のブサイクデブ女が見事な仁王立ちを決めて立っていた。ラスボスの中のラスボス。圧倒的ラスボス。地球を大陸ごとに分割したときのアジア大陸のトップみたいなラスボス。もう僕は泣きたいを通り越してただ笑っていた。ははは。

 


恐怖で笑い出す膝を押さえながら、部屋に置かれた小汚いベットに腰掛けた。ラスボスが近寄ってくる。写真と全く違うじゃないか!でも爆乳であることは間違いなかった。

 


「ワタシ、ジェニファー、デス。ヨロシクネ。」

 

 

 

これはもう、神様のいたずらに違いない。よりにもよって推しだったジェニファーとおんなじ名前だなんて。背筋に冷たい汗が一筋流れた。なんてこった。

 


「あ、ああ。よろしくね。」

僕は朧げな思考の中、かろうじて会話を繋いだ。

 


「ワタシ、ガクセイ。オカネナイノ。」

 


JKとかとはかけ離れた図体のジェニファーが自身は学生なのだとほざいている。

 


このまま帰ってしまおうか。と思ったのだが、なけなしの金を払ってしまった今、このまま帰るのはあまりにも忍びなかった。だからといって、この目の前のジェニファーに何かを期待することがどれだけ愚かなのかも、勿論わかっていた。思考の泥沼。

 


僕の隠しきれない動揺を感じとったのだろう。

 


「オニイサン、マッサージダケデモイイヨ。」

 


そう提案してきた。なるほど。あの発達した腕の筋肉、マッサージには最適かもしれない。ラスボスも行為を致すとなるとなかなか渋いが、所詮整体師だと思えばなんでもない。じゃあお願いします。と言ってベットに横になると、ジェニファーはいきなり僕の股間を触ってきた。なんだこのババア。普通のマッサージだと思ったのに完全に狙ってきてやがる。絶対に屈しないぞ、屈しないぞ、、、屈し、、。

 


僕のそんな思いとは裏腹に、僕の股間は素直にむくむくと膨らんでしまった。目の前のジェニファーは完全に化け物なのだが、いかんせんテクニックがすごかった。まるで一つの意思を持った手のひらで僕の股間に呼応していく。脈打つ股間が熱くなる。

 


「スーパーオプション、アルヨ。オニイサン。」

 


ジェニファーが耳元で囁く。もうこの時にはすでに僕はこの環境に順応していていた。目を閉じて視界を遮断し、僕の理想の、推しのジェニファーを妄想の中で展開、構築していた。完全に推しのジェニファーに僕の股間を触られているのだ。それはまるで、昔、日本で行われたキリスト教弾圧の際、逆さ吊りで目隠しをされたキリスト教信者が苦痛の果てに暗闇の中から現れた神を見出した心境に酷似していた。

 


「スーパーオプション、お願いします。」

 


そう、僕は小さく、言い放った。

 


僕は財布とは別にしていた、上着の中のお金に手を伸ばした。緊急を要する際のために隠してある、非常用の金だ。諭吉が微笑んでいた。ジェニファーは金を受け取るとそそくさと大切そうに枕元の簡易の金庫に閉まった。

 


「ジャア、ハジメマスヨー。」

 


僕は目を閉じた。閉じた瞼の暗闇が、何故だか心地よかった。

 


ぼんやりとした意識。暗闇の向こう側に、神がいるのを感じた。

 

 

 

股間にヌルっとした感触。完全に意識の中で構築した、推しのジェニファーの中に、僕は今、入っている。

 


数分もしないうちに、僕は推しのジェニファーの中で果てていた。愉悦。それと入れ替わるように襲いかかる、現実。そう、目を開けると、現実が待っているのだ。それを受け入れるのには、勇気が必要だ。

 


そっと、目を開けた。

 


そこには化け物が僕の股間をヌルヌルした手で握っている姿だった。スーパーオプションという名の手コキで、僕の諭吉は天に昇ったのだ。

 


そそくさと服を着た。無言。誤魔化すような会話をする気にもなれなかった。店を出るときにあの店員の男に一瞥をくれてやろうと思っていたが、彼の姿はなかった。

 

 

 

雑居ビルを出た。頬に少しだけ冷たい風が当たった。

見知らぬ通りを、家に向かって歩き出した。

夕日がこんなに綺麗だと思ったのは、初めてかもしれない。

あの、瞼の裏にいた神様の存在を感じて、空を見た。

そこには、雲が浮かんでいた。おっぱいの形だった。

 

 

 

おっぱいの形の雲が浮かんだ空を見て、夏の終わりを知った。