しらぼ、

松本真青がSFを書くとこうなる。

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 5

 


少しずつ、空が白んできた。

銀色を帯びた雲が風で流れつつ、新しい一日の始まりを日の出が教えてくれた。

 


僕は結局どこのホテルにも泊まるつもりはなく、その辺の路上の脇に寝袋をひいて寝た。もちろん、地面に体温を奪われないようにマットは持参していた。

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寝袋に包まりながら鬼殺しをチュウチュウと吸う路上の正月。なかなかに趣があった。

 


生活保護受給者みたいなのや、野良猫みたいな年寄りが僕を可哀想だと横目で眺めながら通り過ぎていく。街は動き出したのだ。僕もそろそろ動かないと。荷物をまとめて、歩きだした。

 


早朝からオープンしたソープランドの入り口に、たしかに微かな重力を感じながらもふりほどき、広島駅へ向かう。

閑散としたホーム。特に広島へ思う未練も思い出に浸ることもないまま列車は動き出す。

 


そういえば、原爆ドーム忘れてたな。

ま、いっか。

 


大阪まで直接向かうとかなりの距離になるので、途中に神戸に寄ることにした。

広島から神戸までおおよそ5時間半で300キロくらいの距離を移動する。到着は13時ごろだ。

 


昨日の長距離の移動とフェラチオ公園のせいでだいぶ疲労が溜まっていたが、車窓から眺める太平洋の美しさに、少しだけ癒された。窓を開けると潮風が頬を靡いた。隣に居たババアが「このクソ寒いのに窓開けやがって!!!キチガイだな!」みたいな顔で僕を見ていたので、慌てて閉めた。

 


ババアのシワの数を数えだして、ちょうど108つ目に差し掛かる頃、電車は神戸駅に到着した。まだ数えるべきシワがたくさんあったのでこのまま電車に残るべきか躊躇してしまったが、僕はホームに降りた。苦渋の選択だった。13時19分。

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神戸といえば、福原。よし、行こう。

 

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駅から少し離れたところにある福原。柳筋と桜筋という二つの道を中心に町が形成されている。明治元年、西暦でいうと1868年にできた福原遊郭。百軒あまりの座敷と千人越えの娼妓がいたが、神戸大空襲により焼失。戦後に赤線地帯として復活したが売春禁止法によりいまでは特殊浴場として成り立っている。

 


堀之内と比べると不気味なくらい静かな福原。この辺のキャッチのルールなのか、かなり静かだった。

 


日向にパイプ椅子を広げては、世の終焉を垣間見るような虚な目で通りをぼんやりと眺める客引きの姿が。もう客引きが賢者タイム

 


お腹が空いたので近くにあった食堂、まんや食堂に入る。店の名前に少しでもこじつけてみたものの、まんのかけらもないただの食堂だった。焼き魚に卵焼きをつけた。700円。なかなか美味い。

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というわけでそんな正月の穏やかな福原を眺めつつ、散策した後についでにディープスポット、ミナエンタウンへ。

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薄暗い地下商店街のような作りで、左右に点在するスナックからは昼から元気なおっさん共の声が聞こえてきていた。

そのほかには、渋い床屋、萎びた野菜を売る八百屋、ぼったくりそうな喫茶店がちらほらとあり、あまりにも興味が湧かず、どこにも寄らずにそのまま出た。

 


うん、つまらん。

 


神戸の三宮、北野方面のシャレこいた街なんて行ってしまうとわさわさとカップルだの家族だのとリア充を垣間見ることになるのはわかりきっているので辞めた。駅に戻り、電車に乗る。次はついに大阪にいくか、と思ったがその手前、尼崎に向かうことにした。そう尼崎にはかの有名なかんなみ新地があるのだ!そこを素通りしては関西の事を何も知らないに等しい。是非ともこの目でみておかなければ。

 


1時間ほど電車に揺られ、午後4時過ぎ。

尼崎駅で降りた僕はかんなみ新地に向かうべく、バスに乗る。尼崎商店街を抜けた先がどうやらかんなみ新地らしい。バスの運転手に行き方を聞くと怪訝そうな顔をされ、横にいた親子連れの母親が娘の耳に手を当てて塞いでいた。もう慣れっこだ。

 

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バスをおり、商店街を入る。どこにでもありふれた街並み。ようやくアーケードを抜けると、あれ?住宅街に入った。これ道合ってるのか?よくわからなかった。

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途中ポツンとあった銭湯に寄った。そういえば全然風呂入ってねぇな昨日から。400円と破格のロープライスを払い、中に入る。昔ながらの真ん中に番台があり、背伸びして女湯の脱衣所が覗けるもんだから覗いたものの誰も居なかった。

 


湯船に浸かり、タイルに描かれた富士を見て思った。正月になにやってんだろう。

 

 

 

気を取り直して銭湯を出た。

夕暮れの空は紅く染まっていた。

かんなみ新地はもう目と鼻の先だ。

 


住宅街を抜けた先に唐突に古びた軒が並んでいた。どうやらここがかんなみ新地だ。

外には客引きのおばちゃんが手招きしていて、軒下には蛍光灯で照らされた女の子が座っていて、通行人が通るたびに満面の笑みで手を振っている。おお、なんて面白いんだ。

 


飛田新地よりもかなり全体の規模は小さく、20店舗程しかない。ぐるっとその一画を周り、品定めしてみる。他にも僕と同じような男客がぶらぶらと品定めをしながら歩いている姿があった。そして、一人、また一人と軒下に姿を消していく。女性の入れ替わりもなかなか激しく、一周回るともう先ほどまでいた女性が居なくなっていて、違う人に代わっている。あまり選り好みしすぎると延々と決まらないようだ。

 


3周目くらいになってようやく、無難なギャル巨乳にターゲットを絞り、軒をくぐった。金額は1万円。関西の新地の中ではかなり安い方だ。ギャル好きでコスパ重視な殿方はぜひかんなみ新地で。

 


金を渡して中へ。人一人通るのが精一杯なくらい激狭な階段をギシリギシリと踏み鳴らしながら上にあがると部屋があった。緊張感。インドの密造酒を買いに行ったとき以来の緊張感だ。

 


一畳ほどの狭い部屋。申し訳程度に布団が引かれ、ピンクのネオン管がテラテラと性欲剥き出しさながらに光っている。

 


そそくさと服を脱ぎ、女性もそのままそそくさと全裸に。胸元に厨二病チックな蝶のタトゥーがあり、狭い部屋に閉じ込められて働く女とは対比した様に羽を広げて今にも飛び立ちそうな柄だった。

 

 

 

色々な事を済ませ、僕も羽ばたいたところで軒を出た。客引きのおばちゃんがコーヒーを渡してきた。どうやらこの一帯では済んだ後だと分かるように缶ジュースを渡すらしい。缶コーヒー片手に歩いていると、誰からも声をかけられなかった。

 


夕陽は沈み、わずかなオレンジの光が雲にさしていて、綺麗なグラデーションとなっていた。僕はかんなみ新地を後にした。駅まで戻り、次の電車を待つ。ついに兵庫県を出て、大阪の西成に向かう。電車で大阪で乗り換えて今池駅。30分程の距離だ。

西成に近づくにつれて、異様な雰囲気が漂ってきた。

太陽の光は完全に閉ざされ、二日目の夜がやってきた。まずは着いたらドヤを探さなければ。

 

 

 

 


通称西成と呼ばれる一帯は正確には西成区萩之茶屋といわれる住所になっている。まずは西成警察署周辺のドヤを調べる。

 


ここはやっぱり激安な危険な匂いのするドヤに泊まろう!と思い、1泊500円のドヤに向かったが、満室。1000円以下はどこも満室だった。彷徨いた挙句、警察署の目の前のドヤに決めた。一日あたり1600円。高い。だが、仕方ない。受付で金を払う。鍵も欲しいので追加で金を渡した。

 


西成のドヤの基本スタイルは、部屋に鍵がない。いや、一応あるのだが鍵を無くされると困るので、預かり金で1000円くらいを先に払っておくと鍵が使える。そして、ドヤを出るときに鍵を渡せば1000円が返ってくるスタイルだ。鍵が無くても、盗まれるような貴重品を持っている人なんてほぼ居ないから使う人は少ない。

 

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506号室。割と綺麗だ。1600円も払ったからこんなものか。

 


荷物を床にぶちまけて、表に出た。正直重たかったので、荷物担いで歩かなくていいのは嬉しかった。その足で西成で大好きなホルモン焼き屋のマルフクに向かった。

 


立ち飲みの小汚い店。肉の煙が店内に立ち込めていて、安酒をすすりながら皆が思いのままにホルモン焼きに喰らいつく。毎度のごとく、かなり混んでいた。人生で三度目のマルフク。

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瓶ビール3本とホルモン、レバー、ポテサラを食べて、店を出た。酒が体を巡り、ポゥっとする。勘定を済ませて表へ出た。

 

 

 

ひたすら外を歩く。そう、ホームレスは店で酒を呑んだりしない。路上の僅かな隙間、僅かな段差、自販機から溢れる僅かな光の下で、ちびりちびりと酒を飲むのだ。

 


そういったポイントを探しながら歩く。まるでカブトムシを探す少年の様に。

 


放置された車があった。ガラスは破られ、テープで囲われている。なかなか住み心地が良さそうだ。中を覗く、いなかった。

 


雑居ビルの一階、自販機コーナーを覗く。

いた。ホームレスだ。自販機にもたれかかっていて酒を飲んでいる。僕は早速話しかけた。

 


「こんばんは!なにしてるんですか?」

 


「みてわかんねぇのか!酒飲んでんだよ!」

 


口調は強いが、怒っている雰囲気は無かった。関西弁特有の雰囲気。僕は自販機で酒を買い、お邪魔しまーす、と腰を下ろした。

 


「いつもここで飲んでるんですか?」

 


「当たり前や、こんなに酒がすぐ買える場所、他にはないだろ」

 


確かに、酒の自販機の目の前で飲めば酒が無くなればすぐに買える。床に散らばっている酒の缶はどれもが自販機のもので、飲む→無くなる→買う、という永久機関がこの自販機の前に完成していた。無論、金があればだが。

 

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二人のホームレス。

一人は赤い髪、四十代くらいか。

ヨネさんと呼んでほしいらしい。

もう一人は六十歳オーバーのおじいさんで、小林浩三と申しますと名乗った。

地元が熊本で、鈍行の電車で来たと伝えると、無反応だった。キチガイだな!みたいな反応はここでは一切なく、ヨネさんは自分の地元がわからない、そしていま日本に住んでいるから日本人であろう、という意味不明なことを口ずさみ、浩三さんは大阪堺の出身で、豪邸が堺の一等地にあるという。まぁ嘘だろう。

 


酒が切れると座ったまま自販機に金を入れる。ちょうど一番下の段が酒になっていて、そのまま酒が手に入る。いやぁ、確かにこれは便利だ!

 


酒を飲みながら、たわいのない話を聞いた。どこどこの公園にキャリーバッグが落ちていたとか、それは俺のものだ!とか、どこどこのドヤの部屋に凄いエッチな絵が描かれているとか、それは俺の絵だ!とか。とにかく浩三さんは自分の話だと盛りたいらしい。狂ってる。

 

 

 

僕が熊本で同級生同士の新年会を正月にしたことを言うと、それは俺の仲間だ!と浩三さんは言いだしたくらいにヨネさんが話題を変えてきた。

 


「マツモトさん、それならこれから西成の町を案内しますよ?」

 


なにがそれならなのかわからなかったが、現地人の案内で西成を回れるのは心強い。

僕とヨネさんは立ち上がり、雑居ビルの外に出た。浩三さんはしたたかに酔っていて一人で、俺が!俺が!って喋ってた。

 

 

 

 


赤髪のおっさんとピンクのジャケットの僕の二人が酒を片手にふらふらと、西成の夜に溶け込んでいった。

 

つづく