しらぼ、

松本真青がSFを書くとこうなる。

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 8

 


「おうー!あんちゃんマルフクにおったやん!!」

 


はまちゃんの声はボリューム調整のつまみが壊れたラジオみたいなデカさだ。とりあえず僕のピンクジャケットではまちゃんも僕のことを思い出してくれたらしい。ぼくとはまちゃんの意外な関係性を知った東さんはかなりビビってしまった。

 


「お、おめえ、はまさんと知り合いだったのか!」

 


それならそうと早く言えとかなんとか言いながら冷や汗をかく東さん。とりあえず東さんのオラオラは治った。が、逆にこの西成ブリーチははまちゃんがどういう人なのか、どうして東さんがいきなり怒るのをやめてしまったのか、色々と分からなかった様だ。

 

西成ブリーチははまちゃんに向かって聞いた。


「おっさん、ヤクザなんやろ??こいつ、歌聞きたくないからって金払わんのや。なんとかしてくれ。」


それを聞いたはまちゃん。みるみるうちに顔が真っ赤になって、ぶち切れた。

 

「ヤクザヤクザって言うなや!!わしはカタギじゃーー!!カタギにヤクザって言うとヤクザが黙ってないでえ!」


はまちゃんがそう怒鳴った。

どうやら、結局のところみんなカタギらしい。その後はまちゃんも知り合いにいっぱいヤクザいるから呼んでやるからな!!みたいな脅しを始めだした。はまちゃん、オマエもか。

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はまちゃんが西成ブリーチの胸ぐらを掴んだり、どついたりしている。その姿を見ながら、僕は合間にローソンで酎ハイを買ってズズズと呑み、東さんははまちゃんと一緒になって「ほら!はまちゃん怒らせたらヤバいんやで!」みたいなことを言っている。カオスだ。

 


どっかから湧いて出たように警察官が来る。まぁまぁ、お二人とも辞めて下さい。なんて言われながらもはまちゃんは「わしはブタ箱いく覚悟は出来とるんやぁぁあ!!」とか言ってまだ懲りずにどつく。

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これいつ終わるんだ?と思ったが、とりあえず西成ブリーチがはまちゃんに謝って終了した。「おめえ気いつけや!ここは西成やで!」はまちゃんもそう言って、とりあえず満足したようだ。そこからなんだかんだみんなで仲良くなって、みんなでコンビニで酒を買って乾杯して飲んだ。

 


「そういや、お前はなんで西成におるんや??」

はまちゃんが西成ブリーチにそう聞いたら、西成ブリーチがここまでの生い立ちを喋りだした。

 


どうやらミナミでホストをしていたのだが、いつまでやっても売り上げは増えず、先輩にいじめられ、うだつが上がらないので這々の態でホストを辞めて西成に飛んできたらしい。確かに。こんな奴と金払って飲もうと思う奴はいないな。ホストでナンバーワンだったとか言ってるけど、嘘だな。ワースト1だな。

 


なんだかんだで通天閣の下ではまちゃん、東さん、西成ブリーチと僕でそれから5.6時間は飲み交わした。

観光客が明らかにキチガイがいる、みたいな目で見てくる。完全にこの時は僕も西成の人間に溶け込んだようだ。全員酔っ払いすぎて酒を延々と買ってはみんなで飲み、みんなで転び、みんなでションベンをぶちまけた。はまちゃんの知り合いがたまに合流したりして、その度に西成ブリーチは態度が悪いからと殴られたりしてた。

 


楽しいひと時を過ごし、さてそろそろ帰って寝ますか。なんて思った時だった。

 

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観光地全開の通天閣付近に明らかに浮いた感じのレトロな映画館が。どうやらポルノ映画とかやってるみたいだ。

「ここの映画館は面白いから、ぜひ行っとけよ。まっちゃん。」

ニヤニヤしたはまちゃんにそう言われ、期待を胸に僕は彼らと別れを告げた。また、何処かできっと会えるよね。

 


ナイトタイムは800円です。

 


と受付で言われ、金を払い、地下へ。

もう上映しているのだろう。中は真っ暗で、スクリーンの微かな光だけでなんとか歩いた。

 


普通の映画館よりも少し小さいくらいの規模だ。ただ内装はなかなかにボロい。そして変わったことに、何故だか来てる客はあんまり、映画をまともに観ていない。中には寝ちゃってる人もいる。なんか、不思議な場所だ。そう思ってぼんやりと周りを見渡していたときだった。

 


「あ♡あ♡あっ♡」

 


明らかに、いやらしい声が聞こえてくる。しかもそれは上映されているポルノ映画ではなく、どうやら客席から聞こえてくるのだ!なんてこった!

 


喘ぎ声を頼りに上映室の暗闇を、声のする方に歩いた。すると上半身裸体の女が椅子の上で露わな姿になっていて、隣にいる男がこれでもかってくらい乳首をペロンペロンと舐めている。

そしてその周りには4、5人のおっさんが立っていて、それぞれが己のペニスを手でさすっている。もうAVの世界だな。

 


面白がって近ずいてみると、激しくペロッペロしているおっさんが顔を上げてこっちを向いた。その眼差しで言おうとしているのはこうだ。

 

『俺は激しく舌を上下させていたから疲れている。お前が代われ。』

 

というアイコンタクトを僕に向けてきたので、僕も、

 

『あなたの為ならなんなりと御押しつけください兄弟。』

 

みたいなアイコンタクトで返しておいた。

 


これなんてことわざかなぁ?

棚からぼた餅?そんな感じかなぁ?

ウヘヘヘ。なんて思いながらペロっペロしてみると、

 

また相手が感じて「あ♡あ♡あっ♡」ってが喘ぎだした。

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

男??

 

 

 

 

 

 

男!???

 

 

 

マジかよ!!

 

 

 

僕がバトンパスされてペロッペロしていたのは暗闇で紛れていた女装した男だった。気色わるくて思わず、バシィィ!ってぶっ叩いたら「あああぁあん♡」って声出してた。もうモロに男の声。そりゃそうだ。男なんだから。

 


その瞬間、この場所の真実がわかった。そう、ここの映画館はいわゆる、「ハッテン場」だったのだ。同性愛者達が世界に断絶されながらも、僅かながらに共通の認識の同性が集まり、快楽を享受するエデンの園なのだ。

 


そんなことも知らずに僕は棚からぼた餅とばかりにペロッペロしたもんだから、アホにも程がある。

 


とりあえず心を落ち着かせるために喫煙所に行ってタバコ吸ってたらさっき僕にペロッペロされてた男が横にきてタバコ吸い出したんだけど、もうね、完全なるおっさん。普通に顎ヒゲ青いし。体毛すごいし。首吊りたいわ。

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完全に酔いも覚めてしまい、僕は映画館、いや、ハッテン場を出てドヤに帰った。好奇心の向くままになんでも挑戦するなんてもう言わない!そう胸に誓いながら、枕を濡らして眠りについた。

 

 

 

 

 

 

つづく

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 7

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軽い頭痛にうなされながら寝返りをうった。いまの夢はなんだ??知らないおっさんが舌を出している。ぼんやりと目を開ける。一瞬、ここはどこだ?となったのだが、昨日の出来事を思い出し、そしてドヤにたどり着いて倒れ込むように寝たことを思い出した。

 


窓をガラガラと引いて開けてみると、ロの字の形のドヤの他の部屋の窓が無機質に並んでいるのが見えた。飛び降りられないように鉄格子のようなものもついている。まるで刑務所だ。携帯を開くと、待ち受け画面には10:00という文字が浮かび上がっていた。どうやら5、6時間は寝たらしい。

 


他のドヤを探してみよう。僕はそそくさと表に出た。強い日差し。正月日和だ。

 


外には数人の老人がバイオバザードの様に目的もなく、ある者は奇声を発しながらヨタヨタと歩いている。

 


昨夜のヨネさんのおかげでだいぶ土地勘がついてきた。とりあえず四角公園の方へ、更にぐるっと回るように路地を通ると、泥棒市が。

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ただ、路上ではないのでこの時間帯でも警察と揉めないのであろう。たくさんの工具が並べられていた。安い。

 

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しばらく眺めてから表を彷徨うと、あった。安いドヤ。一週間4250円。一日あたりおよそ600円。ここだ。迷いなく扉を開けて中に入ったが、満室。どうやら正月は混むらしい。

 


そんなこんなで宿泊していたドヤのチェックアウト時間がきたので、延泊代を払い、2日目も同じドヤに泊まることに。まぁ、荷物移す手間もないから楽だし、いっか。

 


そのまま表に出る。11時前。いまから行けば炊き出しが食える。空腹で鳴るお腹をさすりながら炊き出しの行われているあいりん労働福祉センターへ。

 


数年前に訪れたときにはガード下のような作りの建物の下にたくさんの人がいて、ボランティアの人が用意した炊き出しやカラオケなどの催し物があり、そこそこの賑わいをみせていたが、その建物も封鎖。いまではその片隅の道路沿いで粛々と炊き出しを配る者、食べては2周目、3週目とおかわりする為に並ぶ者の姿しかなかった。

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あの情愛に溢れた炊き出しスポットの影はいまはない。

 


僕もとりあえず2週回っておかわりをして、薄味の塩だけのお粥を胃に流し込んだ。

 


二日酔いの時には、最高に美味い。だからこれを配ってるのか、などと一人で納得していた。ごちそうさま。

 


とりあえずなんの予定もないので、近くの道端に腰を下ろす。50円のコーヒーを飲みながらただひたすらにボーッとする。まるで自分がホームレスになったみたいだ。向かい側には知らないおっさんが気持ちよさそうに寝ている。

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ホームレスを非難する人は多い。

 

 

 

働いて社会に貢献しろ、とか

家庭を持って子供をつくれ、とか

身だしなみをちゃんとしろ汚い、とか

 


それはすごく真っ当な事で、社会的には正しいのかもしれないが、僕はホームレスを非難するつもりは、ない。

 


社会への貢献、人として生きる、というのは善とか悪とかそういう区別ではない。あくまでも一つの哲学だと思っている。多様な考え方の一つ、だ。

 


だから普通に生きて社会に貢献して働いて生きる、というのもあれば、仕事をしないでその日暮らしでボーッと暮らしてみる、これも立派な哲学なのではないか。

 


職場の人間関係やお金、名声に苦しんで自殺する人達は、「働かなくていい」「汚い格好しててもいい」という、いわゆるホームレス哲学を知らないばかりに命を絶ったのではないか。とも思う。

 


そんなに頑張らなくてもいい。

人にどう思われてもいい。

 


その局地が、ホームレスなのではないかと。

儒教の考えの根強い日本の中にある、道教のようなものではないか、とも感じる。

 


現に、アルコール中毒で苦しんだ挙げ句のホームレスが大半だが、中にはその他健常者がホームレスになって、時間や立場の拘束から解き放たれてその快感が手放せずに社会復帰ができない人がいるのも確かだ。

 


こうやってコーヒーをすすりながら、雲が流れていくのを眺めたり、蟻が道を選びながらアスファルトの上を歩く姿をまじまじと見る機会なんてのは子供の頃以来か。

 


いまのマインドだと、正月が明けて腕時計を睨みつけながら歩くサラリーマンとか観たら、さぞかし滑稽なのだろう。蟻みたいだ。

 

 

 

社会人は人間らしいのかもしれないが、ホームレスには生き物らしさがある。

 

 

 

そう思考を巡らせている時だった。

 

 

 

 


うヴヴヴヴヴ

 

 

 

突然獣の声がした。なんだなんだ!?

 

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背後を振り返ると、道路を呻きながら歩くおっさんの姿が。奇声を発しながら歩くおっさんなんてのはよく見るが、ここまでゾンビっぽいと怖い。しかもだんだんと僕の方に向かってきている。ヴヴヴヴヴという呻き声。完全にイっちゃってる目。やばい。これはやばい。

 


が、はたと足を止めたおっさん。僕の手の缶コーヒーを見ている。なんだ、という顔つきになって、踵を返し、また呻き声をあげながら次第に去っていった。

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いまのはなんだったんだ。いや、もしかすると僕が酒を持っていると思って寄ってきたのかもしれない。正直ビビって腰抜けた。僕はホッと息をつき、立ち上がり、また歩き回ることにした。

 


西成警察署から南へまっすぐ抜けると、三角公園がある。名前のとおりに三角形の形の公園で、ここもホームレス達の溜まり場になっている。汚い便所、ボロボロのステージ、幾つものブルーシートの住処、鉄柱の上に豪快に乗っかったテレビからはなんらかのニュース番組がながれている。

 

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外には大量のゴミ掃除の清掃員がものすごい勢いでゴミを拾っていく。おそらくこの辺の住人が公共事業の一環として雇われているのだろう。しばしば、ゴミだと思われて回収された私物を返せ!と怒鳴るホームレスと清掃員の姿もあり、刹那的だ。

 


ぐるっと見渡すと、やっぱりいた。変なおっさん。舌を突き出し、ベーっとやっている。いったい誰に向かってしているのか?おっさんには何かが見えるのか。怖い。

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とまぁ三角公園の辺りの現状を確認したところで、また歩きだすことにした。昼過ぎの3時。

そろそろ腹が減ったのでマルフクにでも行こうか。

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マルフクに着くと、やはり人気店。かなりの人混みだった。中に入り、瓶ビール、ホルモン、レバーを頼む。

 


「あー!昨日の兄ちゃん!」

 


昨日も来ていたのを覚えてくれていたのだろう、数名の客が声をかけてくれた。ろくに話をしたわけでもないのだが、おそらくピンクのジャケットのせいだろう。数人のおっさん客とたわいない会話をした。皆、なかなかに面白い人たちだった。

 

はまちゃん、田中さん、ボロ爺の三人のおっさん。

はまちゃんはとても元気で活気のあるおっさん、田中さんは少し大人しくてクールなおっさん、ボロ爺はなんかヨボヨボしている。

ちなみにボロ爺のあだ名は心も財布も服も家もボロボロ、だからボロ爺らしい。もうあだ名を通り越してただの悪口にしかなっていないのだが、本人は気にせずガハハと笑っていたので大丈夫らしい。

 

しばらくしてはまちゃんとボロ爺は帰ったのだが、田中さんが「このあと一軒どうだ?」と誘ってきたのでお言葉に甘えてついていくことにした。

 

田中さんの顔馴染みの店で、もう常連だ、俺が来ると店のママが喜んで飛びついてくれる、そう豪語しながら歩く田中さんの背中についていきながら、尊敬の眼差しで田中さんを見ていた僕。だが、お店についてみるとママはガン無視。

 

あなただれ?あー、どうもどうも。

と、忘れては申し訳ないから必死で知り合いの程でいく感じのママの気苦労を察しながら、乾杯。

 

このまま変な空気感になるのかなと思いきや、意外と田中さん、酒が回ると饒舌で周りの客もママも笑いが止まらないという、西成では奇跡に近い場の雰囲気が作られた。

 

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記念に一枚。ありがとうございます。撮影がママで、田中さんと知らない二人のおっさん。絵的にひどい。

もちろん、ワリカン。西成に奢る文化はない。それは明日にはもういなくなっているかもしれない人の間に過剰な恩や義理は要らない、というものかもしれないし、単に金が無いだけかもしれない。

 


僕は田中さんと熱い抱擁を済ませ、外の道をプラプラと歩いた。まだ日は高く、日没まではだいぶ時間があるようだ。新天地の近くだったので、そのまま新天地の方面に向かうことにした。

 


ヨネさんが、ここから先はモンスターが出るとかなんとか言っていた交差点を超えた先の通りまで来ると、道端にギターを置いたストリートミュージシャンみたいな男が座っていた。珍しく、おっさんではない。脱色した髪にシルバーだかなんだか色々混ざっていて汚い色がまた西成らしい。彼が話しかけてきた。

 


「お!そこのにいちゃん!一曲聴いてくかい?お金くれたら一曲歌うよ!」

 


そこにはダンボールに書かれた数曲の演歌が。どれもいつの時代かわからない。かなりマニアックな曲選だ。

 


「いや、大丈夫。聞かない。」

 


僕がそう言うと、彼はムッとした顔で立ち上がり、キレかかってきた。

 


「はぁ?あんた、こうやって声かけられて歌聞かへんの?なんちゅう神経なんや!??」

 


こんな知らない西成ブリーチ頭に払う金なんか無い。しかも歌ってるところを見てるわけでも無いし。そう頭によぎった。

 


「あのさぁ、普通のストリートミュージシャンってのはさ、路上で歌を歌って、通行人に評価されてから、お金もらうんよ。そんな知らない奴にリクエストして先に金払う奴なんか居ねーよ。」

 


と、僕なりの正論を返したのだがこれが彼の逆鱗に触れたらしい。

 


「な、な、なんやてーっ!!」

 


彼は西成の中じゃ顔が広いんだ、ヤクザの知り合いがいっぱいいるんだ、お前お天道さん拝めるのも今日までやで覚悟しときや、的な事をブツブツ呟きながら、誰かを呼びにすぐ裏の道に歩き出した。面白い展開だったので素直に僕も付いていく。

 


ローソンの外でチューハイをすすっているヤクザ風のおっさんに声を掛ける彼。どうやら東さんというらしい。

 


「おうにいちゃん!どういうことや!ワシの歌が聴けんらしいな!」

 


ん?どういうことだ?つまりさっきの演歌のレパートリーは西成ブリーチが歌う訳でもなく、この東さんが歌う訳か。なんてめちゃくちゃなストリートミュージシャンだ。

 


東さんが続けて話す。

 


「あのな、ワシはこの西成ではすごいヤクザ知り合いなんやぞ!めっちゃ怖いで!ワシはもうカタギやけどな!めっちゃ、知り合い怖いんやぞ!ヤクザやぞ!もうすぐ来るから、覚悟しときや!」

 


なんてこった。結局みんながみんなして知り合い怖いぞ!の脅し合戦。本人は何もせず知り合いを呼んでなんとかするバトル。まるでポケモンバトルじゃないか。

 


そんな時だった。

 

 

 

 


「おう、お待たせ。」

 

 

 

きた!ついに西成ブリーチが呼んだヤクザ風のカタギの東さんが呼んだ知り合いのヤクザだ!僕は声のする方をバッと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 


そこにいたのは、はまちゃんだった。

あっ、マルフクのときの!

 

 

 

 

 

続く。

 

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 6

1月5日。深夜0時を回った。

西成の街はどこかしこもシャッターを閉ざし、眠りについていた。その街の街頭の下を、赤い頭とピンクの服がうごめく。

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「この辺の飲み屋さんは面白いですよー。ま、私は行ったことないんですがね。」

 


ヨネさんは行ったこともない店を次々と紹介していた。ふーん、とかへー、とか相槌は打つのだけれど、指差す先の店はどこもシャッターが閉まっているので想像するしかなく、あまりにも空虚なガイドだった。

 


それでもヨネさんは楽しそうに説明していく。どんどんと小道を抜けていく。裏路地の先に小さな神社があった。

 

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「ここは昔、置屋で働いていたたくさんの女性たちが健康や収入を祈願する場所で有名なんですよ〜。ま、私は祈願しないんですけどね〜。」

 


僕もたいして興味がないので、ふーんとだけ頷いておいた。

 


そのまま商店街を抜け、通天閣方面へ。

 


「この道路を渡ると、通天閣になります。もうね、モンスターがいっぱいいる訳です。なんていうか、ドラゴンクエストってあるでしょ?そういう世界なんですよ〜。」

 


確かに、僕は赤髪のモンスターを連れて歩いている訳なんだが。

 


通天閣に向かう通りもどこも正月休み、シャッター通りのオンパレード。閉まった店を指さして次々と説明をするヨネさん。通天閣のどこにもモンスターは居らず、むしろ僕たちだけがモンスターになっていた。

 


「あー、いましたねぇ。」

 


ヨネさんが指差す先を見ると、どうやらファミマの前で警察に止められてるおっさんが。

 


「あれはなんですか?」

 


「あれはですね〜、盗難自転車を乗り回すモンスターですね〜。この辺りでは日常です。」

 


近づいて職質を聞いてみるとどうやら自転車は盗難ではないらしい。酔っぱらったおっさんが警察に絡んでいるだけだった。

 


そのままぐるっと通天閣のエリアを回るようにして飛田新地へ。

 


ここ飛田新地も日本で有名なエッチな料亭、つまりちょんのまなのだが、この時間帯ともあって静まり返っていた。

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「実はですね、この飛田新地に一軒だけ、バーがあるんですよー。」

 


道の角を曲がると、確かにそこにはバーが。しかも、この深夜にして、営業していた。

 


中に入る。ビールを頼んだ。

 


「ではでは、これだけ案内しているんですからビール一杯だけでもご馳走になりましょうかねー。案内料ってやつですねー。」

 


なにがではでは、だと呆れたが、とりあえず頼む。乾杯。ヨネさんはすぐさまカウンターにいた他の客の女に声を掛ける。口説いているようだ。

 


唾を飛ばしながら喋るヨネさんにかなりドン引きしている女客が適当に相槌を打っていたが、痺れをきらして会計を済ませて帰っていった。

 


「あの女、私に惚れていましたねー。目を見ればわかります。」

 


ヨネさんはどうやらご機嫌のようだった。まぁ、気持ち悪がられているなんて言うのも水を差すようなので、言わないでおいた。勘定を済ませ、店を出た。

 


「そろそろ帰りましょう。」

 


僕が提案すると、ヨネさんはそうですね、行きましょう。と、西成の方へ歩き出す。

 


四角公園の近くまで戻ったところで、気になったので聞いてみた。

 


「ヨネさんはどこに住んでいるんですかー?」

 


「私はね、ほら、あそこです。」

 


指差す方を見ると、なんと、バスが一台。かなり古く、どうやら廃車のようだ。

 

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「この街の人々を助ける活動をしている、稲垣浩さんが家のない人の為に寄付してくれたんですよー。素晴らしいことですねー。」

 


稲垣浩さんは国会議員だとかトランプ大統領と従兄弟の関係にあるとかヨネさんが無茶苦茶言うので調べたが、どうやらこの土地で昔からホームレス支援活動を活発に行う活動家の方らしい。

 


ヨネさんと中に入ってみると、まぁー!うんこ臭い!どうやらアルコール中毒者達が宿も手に入らずにここに泊まるからか、しょんべん垂れ流し、うんこ漏らしっぱなしのありさまのようだ。よくこんなとこ泊まれるな。うんこ臭いってよりも、うんこより臭い。

 


「あー、わかりました。よく、わかりました。」

 


僕は臭いに負けてそそくさと表に出た。こんなところに正月早々いてられない。そう思っていたときにヨネさんが何かを思い出したように、ハッとした。

 


「そうだ、この時間からは泥棒市が出始めるんですよー。観に行きますか。」

 


ヨネさんが歩き出したので、やれやれとついて行った。

 


泥棒市というのはこの西成の一帯で行われる露店のことである。様々な品物が売っているのだが、どこで拾ったんだかわからないものや、片方だけの靴、折れた傘、偽物のブランド品などまで売っている。

 


ヨネさんの顔馴染みの人がいるということで道の角に露店を開いている老婆のところに来た。ヨネさんと一緒に挨拶すると、なんだか気のいいばあさんで、タッパーに入れたクリームシチューと白ごはんの混ぜ物みたいなものをくれた。ものは試しよとお腹を壊すのを覚悟で食べてみたが、意外に美味しかった。

 


ただ、ご馳走になったと思いきや、飯食べたんだから店番しろや!と老婆に言われ、しばらく泥棒市で働くことに。品物の前に腰を下ろした。

 


どんなものが売っているのやら、どれどれとのぞいてみると、偽物ブランド品が数点、それとダビングしたエロDVD、中には裏ものの無修正ものもあった。結構したたかな老婆だな。

 

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その無修正ものの品物の並びにある白いケースを見てみた。中には薬がたくさん入っていた。

 


「これはなんですかー?」

 


僕が尋ねると、老婆は答えた。

 


「これはロキソニン睡眠薬。この辺の人はみんな病院にいく金も保険証もないからこうやって薬を売ってるのよホホホ。」

 


なるほど、いい商売だなとおもったらその薬の並びにパケに入った透明の結晶があった。明らかに市販でもなければ製薬会社の商品でもない。

 


「あれ?これは?」

 


「それはあれだよあれ。シャブだよ。」

 


なんてこった。クリームシチューごはんと引き換えにこんなヤバいものの販売人にならなきゃならんのか。いまにも警察とか来ちゃったらどうしよう、とかソワソワしてしょうがなかった。

ちょこちょこDVDやらロキソニンを買う客が訪れたが、シャブは売れなかった。

と、そんなこんなで朝方になり、空がだんだんと明るくなってきた。僕をこんなところに残していた老婆が突然帰ってきて、店を片付けるぞ!と言い出した。

 

どうやら朝6時を過ぎると早朝のお巡りさんのパトロールが始まり、摘発を受けることがあるらしい。

 


やべえやべえと焦りながらヨネさんと一緒に白いバンの荷台に商品を放り込み、片付けおわると老婆が「ご苦労!」と親指を突き出して言い残し、白いバンが薄明るい西成の道路を走り去っていった。

 


ヤバかったけど面白かった。また明日もヨネさんと会おうかなと思い、ヨネさんに番号を聞こうとしたが、案の定ヨネさんには携帯が無かった。この辺をうろつけばまたいつか会いますよ、とヨネさんは言い残し、うんこバスに帰っていった。

 


僕はトボトボと道を歩き、自分のドヤに戻っていく。

 

四角公園や道端のブルーシートがガサガサと蠢き、ホームレスがゾロゾロと動き出す。ホームレスの意味不明な奇声が響く。みんなの朝がきたのだ。

 


そしてまた、西成の新しい1日が始まったのだ。

 

 

 

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 5

 


少しずつ、空が白んできた。

銀色を帯びた雲が風で流れつつ、新しい一日の始まりを日の出が教えてくれた。

 


僕は結局どこのホテルにも泊まるつもりはなく、その辺の路上の脇に寝袋をひいて寝た。もちろん、地面に体温を奪われないようにマットは持参していた。

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寝袋に包まりながら鬼殺しをチュウチュウと吸う路上の正月。なかなかに趣があった。

 


生活保護受給者みたいなのや、野良猫みたいな年寄りが僕を可哀想だと横目で眺めながら通り過ぎていく。街は動き出したのだ。僕もそろそろ動かないと。荷物をまとめて、歩きだした。

 


早朝からオープンしたソープランドの入り口に、たしかに微かな重力を感じながらもふりほどき、広島駅へ向かう。

閑散としたホーム。特に広島へ思う未練も思い出に浸ることもないまま列車は動き出す。

 


そういえば、原爆ドーム忘れてたな。

ま、いっか。

 


大阪まで直接向かうとかなりの距離になるので、途中に神戸に寄ることにした。

広島から神戸までおおよそ5時間半で300キロくらいの距離を移動する。到着は13時ごろだ。

 


昨日の長距離の移動とフェラチオ公園のせいでだいぶ疲労が溜まっていたが、車窓から眺める太平洋の美しさに、少しだけ癒された。窓を開けると潮風が頬を靡いた。隣に居たババアが「このクソ寒いのに窓開けやがって!!!キチガイだな!」みたいな顔で僕を見ていたので、慌てて閉めた。

 


ババアのシワの数を数えだして、ちょうど108つ目に差し掛かる頃、電車は神戸駅に到着した。まだ数えるべきシワがたくさんあったのでこのまま電車に残るべきか躊躇してしまったが、僕はホームに降りた。苦渋の選択だった。13時19分。

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神戸といえば、福原。よし、行こう。

 

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駅から少し離れたところにある福原。柳筋と桜筋という二つの道を中心に町が形成されている。明治元年、西暦でいうと1868年にできた福原遊郭。百軒あまりの座敷と千人越えの娼妓がいたが、神戸大空襲により焼失。戦後に赤線地帯として復活したが売春禁止法によりいまでは特殊浴場として成り立っている。

 


堀之内と比べると不気味なくらい静かな福原。この辺のキャッチのルールなのか、かなり静かだった。

 


日向にパイプ椅子を広げては、世の終焉を垣間見るような虚な目で通りをぼんやりと眺める客引きの姿が。もう客引きが賢者タイム

 


お腹が空いたので近くにあった食堂、まんや食堂に入る。店の名前に少しでもこじつけてみたものの、まんのかけらもないただの食堂だった。焼き魚に卵焼きをつけた。700円。なかなか美味い。

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というわけでそんな正月の穏やかな福原を眺めつつ、散策した後についでにディープスポット、ミナエンタウンへ。

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薄暗い地下商店街のような作りで、左右に点在するスナックからは昼から元気なおっさん共の声が聞こえてきていた。

そのほかには、渋い床屋、萎びた野菜を売る八百屋、ぼったくりそうな喫茶店がちらほらとあり、あまりにも興味が湧かず、どこにも寄らずにそのまま出た。

 


うん、つまらん。

 


神戸の三宮、北野方面のシャレこいた街なんて行ってしまうとわさわさとカップルだの家族だのとリア充を垣間見ることになるのはわかりきっているので辞めた。駅に戻り、電車に乗る。次はついに大阪にいくか、と思ったがその手前、尼崎に向かうことにした。そう尼崎にはかの有名なかんなみ新地があるのだ!そこを素通りしては関西の事を何も知らないに等しい。是非ともこの目でみておかなければ。

 


1時間ほど電車に揺られ、午後4時過ぎ。

尼崎駅で降りた僕はかんなみ新地に向かうべく、バスに乗る。尼崎商店街を抜けた先がどうやらかんなみ新地らしい。バスの運転手に行き方を聞くと怪訝そうな顔をされ、横にいた親子連れの母親が娘の耳に手を当てて塞いでいた。もう慣れっこだ。

 

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バスをおり、商店街を入る。どこにでもありふれた街並み。ようやくアーケードを抜けると、あれ?住宅街に入った。これ道合ってるのか?よくわからなかった。

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途中ポツンとあった銭湯に寄った。そういえば全然風呂入ってねぇな昨日から。400円と破格のロープライスを払い、中に入る。昔ながらの真ん中に番台があり、背伸びして女湯の脱衣所が覗けるもんだから覗いたものの誰も居なかった。

 


湯船に浸かり、タイルに描かれた富士を見て思った。正月になにやってんだろう。

 

 

 

気を取り直して銭湯を出た。

夕暮れの空は紅く染まっていた。

かんなみ新地はもう目と鼻の先だ。

 


住宅街を抜けた先に唐突に古びた軒が並んでいた。どうやらここがかんなみ新地だ。

外には客引きのおばちゃんが手招きしていて、軒下には蛍光灯で照らされた女の子が座っていて、通行人が通るたびに満面の笑みで手を振っている。おお、なんて面白いんだ。

 


飛田新地よりもかなり全体の規模は小さく、20店舗程しかない。ぐるっとその一画を周り、品定めしてみる。他にも僕と同じような男客がぶらぶらと品定めをしながら歩いている姿があった。そして、一人、また一人と軒下に姿を消していく。女性の入れ替わりもなかなか激しく、一周回るともう先ほどまでいた女性が居なくなっていて、違う人に代わっている。あまり選り好みしすぎると延々と決まらないようだ。

 


3周目くらいになってようやく、無難なギャル巨乳にターゲットを絞り、軒をくぐった。金額は1万円。関西の新地の中ではかなり安い方だ。ギャル好きでコスパ重視な殿方はぜひかんなみ新地で。

 


金を渡して中へ。人一人通るのが精一杯なくらい激狭な階段をギシリギシリと踏み鳴らしながら上にあがると部屋があった。緊張感。インドの密造酒を買いに行ったとき以来の緊張感だ。

 


一畳ほどの狭い部屋。申し訳程度に布団が引かれ、ピンクのネオン管がテラテラと性欲剥き出しさながらに光っている。

 


そそくさと服を脱ぎ、女性もそのままそそくさと全裸に。胸元に厨二病チックな蝶のタトゥーがあり、狭い部屋に閉じ込められて働く女とは対比した様に羽を広げて今にも飛び立ちそうな柄だった。

 

 

 

色々な事を済ませ、僕も羽ばたいたところで軒を出た。客引きのおばちゃんがコーヒーを渡してきた。どうやらこの一帯では済んだ後だと分かるように缶ジュースを渡すらしい。缶コーヒー片手に歩いていると、誰からも声をかけられなかった。

 


夕陽は沈み、わずかなオレンジの光が雲にさしていて、綺麗なグラデーションとなっていた。僕はかんなみ新地を後にした。駅まで戻り、次の電車を待つ。ついに兵庫県を出て、大阪の西成に向かう。電車で大阪で乗り換えて今池駅。30分程の距離だ。

西成に近づくにつれて、異様な雰囲気が漂ってきた。

太陽の光は完全に閉ざされ、二日目の夜がやってきた。まずは着いたらドヤを探さなければ。

 

 

 

 


通称西成と呼ばれる一帯は正確には西成区萩之茶屋といわれる住所になっている。まずは西成警察署周辺のドヤを調べる。

 


ここはやっぱり激安な危険な匂いのするドヤに泊まろう!と思い、1泊500円のドヤに向かったが、満室。1000円以下はどこも満室だった。彷徨いた挙句、警察署の目の前のドヤに決めた。一日あたり1600円。高い。だが、仕方ない。受付で金を払う。鍵も欲しいので追加で金を渡した。

 


西成のドヤの基本スタイルは、部屋に鍵がない。いや、一応あるのだが鍵を無くされると困るので、預かり金で1000円くらいを先に払っておくと鍵が使える。そして、ドヤを出るときに鍵を渡せば1000円が返ってくるスタイルだ。鍵が無くても、盗まれるような貴重品を持っている人なんてほぼ居ないから使う人は少ない。

 

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506号室。割と綺麗だ。1600円も払ったからこんなものか。

 


荷物を床にぶちまけて、表に出た。正直重たかったので、荷物担いで歩かなくていいのは嬉しかった。その足で西成で大好きなホルモン焼き屋のマルフクに向かった。

 


立ち飲みの小汚い店。肉の煙が店内に立ち込めていて、安酒をすすりながら皆が思いのままにホルモン焼きに喰らいつく。毎度のごとく、かなり混んでいた。人生で三度目のマルフク。

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瓶ビール3本とホルモン、レバー、ポテサラを食べて、店を出た。酒が体を巡り、ポゥっとする。勘定を済ませて表へ出た。

 

 

 

ひたすら外を歩く。そう、ホームレスは店で酒を呑んだりしない。路上の僅かな隙間、僅かな段差、自販機から溢れる僅かな光の下で、ちびりちびりと酒を飲むのだ。

 


そういったポイントを探しながら歩く。まるでカブトムシを探す少年の様に。

 


放置された車があった。ガラスは破られ、テープで囲われている。なかなか住み心地が良さそうだ。中を覗く、いなかった。

 


雑居ビルの一階、自販機コーナーを覗く。

いた。ホームレスだ。自販機にもたれかかっていて酒を飲んでいる。僕は早速話しかけた。

 


「こんばんは!なにしてるんですか?」

 


「みてわかんねぇのか!酒飲んでんだよ!」

 


口調は強いが、怒っている雰囲気は無かった。関西弁特有の雰囲気。僕は自販機で酒を買い、お邪魔しまーす、と腰を下ろした。

 


「いつもここで飲んでるんですか?」

 


「当たり前や、こんなに酒がすぐ買える場所、他にはないだろ」

 


確かに、酒の自販機の目の前で飲めば酒が無くなればすぐに買える。床に散らばっている酒の缶はどれもが自販機のもので、飲む→無くなる→買う、という永久機関がこの自販機の前に完成していた。無論、金があればだが。

 

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二人のホームレス。

一人は赤い髪、四十代くらいか。

ヨネさんと呼んでほしいらしい。

もう一人は六十歳オーバーのおじいさんで、小林浩三と申しますと名乗った。

地元が熊本で、鈍行の電車で来たと伝えると、無反応だった。キチガイだな!みたいな反応はここでは一切なく、ヨネさんは自分の地元がわからない、そしていま日本に住んでいるから日本人であろう、という意味不明なことを口ずさみ、浩三さんは大阪堺の出身で、豪邸が堺の一等地にあるという。まぁ嘘だろう。

 


酒が切れると座ったまま自販機に金を入れる。ちょうど一番下の段が酒になっていて、そのまま酒が手に入る。いやぁ、確かにこれは便利だ!

 


酒を飲みながら、たわいのない話を聞いた。どこどこの公園にキャリーバッグが落ちていたとか、それは俺のものだ!とか、どこどこのドヤの部屋に凄いエッチな絵が描かれているとか、それは俺の絵だ!とか。とにかく浩三さんは自分の話だと盛りたいらしい。狂ってる。

 

 

 

僕が熊本で同級生同士の新年会を正月にしたことを言うと、それは俺の仲間だ!と浩三さんは言いだしたくらいにヨネさんが話題を変えてきた。

 


「マツモトさん、それならこれから西成の町を案内しますよ?」

 


なにがそれならなのかわからなかったが、現地人の案内で西成を回れるのは心強い。

僕とヨネさんは立ち上がり、雑居ビルの外に出た。浩三さんはしたたかに酔っていて一人で、俺が!俺が!って喋ってた。

 

 

 

 


赤髪のおっさんとピンクのジャケットの僕の二人が酒を片手にふらふらと、西成の夜に溶け込んでいった。

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 4

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23時33分。

涙を流しながら見える車窓からの景色は、漆黒の闇だけだったが、車内のアナウンスで流れた「広島」というワードが僕の心に小さなともしびを滾らせた。次第に漆黒の中に点々と灯りが見え始め、車両はホームに流れ着いた。広島だ。

 


閑散としたホームを抜け、外へ。風が冷たく頬を叩く。広島駅周辺はオフィス街となっており、チェーン店の居酒屋やコンビニなど、面白味に欠けた街並みで、人もまばらにしか歩いていなかった。

 


よし、ここは過去の戦争の悲惨さ、核原発の恐ろしさをメディアではなくこの目で、更には五感で感じとろうではないか!いざ参らん!原爆ドーム

 


とは微塵も考えずに「広島 風俗」でGoogleマップで検索。でるわでるわ風俗店がゾクゾクと。どうやらこの周辺が賑わっているらしい。

 


ちなみに、日本中旅するときは、この「〇〇 風俗」でググるとだいたいディープな街に行けるので是非。

 


駅前でタクシーを捕まえ、乗り込んで一言「風俗!!!」って言ったもんだからタクシーのおっさんも、うわ、キチガイ乗せてしまったわ、みたいな目でミラー越しに僕を見つめていた。

 


ふぅ、というため息というか諦めた声で「じゃあ、薬研堀の方だね。」とおっさんは呟き、アクセルを踏んだ。

 


10分程タクシーに揺られたところでタクシーはギラギラとした繁華街の中で停まった。

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ふむふむ、ここが薬研堀ですか、と辺りを眺めていると腹が減ってきた。そういえば今日おっとっととおでんしか食べてないな、とりあえず、せっかく広島だからお好み焼きでも食おう。

 


ふらふらを薬研堀を徘徊して一軒の小汚いお好み焼き屋を見つけた。青いひさしに赤ちょうちん。決まりだ。引き戸をガラッ、と開けた。

 

 

 

中にはおっさんが5人おばさんが1人、それとお店の主人のおっさんという面子だった。

 


へいらっしゃい!

 


みたいな勢いはなくて、軽くヨボっとした主人のおっさんがこんばんは、と挨拶してきた。拍子抜け。

 


あ、どうも。

 


カウンターの席に座る。ビールを頼むとまたヨボっとした瓶ビールとグラスが出てきた。うん、ぬるい。でもこれがまた、乙なんだなぁ。

 


とりあえず、お好み焼きと、そこのおでんください。

 


お好み焼きを焼くのもどうせトロいと踏んだ僕は、空腹に耐えかねて速攻で出てくるであろう湯気の立ち昇るおでんの鍋を指した。

 


はいはい、ちょっと待っててくださいね。

 


恐ろしく標準語の店主のおっさんがそそくさとプレートに火をつけ、タネを仕込む。おい、ちょっと待て。おでんはどうした。

 


20分ほどビールをちびちびと傾けながらようやく焼き上がったお好み焼きが僕の面前に出てきた。どうやらおでんは忘れてしまったようだ。

 


一口食べる。うん、ぬるい。

 


そんなぬるめの店主のおっさんと対比する様に、カウンターに座るおっさんは会話がヒートアップしていた。

 


「でよぅ、紳助のやつがよぅ。」

 


酩酊して顔を赤くしたおっさんが先ほどから紳助紳助と、紳助との過去話に花を咲かせていた。他のおっさん共はうんうん、と半ば聞いているフリをしながら、またか、みたいな顔をしていた。そんな周りの雰囲気を察したのだろうか、黙るわけではなく、いきなり僕に絡んできた。

 


「紳助、じゃねえ、おめえさんはどこからきたんだい??」

 


「あ、僕は旅行で来ました。お好み焼き食べたくて。」

 

 

 

「え?こんな汚え店に!?」

 


これには周りのおっさんも皆含めて、こいつキチガイだな!!みたいな顔をされたけど、もう慣れた。

 


それからは広島の地元愛と紳助と時々やしきたかじんの話をループさせながら、僕はお好み焼きをボソボソと口にしながら、おでんはこのまま忘れてもらって帰ろうか、などと逡巡としていた。

 


紳助が釣りで大物を釣った話が3周目を迎えた時、僕は店主のおっさんにお会計を告げた。

 


はい、少し待っててくださいね。

 


また、トロい動きで店主がそそくさ呟く。会計の紙でも出すのかな?と思いきや、大根、卵、白滝の3種のおでんが出てきた。

 

 

 

こいつ、覚えていやがったか。

 

 

 

僕は飲み込むようにおでんを流し込むと、会計を済ませ、そそくさと店の戸を開けた。背後からは3回目のたかじんが生きていた頃の夜遊び事情を語るおっさんの声が響いていた。ちなみに、おでんもぬるかった。

 

 

 

1時間程過ごしたのだろうか。深夜の薬研堀は気温がグッと下がり、足の裏から冷気がゾクゾクと上がってくる。それを振り払うようにして僕はまたブラブラと歩きだした。

 


キャバクラ、キャバクラ、ホスト、キャバクラ。その間をひしめくキャッチの男達。

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おっぱいはいかがですか?ヌキですか?そんな中をシカトして通り過ぎる。けど内心はめちゃくちゃ興奮していた。

 


行く当てもなく彷徨い、疲れたのでコンビニでチューハイを買い、公園の片隅に座る。新年会の後みたいな社会人がワイワイと騒いでいたり、明らかにフェラしてるだろってくらいの体勢てしゃがむ女と男のカップルがいた。散らかったタバコの吸殻。なんとも節操のない街だ。そろそろ寝るか。そんな時だった。

 


「おにいさーん。おにいさーん。」

 


若者が声をかけてきた。キャッチとはちがう声色だったのか、無意識に返事をすると、ツーブロックカリアゲヤンキーの二人組が近寄ってきて話しかけてきた。

 


「おにいさーん、やっぱり喧嘩しにきてるんですか?」

 


は?一瞬意味がわからず思考が止まった。とりあえず、こいつキチガイだな!みたいな目で見てやった。もう1人のキンパツロンゲスウェット(キティちゃんの健康サンダル)が言った。

 


「ぼくたち、喧嘩したいんっすよ!だったら、やっぱりここですよね!」

 

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キチガイ二人組の話を聞くと、どうやらここの公園は昔、喧嘩上等な暴走族やらヤンキーやらのキチガイが集まっては、この広場の真ん中で日々喧嘩を繰り返していた場所らしい。そこで、正月早々キチガイなこの二人組は、酒の力を借りて、いざこの公園に来たものの、いまとなってはパリピ社会人とフェラチオの溜まり場と化していたのだ。

 


「いや、よくわからないね。」

 


一切の感情を消したような声でそう言い返し、僕は立ち上がった。どうですか?僕とタイマンはりませんか?と言われたが、無視した。僕もキチガイだが、こいつらもキチガイだな!正月はこういう訳の分からない奴らが湧いて出るらしい。その場に居ても変な雰囲気になるので、公園を後にした。

 


欲望の渦巻く広島の街、薬研堀。そこにはたくさんのキチガイ共が様々な想いを馳せ、いまとなっても彷徨っているのであろう。

 

 

 

どうせなら、フェラチオ最後まで観たかった。

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 3

 

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後悔はしたくない。その一心だった。荷物をそそくさとまとめ、駅に出た。ここからの乗客は居ないのか、すぐさま走り出す電車。ホームには3人の影が取り残された。その時、ユウキは言った。


「まっ、さっきの話、ウソなんだけどな。」


「う、ウソだと?マジかよ〜期待して損しちゃったよ〜。」


「ほら、俺徳山に親戚の家があるから、今日はそこに泊まろうぜ。」

 

あはは、と笑う2人を少し離れたところから見ていた僕は、ガクガクと震えていた。

 

 

 

もちろん、一月の寒さではない。見ず知らずの土地にカズの陰謀によって放り出されてしまったのだ。なんもないだろ、ここ。

 


次着の電車が来るまではおよそ2時間程度。ホームで1人待つなんてあまりにもバカバカしいので、僕は徳山を探索することにした。

 

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改札を抜けて表へ。綺麗なイルミネーションの駅前をみると、なんだ、なかなか栄えておるではないか。と少し安堵する。またしばらく歩きつづけてみる。

 

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結局、商店街を見てみるともう、シャッター通りとなっていた。閑散としていて人の姿もない。正月だってのに、なんでこんなに寂れているんだ。田舎の過疎化も本当に深刻な問題だ。

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しばらく歩くと、お、それらしい店があった。寂れた雰囲気と、妖しげに光るネオン。もしかして、、って思ったけれどここは風俗店ではなくてキャバクラだった。どうやらポールダンスのショーなどもやっているようだ。桃太郎、いい名前じゃないか。

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さらに歩くと公園が。徳山市民はイルミネーションが好きらしい。沢山のカップルと、シャボン玉で遊ぶ親子に紛れながらただ1人ぽつねんと佇む僕。リア充公園。なんて正月なんだ。

 


徳山の街は何もない。イルミネーションの光に照らされたリア充と鬼が出てきそうな桃太郎。この街はギャルとかおっぱいとかは無縁のようだ。早く、電車に乗って次の街へ行こう。そう思いながら駅へ向かった。

 

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しばらく歩いていると、ポツンと一軒の屋台があった。そこには、まるでこの街のイルミネーションとは正反対の、小汚い、でもどこか懐かしいような灯りがついていた。灯りに集まる虫の様に、僕は自然と吸い込まれるように暖簾を潜る。

 


『へいへい、こんばんは。』

 


中にいたのは1人の爺さんだった。とても愛想の良さそうな、人当たりの良さが分かる顔だ。おでんの汁をかき混ぜていた。

 


とりあえず、酒を頼んだ。なみなみと注がれたコップが目の前に出される。

一口啜る。ぽうっ、と身体が温まる。そのままおでんを二つ三つ選んだ。

 


『この辺の人じゃあないねぇ、何処からきたんだい?』

 


僕の着ていたピンク色のド派手なジャケットがあまりにもこの街に馴染まないのだろう。やはり旅行客だと分かったようだ。

 


「あ、熊本から来ました。」

 


『へぇ!珍しいねぇ!親戚でもいるのかい?』

 


それはユウキだろ!と思ったけどこの爺さんには分かるはずもないので辞めた。

 


「いえ、鈍行の列車できました。旅行です。」

 


一瞬、なんだこいつキチガイだな!みたいな顔されてしまったけど、そうなんですか、そういうこともあるんですねぇ、なんて適当に相槌をうつ爺さん。わかんなくていいよ、もう。

 

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そこからなんだかんだと会話が弾んだ。爺さんの出身が福岡だとか、この屋台を50年くらい続けているだとか(このときは仕返しにキチガイかよ!みたいな顔してやった)、いろんな人がいるもんだなぁ。と感慨にふけった。自然と杯も進んだ。

 


うぃーっす!

 


背後から暖簾を潜って1人のおっさんがにょろっと入ってきた。爺さんはアイヨっと瓶ビールを置く。どうやら今きた客は常連の様だ。もう何処かで呑んできたのか、いい感じに酔っていて、気さくに話してくれた。僕の電車の話をしたときはもれなく、こいつキチガイだな!みたいな顔になっていた。逆に僕はおっさんに正月は何をして過ごしていたのか、聞いてみた。

 


『いやぁ、オレね、今日が姫はじめだったんですわ。』

 


どうやらこのおっさん、今日の昼間にホテルにデリヘルを呼んで、それが今年の姫はじめだったらしい。もうこのブログのネタの為に登場した人物かってくらいタイミングのいい話だ。思わず身を傾ける。

 


「良かったですね、おめでとうございます。」

 


僕がそういうと、嬉しそうな顔でもするのかと思いきや、おっさんは少し寂しそうな顔になった。

 


『いやぁ、そうでもないんだよ、これが。』

 


空いた瓶を爺さんに渡して新しいビールをグラスに注ぐと、おっさんはその経緯を教えてくれた。

 


おっさんには、いつも指名しているデリヘル嬢の子がいるらしく(残念ながらギャル巨乳ではなかった)、かなりの清楚系、芸能人でいうところのSKE46の47番目みたいな感じらしい。その子が年末年始、しばらく風俗の出勤情報に載っておらず、まさか風邪か?インフルエンザか?などと心配していたが、無事に今日から出勤になっていた。おっさんがデリヘルに電話を掛けて指名して予約を済ませ、いざホテルにその子が来たときには、なんと、いままでの清楚系から一転、めちゃくちゃ派手な金髪に変貌していたそうだ。

 


「最近流行ってますし、いいじゃないですか。」

 


そう僕がフォローしたものの、おっさんは悲しみから怒りの表情へ変貌した。

 


『ちがうんだよ!オレの知ってるアカリ(仮名)は、そんな奴じゃないんだよ!』

 


グイッと傾けて空になったグラスをドンっと叩きつけたおっさん。

 


『アカリは、他の悪い男にそそのかされているんだ!しかもオレに内緒で!そうじゃないと、あんな金髪にはならねぇ!』

 


気持ち悪いおっさんだ、風俗嬢にハマってる気持ち悪いおっさんだ、と思いつつも、その覇気の前にはそれを口にすることは出来なかった。僕にとってはそもそもギャルじゃないし、巨乳じゃないなら論外だわ。

 


そのときは、爺さんはまたいつものコレか、ってな具合の無視で、新聞を広げて読んでいた。きっと爺さんも巨乳ギャルにしか興味ないのだろう。

 

 

 

ごちそうさま。僕は金を払い、爺さんに簡素な礼を告げて暖簾の外に出た。おでん屋はいいお店だった。夜風が冷たくなっていた。首元を縮こませながら駅へと急いだ。腕時計を見る。

 


21時を少し過ぎた頃だった。

 


間に合う。まだ、広島に行ける。

 

 

 

21時21分。ちょうど駅のホームに着いた頃に電車が到着した。広島駅まではここから岩国駅で乗り換えが1回。2時間で着く。つまり、日付は超えないのできっぷの期間内で間に合う。

 


なぜ徳山に来てしまったのか。全てはあの2人の青春18きっぷ共のせいだ。次見かけたら髪の毛金髪にしてやるからな!

 


そう呟き、涙目で車窓の外を眺めると、そこには徳山の綺麗なイルミネーションが瞬いていた。

 

 

 

 

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 2

1月3日。午前11時。

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元日に熊本に到着してからは、地元の友人と会っては酒を呑み、と楽しい2日間を過ごし、そしていま、僕は西熊本駅に着いた。無人の改札を抜けてホームに出る。冷たい風が肌を刺すが、正月らしい快晴。なんてめでたいんだ。こんな日にまさか電車にこれから十数時間も電車に乗るバカ野郎なんてきっといないはず。

 


列車がホームに滑り込んできた。2両車。小豆色の渋い車体が陽の光を浴びてギラギラとしている。田舎の閑散とした車内、と思いきやまさかの満員電車で、もみくちゃにされながらなんとか乗車。え、こんなに乗るやつおるん???

 


ジャコメッティみたいなポージングのまま博多駅まで行くのかと考えただけで震えが止まらなかったのだけれど、すぐ次の熊本駅で大量に乗客が降りていった。空いた椅子にすぐ座る。車内は一気にまばらに。車両が動き出す。

 


植木、玉名を抜けていく景色は昔と変わらない。しっかし田舎だなぁ。とぼんやりと肩肘をつく。南荒尾。現在も無人ホームのままだ。よく無賃乗車したなぁ。

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1時間ほど列車に揺られ、久留米へ。ホーム向かい側の列車に乗り換え、博多に。ここでようやく30分程時間が空くので博多駅を出た。

 


駅前は正月の雰囲気のままに賑わっていた。

金髪のあの人が喋っていて、写メを撮っていたらスタッフに注意されてしまった。

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そういえば以前にも博多でこんなことがあった。

数年前に東京から電車で向かったときはここ博多駅で終電を迎えてしまい、ラーメン屋も居酒屋もろくに開いてない中でセブンイレブンで豚骨ラーメンを買って路上で食べた思い出がある。東京にも売っているラーメンを平らげ、その辺で寝ていると、親切な通行人に起こされた。


「お兄さん、ここで寝たら危ないですよ?」


優しいサラリーマンに揺さぶられ起こされる。あぁ、すいません、どうもありがとうと言って、僕はまた100mくらい近くの路上にもう一度横になる。

30分程経ち、そろそろ眠りに入ると思った頃にまた、今度は別の人に注意され起こされる。そんな事を何度も繰り返すうちに夜は開け、始発の時間を迎えた。福岡の県民性なのだろう、とっても優しいんだけどありがた迷惑だった。

 


そんな事を振り返りながら、駅に戻った。酒を買い、ホームにやってきた電車に乗り込む。ここから1時間半ほどかけて下関トンネルを抜けた下関に向かう。


長いトンネルの中にいると、耳が痛くなった。


ウトウトしてきた頃、下関に着いた。16時45分。正月の日は沈むのも早く、夕陽が下関の離島に今にも隠れていきそうだった。とても綺麗だ。

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さて、下関といえば、そう!皆さまもご周知の通り、本州最西端の歓楽街である。いずれは行ってみたい、そんな熱い気持ちで悶々としていたのだけれど、ついにこんな機会があったので電車の乗り換えもほったらかして街に出てきたのだ。


下関の歓楽街の歴史を辿ると、意外に古い。1185年、平氏と源氏の最後の戦い、壇ノ浦の戦いが行われた。その時に敗れた平家の女官たちらが生活の為にと売春を始めたのが下関の遊女の始まりとなっている。小鳥になりたいとか鈴になりたいとか言いだして一世を風靡した金子みすゞなんかも、この辺りに住んでいた。

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現在ではちょこっとソープランドが点在しているくらいだが、戦後残った遊郭や料亭の数々がなんともレトロな雰囲気を醸して残っている。

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もちろん、僕はソープランドとかマットプレイとかローション風呂なんてのには一切の興味もなく、歴史あるこの街並みを観にきたのだ。ほんとうだぞ!


とまぁ、そんなレトロな街並みを堪能し、とてもサッパリした気持ちで、下関を後にした。

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列車に乗り込む前に酒とおっとっとを買う。ここからは鹿児島本線から山陽本線に路線が切り替わるのだが、道のりがひたすら長い。下関からストレートに大阪まで向かうと10時間くらいかかる。っていうか、もうその時間に列車は走っていないので、この時点で大阪には今夜辿りつかないという事だ。


だが、青春18きっぷなら問題ない。降車駅を決めずに列車に乗るので、好きな駅にぶらりと降りてしまえば良いだけなのだ。とりあえず時間に余裕をもって、山口県内のどこかでぶらぶらして、最後は広島県に辿り着くプランで行くことにした。旅は気まぐれ風まかせとはよく言ったものだ。


電車に揺られながら外を見た。すっかり日が落ちてしまい、もうさっき乗った下関トンネルと景色が変わらないくらい真っ暗になっていた。


持参していた本を取り出し、読みふける。1時間程読んでしばらく休憩と手を止め、車内を見回した。生暖かい暖房が車内に充満し、少ない他の乗客達が沈黙の中でも存在を明らかにしている様に息をしていた。やけに静かだった。


ふと、僕の前の席に座っている若い2人組の男を見ると、どこか見覚えがあった。そうだ、博多駅のホームで見かけた奴らだ。1人の男が言った。


「てかさぁ、やっぱりこんな鈍行列車で移動するとか、狂ってるよな。」


「うん、マジで疲れたわ、暇だし。」


どうやらこの2人、青春18きっぷで僕と同じ様に旅をしている様だった。会話が気になってしまい、本を開くのを止め、聞き耳をたてた。


「なぁユウキ?中洲、下関、って流れで来たから、次は広島かなぁ?」


一人はどうやらユウキという名前らしい。

そしてこの2人組、おそらく青春18きっぷを駆使して地方の風俗街を回って遊んでいる様だ。なかなかの強者だ。


ユウキはその言葉に少し驚いた様に答えた。


「広島!?カズ、何言ってんだよ、せっかく電車で移動してるんだ、真っ直ぐ広島まで行くのはもったいないだろ!」


ん?このユウキという男、なにを言っているのだろう。広島までの道中にどこか魅力的な場所があるのだろうか?僕は首を傾げた。ネットで調べた限りでは、さして有力な情報は無かった筈だ。


「え??なに?どこ寄るの?」

カズがすかさず聞いた。

 

「…徳山だよ。」

 


「…徳山‼︎?」『…徳山‼︎?』


ゴクリ。と唾を飲み込む音が僕の喉から聞こえてきた。緊張

がカズと僕の中に渦巻いていた。


「そうだよ、徳山だよ。なんでも、徳山にはものっすごいギャルで巨乳のデリヘル嬢がいるらしい。その人気は凄まじいもので、県外からのリピーターもいるらしい。口コミ情報によると、巨乳過ぎておっぱいが3つあるとか、徳山の守神だとかの都市伝説まで流れてるんだぜ…」

 


「…徳山だっ!」『…徳山だっ!』

 


その時、僕の心の声と、カズの声がシンクロした。

 

ユウキとカズの事、今まで知らない他人とか、イカれた青春18きっぷ野郎だなんて思ってしまったけれど、ごめんな。

 


僕たちは仲間なんだ。

 


硬いで結ばれているんだ。

 


腕時計を見る。19時を少し回った頃か。

間も無く徳山駅に電車は着く。

 

ブルッと身体を震わせた。

武者震いがしてやがる。

 

僕は扉がひらくと同時に、徳山の地に降り立った。