しらぼ、

松本真青がSFを書くとこうなる。

「時間にルーズ過ぎるのは人としてクソだな!」


「晴海埠頭行 6時59分着」と電光掲示板に輝く文字を見ながら、僕はワナワナと震えていた。背後にはローソン、正面にはバス停を見据える位置。そして、早朝の空は青く澄んでいて、どこまでも高い。

腕時計を見ると7時。だが来るべきバスの姿は未だにない。続けて電光掲示板に映る文字には、「4分後到着」とある。

なぜ震えているのかというと、僕は当然ウンコをしたい訳で、そこの説明はあまり必要なさそうなので割愛する。

ではなぜブルブルとではなく、ワナワナと震えるのか。ここには決定的な違いがある。

人が恐怖に追い込まれた時、他に手段もなく、恐れおののきながら震えてその時を待つしかない、そんな時の震えは「ブルブル」と震えるものだ。

だが、そこに僅かながらでも選択肢があったり、可能性があるとすれば。そこには迷いも混じり、「ワナワナ」と震える訳だ。

ただ、都道304号線を通り過ぎる通行人から見れば、ブルブルもワナワナも変わりなく、ただのキチガイがバス停で震えている様にしか見えない。

ここでいう選択肢とは、4分後の到着までの間に背後のローソンで速やかにウンコを済ませてしまうか、4分待ってバスに乗り込み、仕事場で悠久の時を味わうか、この二択だ。普通に考えれば迷いなくローソンに駆け込む。

ただ、ここで考慮しなければいけないのがいくつかあって、まずバスが時刻通りに到着するかだ。

遅延がない限りは正確な発着時刻を守る電車に対して、バスは道路の様々な交通状況に左右されてか正確に来るということはほとんどない。

道路走ってんだから時間通りじゃなくても当たり前じゃないかぐらいの顔でバス停に到着するくせに、発車する時間はシビアで、予断なく走り去っていく。なんとも高飛車な野郎だ。

一度6時59分に遅れて来たバスが、果たして正確に4分後に来るのか。そんなことは信用ならない。人の信用は築くのは難しいが、壊すのは簡単だとよく言うが、バスも同じようなものだ。信用なんてするものじゃない。

「時間にルーズ過ぎるのは人としてクソだな!」

心の中で叫んだ。

もし4分後のバスに乗り遅れた場合、次の発着時刻は更に20分後の7時24分。これだと絶対に僕は仕事に遅刻する。

さてどうしよう、ワナワナと震えながら考えているといつの間にか、あと1分で到着と電光掲示板には改めて表示されていた。

1分でローソンに駆け込んで用を足してバスに乗り込むなんて、そんな箱根駅伝の後半の区間の鮮やかなバトンパスみたいなアクロバティックはできない。

下手すればレジ前で脱糞して、「ポンタカードなんかありましぇん!」と叫ぶような阿鼻叫喚な姿しかない。黒板なんかあればバンっと叩いて髪を振り乱す。

でもなんというか、自然の力には人間はいつの世も太刀打ちできないのであって、限界を超えた腹痛に負けた僕はタヌキみたいな体勢でヨロヨロとトイレに入る。

数分後半ば諦めた感じでローソンを出る。もう出すとこ出したんだから、仕方ないじゃないか。そんな境地だ。

その時、ローソンの表には一台のバス。晴海埠頭行と煌々と照らされた電光表示。

僕のウンコ、待っててくれたのか。信用しないなんて言ってしまってごめんね?今度お詫びに一緒にドライブいこうね、バスで。

バスに乗ろうとしたその時、無残にもプシューッっという音と共に閉まる扉。

え、ウソだろ。僕は呆然と立ち尽くした。ガラス越しに運転手と目が合う。

ザマァみろとばかりに、ニヤっとする運転手。僕はブルブルと震えながらバスを見送った…。

結局その後の24分着のバスも遅れて35分くらいに到着し、仕事場に30分程遅れての遅刻。ペコペコと頭を下げていると、職場の人からの一言。

「時間にルーズ過ぎるのは人としてクソだな!」

そうだよ、ウンコしてたんだよ。

上京タラレバ娘

僕は割と中華が好きだ。

とりあえず最後に片栗粉でトロミをつけとけばいいという安易な考えで炒められた食材達と、日本食にはない独特な味。

料理は専ら食べる専門なので、味付けがどうなっているのかは知らないが。

その料理に黒酢をぶっかけて食べる。
黒酢が好きで好きでしょうがなく、一時期は黒酢を持ち歩いて使っていたくらいだ。

もう元の味なんて分からなくなるくらいに黒酢をぶっかける。料理を作った人の気持ちを考えろ!なんてしばしば言われるのだけれど、そんなの金払って食べる側の自由だと思う。
だから、冒頭で割と好きと書いた。

ただ、中華で黒酢を頼むというのは簡単そうで実に難しい。何故なら、テーブルに置かれた黒酢、あれは黒酢じゃないんだ!

いや、黒酢なのだけれど、醤油と半々で割ってある黒酢なのだ。


黒酢と醤油のハーフ。ハーフの芸能人とかいま人気だけど、調味料に至っては駄目。インドカレー屋の店員がインド人なのとパキスタン人なのくらい違う。

となると当然、ハーフ黒酢じゃない、純たる黒酢が欲しいから、店員に頼むしかなくなる。


「すいません、黒酢ください。」


「テーブル ニ アリマスヨ。」


9割、いや10割と言っていいだろう。店員とのやりとりはこうなってしまう。しかもだいたい店員は中国人なので、カタコトの日本語で。

いや、テーブルの黒酢の存在は分かってるんです。

でもこいつはハーフなんです。半端な野郎なんです。僕はたとえ不器用でもいい。純粋な奴がいい。黒酢が欲しいんです!!という葛藤が心の中で起きるのだけど、流石に恥ずかしくて口には出来ない。

でも伝えないとハーフ黒酢を使うしかなくなるので、緊張しながら更に頼むことになる。僕の頬は赤らみ、戸惑いと葛藤が瞳孔を震わせる。


「あの…僕が欲しいのは…純粋な…」


ここで一つポイントがある。言葉というのは非常に難しい。同じ言葉でも、その背景や感情によって、同じ言葉でも深みが全くもって違う。

どれだけ欲しいのか、どのようにしてそれを知り、欲しくなった動機、その渇望の強さ、これらを相手に分からしめなくては欲しいものも手に入らない。安易になんでも頼めば手に入る世の中ではない。どのくらいの気持ちを込めればよいのかというと…



ーーーーーーーーーーーーーー



「あの…僕が欲しいのは…純粋な…」

「ごめんなさい。あの、私、まだそんなつもりじゃなくて…。」



そう言って断ってしまってから、どのくらいの月日が経ったろうか。大学生だったあの時の彼は、今、どこにいて、何をしているのだろう。

丸美は大きくため息をついた。寒空に昇る白い吐息。月は薄っらと霧の中に居て、ボンヤリとしている。

思い出して懐かしいという気持ちよりも、後悔の気持ちが大きいのかもしれない。

宮城県日本海側の小さな港町から上京してきて間もない丸美は、田舎の潮風よりも東京のビル風の方が寒いことに驚いた。

なんとなく、田舎を出て上京してみたい。そんな想いを抱え、親の反対を半ば押し切った形で東京の就職先を選んだ。

田舎の大学を出たくらいの丸美の就職先は小さな広告代理店の会社で、給料もパッとせず、働く他の社員もどこか陰湿で、居心地が悪かった。

田舎にやっぱり帰ろうか。そう思う時もあった。そんな辟易した気持ちのまま、転職する勇気も出ずに2年が経った。


そんなある日、丸美が職場の近くの喫茶店で昼休みを過ごしていた時、突然後ろから声をかけられた。


「あれ?…丸美?」


丸美が振り返ると、そこには昔と変わらないままの彼がいた。告白を断ってから音信不通だった彼がいま東京にいるなんて。



「どうしてここにいるの!?」
「なんでここにいるの!?」


聞きあうタイミングが一緒で、思わず笑う二人。それから改めて丸美が尋ねた。


「たかゆき、こっちに就職したの?」


彼は少し照れたように、頭をポリポリと掻きながら答えた。


「違うんだ。就職じゃなくて。…あのさ、いまでもやってるんだ。活動。」


彼と丸美は大学生当時、同じサークルのメンバーだった。

漁師の娘だった丸美は地元で採れる名産物の鱈がとても好きだったし、それが日本中に送り届けられていくのを誇りに思っていた。

自分もそんな地元の自然の恵みに関わる仕事をしたい。そう思った丸美は高校、大学と漁業、農業関係の学校に進学した。

その大学には地産地消サークルというのがあって、丸美はすぐさま参加。地元の名産品、鱈や馬レバーの紹介や販売、更には消費が増すように提案書を役所に出す事もあり、本格的なサークルだった。そこのサークルに彼、たかゆきが居た。

お互いの意見を交わし合う内に、丸美とたかゆきは親密になり、毎日の様に一緒にいた。

次第にたかゆきは丸美に恋心を持ち、告白をしたが、丸美は同じサークルの仲間としてしかたかゆきを見ることが出来ず、断ってしまった…。



「へぇ、そうなんだ。東京に来てからは何をしているの?」


丸美が尋ねると、たかゆきは少し誇らしげな口調で説明しだした。


「いまさ、TPPって話題になってるだろ?あれが可決されるとさ、海外の質の悪い安価な食品が大量に日本に入り込んで来て、日本の漁業や畜産農業がダメになってしまうんだ。だから団体を組んで、国会や役所の前でシュプレヒコールをするんだよ。」


シュプレヒコール?何それ?」


「まぁ、簡単に言うとデモさ。」


それを聞いた丸美は、軽くショックを受けた。

デモだなんて、たまにテレビのニュースでも見るけれど、あんなのがまかり通るなんて稀でしかない。そんなくだらない事に熱くなっているなんて、どうかしている。丸美はそう感じた。

職場の人間関係や仕事でストレスが溜まっている自分に対し、対照的に彼は忙しそうだけれど、楽しそうにしている姿が余計に丸美を苛立たせた。


「そんなくだらないことしてないで、地元で働けば?」


丸美の口から出た棘のある言葉とその口調にたかゆきは一瞬たじろいた。


「そ…そうだよな。くだらない事だよな。ハハハ、こんな事しないで地元で働くしかないよな。」


「じゃあ、そろそろ、いくわ。」


たかゆきは飲みかけのコーヒーを残して、喫茶店を出ていった。たかゆきの落ち込んだ後ろ姿を見たとき、丸美は少し、後悔した。

静かになる喫茶店。聴こえるのはたまに他の客がコーヒーを啜る音。

私、何やってるんだろう。

深い深いため息をつく丸美。交際を断った時の事を最近になっても後悔しているし、今の職場に就職したことも後悔して。あげく、一生懸命に活動をしているたかゆきに、くだらないというキツい言葉をぶつけたことも既に後悔していた。

本当は私も付き合いたい。仕事も自分の好きな仕事がしたい。地産地消の活動もしたい。くだらないなんて言ったのは本当はたかゆきの生き方が羨ましくて、拗ねて言った言葉だという事も、いまはよく分かってる。


もう後悔なんて、したくない。


丸美は慌ててバックの中からケータイを取り出し、アドレス帳を調べた。
岡田孝之の名前があった。番号も変わっていなければ繋がるはず。

祈る一心で電話を鳴らす丸美。
接続音が鳴る。どうやら今も番号は変わっていないらしい。

数コールの内に電話が繋がった。


「もしもし、あ、私。あのさ、さっきは酷いこと言ってしまってごめんなさい。」


「あー、いや、いいんだよ。学生でもないのにこんな事続けてるからくだらないって言われても仕方ないさ。」


明るい声で返してくるたかゆき。本当に優しい人だ。と丸美は感じた。

ふと、丸美は不思議に思うことがあった。なぜ、たかゆきは地産地消のサークルに入っていたのか。それに今でもどうして積極的に活動を行なっているのか。

たかゆきの家族は畜産農家でも漁師でもない。サークルに居た当時も何度か聞いた事があるが、いつも理由は教えてはくれなかった。聞くなら今だと丸美は思った。


「あのさ、たかゆきは、どうしてその活動を続けているの?それに大学の時のサークルもどうして入ってたの?」


電話越しでも、たかゆきが照れくさそうに頭を掻いているのが分かる。しばらく沈黙した後に、たかゆきが説明しだした。


「僕さ、実を言うとサークルに入った時は全然地産地消なんて興味なかったんだ。飲みサーとかは酒弱いから入りたくなかったしさ。で、そんな時に丸美と会って、いろんな丸美の熱い気持ちを聴いていて、僕も本気になったんだ。純粋に地元を想う気持ちっていうか、好きな事に取り組む気持ち。だからそんな丸美を見ていて僕は君を尊敬していた。それに…」


「それに?」


次の言葉が聴きたくて、ドキドキする丸美。


「それに…魚も肉も苦手だったけど、食べれる様になったんだ!鱈も。レバーも。」


子供みたいな事を言うたかゆきの話で思わず笑う丸美。本当に彼は今も変わっていないんだ。そう感じた。そんなたかゆきの事を愛おしくも感じる。

間を少し置いて、たかゆきがまた話し出す。


「だから丸美の地産地消の願いを僕が叶えてあげなくちゃって、今でも想っているんだ。きっと君も喜ぶと思って。」


私の気持ちも伝えるなら今しかない。丸美はそう思った。たかゆきに気持ちを伝えて、付き合いたい。

そう思った時、先にたかゆきが話し出した。


「あの…僕が欲しいのは…純粋な…純粋な君が欲しいんだ!丸美、僕と付きあってほしい!」



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このくらいの気持ちを込めれば、間違いない。来る。必ず黒酢は来る。


「あの…僕が欲しいのは…純粋な…黒酢なんです。」




「アリマセン。」


もう後悔しかない。デモでもやるか。

その女、デンマーク

今、左の乳首がヒリヒリする。

ブログを書き出してから早いこと8年目になるが、いまでもこんな書き出しでブログを書けると思うと、日本はつくづく平和なものよと感慨深い。
今年も良い年になりそうだ。


さて、本題に戻る。左の乳首がヒリヒリするのだ。何故ヒリヒリするのかというと、それはある1人の女との出会いが全ての始まりだった。また妄想かよ!!と多くの読者は感じるかもしれないが、決してそうではない。

初めての出会いは唐突だった。
朝夕が寒くなってきた昨年の10月頃、彼女はショップの店頭にいた。


上野でも有名な、市場や居酒屋が軒を連ねるアメ横から、一本隣の通りに出ると、喧騒も少し治り、そこにはいくつものセレクトショップが並ぶ。

僕は昔から服が好きで、買う金も持たなくてもプラプラとあちこちの服屋を見ては掘り出しものの服がないか見て回る癖がある。

だから自然と、またこいつ来た。みたいな冷たい対応を店頭のスタッフにされてしまう。

いくら服が好きだからといっても、所詮は服を買ってくれない客にスタッフは用がないのだ。愛想はそこにない。

ただ、その日行った一軒の服屋に居た女は違った。他のスタッフが冷たい目で見る中、その女だけは何か遠くを見るような目で、僕を見ていた。そして冷たい態度を取るわけでもなく、ただ、見つめていた。

初めての対応に、僕は何故か不快になってしまい、そそくさと店を出た。なんだか不思議な気持ちになった。恥ずかしいような気持ちになった。

あの女の目は、僕を俯瞰しているような、心の奥底まで全てを見据えているかのような、そんな目をしていた。深い深い海のような、そんな瞳。海の底にあの女は居て、こっちを見ている。そんな夢も見た。

何日か経っても、その女が脳裏に焼き付いた。仕事をしていても、飯を食べても、その女は確かに、僕の脳裏にいた。まるで一緒に居たいのかの様に。それが相手からなのか、僕が一緒に居たいと望んでいるのか、それすらもよくわからないまま。

数日後、また僕は上野に来ていた。目的は言うまでもなく、女に会うためだった。プラプラなんてせずに、まっすぐに店に向かう。

女は店頭にいた。初めてあったときは、その吸い込まれるような瞳ばかり気にしていたけど、改めて見るとかなり特徴的な女だった。

柔らかい質感の白い肌、
額の真ん中で分けたロングヘア。
艶めかしい、色気のある身体つき。
そしてまるで雪原の中で踊る赤いドレスの少女の様な、白い肌に浮き出る、赤い唇。


ハーフなのだろうか?
どことなく日本人っぽくない。

極端に白い肌はロシア系なのかわからないが、ヨーロッパ系らしい感じだ。

雑な接客もなければ、挨拶も特になく、ただ店にいる女。普段はどんな接客をしているのだろうか。失礼だが、こんな態度で働いて、よく首にならないものだ、とも思った。

その日も特に服を買うこともなく、僕は店を出た。スタッフはもちろん用のない客には挨拶をしない。女も、なんの挨拶もしてこなかった。



それから、更にしばらく日が経ち、12月になった。あの女はいまも、店にいるのだろうか。相変わらず、そんなことばかり気にしていた。

薄々、僕自身があの女に惚れているのも、もう分かっている。会って声でもかければいいのかもしれないが、いまいち勇気が出ず、いたずらに時が過ぎていた。

我慢出来なくて、店に向かった。せめて声がかけれなくても、あの女を一目見たい。そう思った。ストーカーになる男の心理が、いまならわかる気がした。


いつも店頭にいた女が、居なかった。
12月の寒風が、僕の身体を冷やす感触が伝わってくるのが分かる。深い哀しみのぬかるみに足をつけている様な感じがした。


どこに行ったのだろう。あの接客で、首になったのだろうか。

僕は他のスタッフに聞いた。あの子はどこに行ったのか、と。

あ、あのデンマークの女ですか。
もうウチにはいませんよ。確か…

スタッフは一度店内の奥に入り込み、しばらくすると戻ってきた。

今は池袋の店舗にいますよ。

僕はその言葉を耳にしながら、もう身体は外に向かっていた。もう外の空気は寒く感じなかった。


もう、迷わない。そう自分に言い聞かせた。離れて見てるだけじゃダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ!!自分の気持ちを伝えればいい。君のことが好きだと。一緒に居たいんだと。その後のことは、…今は考えてもしょうがない。



池袋の東口にPARCOがある。そこの4階のテナントの一画に、上野のお店の系列店が入っていた。

そこに女はいるらしい。やはり、あのスタッフの話を聞いた限りでは、あの女はデンマーク出身か、デンマーク人のハーフなのだろう。

エスカレーターを歩いて登りながら、4階のテナントに行くと、女はそこにいた。初めて会ったときと変わらない、遠くを見るような目で、僕を見ていた。

僕は気持ちを伝えようとして、女に近寄り、女を掴み、言った。


「これください。」





とまぁ、こんな話なんですけど、
素肌でこの服を着ると、ちょうど左乳首が人魚の尾ヒレの裏地に当たって擦れてしまってヒリヒリするんです。

とりあえず貝殻つけとくか。

君に捧げるエンブレム


世の中の常識を不意に押し付けられる事がある。

夜、友人と小汚い立ち飲み屋で酒を飲み交わしながら語りあっていた。

年明け早々僕の語る来年の抱負を、まるで僕が存在しないかのように見事にシカトする友人。もはや会話にならない。

僕のことが嫌いなんじゃないか。とまで感じるのだけど、これは裏を返せば、

「貴様は面白くない話をしている。」と暗に伝えてくれているのかもしれない。こいつとはこれからも仲良くいれそうだ。そんな時、友人が口を開いた。



「君に捧げるエンブレム、面白いよね。」

友人は唐突に僕の話を遮り、話題を変えた。こいつはなにを言ってやがるんだ。冷や汗で背中が湿る。

櫻井翔の演技が上手いよな。」

どうやら友人は最近のドラマなんぞの話を僕にふってきているようだ。僕が大のテレビ嫌いで、観てないことも知っている筈なのに。

僕にとっての限られた情報網といえば、新宿とか渋谷の電光掲示板と電車のつるしんぼと床屋の美味しんぼ位だ。

最近は電光掲示板もない台東区という東京のサイハテみたいな場所に居を構えてしまったものだから、やたらと老人共の浅草の参拝ルートとか鶯谷のホテルの空室事情位しかわからない。

「え?何それ?知らないよ?」

と僕は喉仏まで声がでかかったのだけれど、友人は僕がテレビを観ていないのを知っていて、わざとこの話題を投げかけているのを五感で感じとった。

メディアの情報は一般常識だとばかりの態度だ。こんなもんは押し付けだ。

友人は冷ややかな目で僕を見ている。ここで知らないと言うのも癪なので、知っている程を装う。

「あぁ、あれね!観たよー!エンブレムの奴ね。」

なんせタイトルと櫻井翔しか情報が無いので、これくらいの知ったかぶりが限界である。冷や汗が更に滲む。

あまりにも会話が展開出来ないので、友人の視界の死角でケータイで調べることにした。戦場では情報戦が全てだというのも今ではよく分かる。

タイトルを検索ワードに入れて出すと、流石天下のグーグル。もののコンマ数秒で情報が入ってくる。

友人に今更知らなかったから調べているのをバレるのは嫌なので、大雑把に流し読む。

ふむふむ、国民的ドラマ、櫻井翔、長澤、エンブレム、車椅子、感動。これ位分かれば充分だろう。

友人に呼ばれ、慌ててケータイをしまう。どうやらバレなかったようだ。安堵する。しかし、友人の口から衝撃的な言葉が出てきた。

「俺さ、あのドラマ観てないから教えて欲しいんだよね。ストーリー教えてよ。」

まさか、である。友人の方が知らなかった様で、更に聞くと、正月明けの職場でのドラマの会話が出来ないから、是非とも全容を教えてくれとの事だった。

今更、いや実は…と言えないのが僕の性格なもんだから、とりあえず僕の脚色で説明してあげることにした。以下はその全容である。


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月9ドラマ「君に捧げるエンブレム」



大正3年から大正7年にかけて行われた第一次世界大戦が幕を閉じるところから物語は始まる(補足だが当時は第二次世界大戦は行われていないのでドラマ上では世界大戦と呼ばれている)。

イギリス、フランス、ロシアを中心とした連合国が勝利し、同盟国でもある日本も勝利を収めた。

ドラマの軸になる登場人物は、青島と膠州湾の攻略で同じ部隊に配属された櫻井翔(陸軍中尉)と長澤(陸軍少尉)。

戦地で共にドイツ軍と戦い、そこで意気投合した2人。階級は違えど、まるで兄弟のように親交を深めた2人は帰国後も再開しようと誓いあう。

別々の輸送船で帰った彼らは東京の地で数ヶ月ぶりの再開を果たす。

しかし、そこで櫻井翔が会った長澤の姿は以前とはまるで違っていた。

長澤は櫻井翔と別働隊になった後、戦場で対人地雷を踏んでしまい、右足を太腿から下を失っていた。心配した櫻井翔は尋ねる。

「おい、長澤、その脚、大丈夫なのか?」

しかし、車椅子で登場する長澤の姿は威風堂々としている。

「大丈夫だ。日本男児たるもの、脚の一本くらいで落ち込むものではない。」


それから2人は度々会っては酒を飲み交わし、日本の将来を語りあった。

そんな中で国内では、次々と戦場で成果を出した人物の昇級や賞金が贈られるようになる。櫻井翔もその中で青島の要塞攻略の功により勲章(金鵄勲章)を受けることに。

「おめでとう。櫻井。君は日本の宝だ。」

長澤は友人の表彰を素直に喜んでいる。

「いや、しかし、あの激しい戦闘を乗り越えた我らに違いなんて無いはずだ。長澤、君も勲章に値するよ。」

櫻井翔はそう言うと、長澤はハハハ…と笑う。その表情は喜んでいるようだが、どこか様子がおかしい。

「長澤、どうしたんだ?もしかして…。」

櫻井翔の予感通りだった。長澤は戦地で負傷した後、戦場の簡易の治療しか受けておらず、帰還後もそのままにしていた。

その結果、破傷風になってしまっていた。当時は治療法は明らかにされていた破傷風だが、血清が不足した日本での治療は不可能だった。

「もう俺の命も長くないようだ。ただ、死ぬ前に戦友が立派に勲章を受ける姿を見ることが出来て良かった。」




数日後、長澤は息をひきとった。

長澤の葬儀のシーン。
親族が長澤の遺体に様々な言葉を投げかける。

火葬前の長澤の前に立つ櫻井翔


彼は唯一無二の戦友、長澤に向かって言葉は何もかけない。無言のシーン。


そして櫻井翔は長澤に最敬礼をする。

ここがこのドラマのクライマックスであり、感動のシーンだ。


真の友人同士、会話は要らない。


やがて最敬礼を終えた櫻井翔は、胸に着けたエンブレム、勲章(金鵄勲章)を外し、長澤の遺体にそっと載せる…


ここでこの月9ドラマ「君に捧げるエンブレム」は幕を閉じるのだ。

まさに国民的ドラマ、感動の涙が止まらない。



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と、ここまで僕の語るドラマの全容を、まるで僕が存在しないかのように見事にシカトする友人。もはや会話にならない。



いや、真の友人同士、会話は要らないのだ。

心に残るイケメン

人生の中で誰しもが心に残る光景を観てきたことだろう。苦労して登った山頂からの眺め、初めてのデートで一緒に眺めた夜景。それらは幾ばくの時が過ぎ去ろうとも、心の中では鮮やかな色彩を放ち続ける。


僕はなかなかに強烈な友人達がいて、その中の1人にゲイの友達がいる。次々と強かに酔ったノンケの男共をあらゆる手を尽くしては連れ去っていく、北朝鮮工作員みたいなゲイだ。もはや手抜かりはない。


そんな彼と久しぶりに会った時、彼はまだお酒を呑む前から頬を、日の出の空のような赤色に染め、トロンと虚ろな目をしていた。そうだ。彼は恋をしていた。話を聞くと、その彼(好きになった相手)は今時の塩顔なイケメンだったのよ…と呟き、溜息をつく彼(恋をしているゲイ)。


出会いは僕がよく行く二丁目のオカマバーだったそうだ。そこは観光バーだからポケモンGOみたく、「ノンケが出たぞ!」と公園を走り回るツワモンはいない。普通に女性客も来るし、ノンケの男も気軽に入れる、それが観光バーだ。

彼(恋をしているゲイ)は彼(好きになった塩顔)を一目見たときには声にもならない叫び声をあげたそうだ。一目惚れをしたらしい。

彼(一目惚れをして恋をしているゲイ)にどんな容姿だったのかというと、彼(好きになった塩顔)はノンケで、程よい筋肉、短髪で清潔感のあるヘアー、そして完膚なきまでの塩顔だったという。なんだよ、完膚なき塩顔って。


塩顔といえば西島秀俊とか加瀬亮とかがイメージに浮かぶのだけど、塩顔とはどんなものぞ!と僕は興味しんしんになったので、早速彼(ノンケで筋肉と清潔感のある、好きになった完膚なき塩顔)に会えるかもよ?と彼(一目惚れをして恋をしている完膚なきゲイ)に提案してみた。

いやん、いきなり会うなんて怖くてできないわ。と言ったそばからバックを持って席を立つ彼(いきなり会うのは怖い一目惚れをして恋をしている完膚なきゲイ)はまさに肉食系男子である。いや、乙女?

数分彼(いきなり会うのは怖い一目惚れをして恋をしている肉食系男子の完膚なきゲイ)と歩いてお目当てのオカマバーへ。中を覗くとチラホラと客がいた。男女のカップルや、男男のカップルや、1人で来ている男の客。

おや?もしかしてこの1人でいる奴が噂の彼(ノンケで筋肉と清潔感のある、好きになった完膚なき塩顔)じゃないのか??とテンションが上がる。確かに少し塩顔っぽい。空いた席に着いて彼(いきなり会うのは怖い一目惚れをして恋をしている肉食系男子の完膚なきゲイ)に聞いてみた。

「そうよ、あの人よ!あの奥の方!」

指差す方を見るとそれは1人で呑んでる男客じゃなくて、男男のカップルだった。奥の方に座る彼(ノンケで筋肉と清潔感のある、好きになった完膚なき塩顔)の塩顔を覗いてみると、全然塩顔どころか目鼻立ちが濃すぎてイタリア人みたいな顔していた。

どこが塩顔だよ!どう見てもイタリア人である。シチリア産の塩。

ふと彼(実はノンケじゃなくてゲイで恋人のいた、筋肉と清潔感のある、好きになった完膚なきシチリア産)から視線を彼(いきなり会うのは怖い一目惚れをして恋をしていたんだけど惚れた相手が実はノンケじゃなくてゲイの恋人がいた肉食系男子の完膚なきゲイ)を見ると、めっちゃ泣いてた。

完膚なきまでの号泣。いいの、私の心の中で彼(実はノンケじゃなくてゲイで恋人のいた、筋肉と清潔感のある、好きになった完膚なきシチリア産)はいつまでも思い出として添い続けるのよ。と言い、鼻水を垂らしながら恐ろしい顔をする彼(もはやただの怖いゲイ)。


むしろ同性愛ネタをブログに書くとカッコ書きがやたら長くなって一番泣きたいのは僕の方だ。



心に残るイケメン。
それはすこし、しょっぱい思い出。

いきすぎた便器


朝、気持ちをナイーブにさせる出来事があった。仕事の前にトイレで用でも足すかとコンビニへ。最近のコンビニはトイレが綺麗だと客足が伸びるみたいな思想が根付いているものだから、割とトイレが綺麗になっている。

昔はトイレが汚かった店舗も見事に改装されていたりして、昔はあんな奴だったけど、ここまで立派に育ったのか。と感慨深いものがあり、胸が熱くなる。

さてトイレしようとするのだけれど、便器の蓋を途中まで開けると、そこからが硬くなっていて蓋が開けられないのだ。恐れおののいて手をはなすと、その蓋は再び元の位置まで下がっていき、閉まってしまう。なんということだろう。生まれてこの方、便器に拒絶されたのは初めてであった。

僕の事が嫌いなんじゃないか。

という考えが脳裏をよぎる。


例えるなら恋愛でいうところの12月の半ば、そろそろクリスマスじゃないかと思い、今年はプレゼントは何をあげようかな?サプライズしようかな?ムフフと心躍らせながら仕事を終えて帰宅していると、彼女からラインが。

「もう別れよう。」たった一言でこれだけの破壊力を秘めた言葉があったのかと疑うくらいにショックを受け、すぐさま理由を聞く。

「分からないならいいよ。」なんて返事か来ると、分からないから聞いているのに此奴は何を言ってるんだ!と憤りながらもそこは紳士的に返事を適当に返す。

どうやら今日は彼女との一年記念日だったらしく、クリスマスの計画を立てて浮かれる前に意外な落とし穴があったようなものだ。記念日なんかおちおち数えてられるか!メンヘラか!と憤りながらも、そこは紳士に返事を適当に返す。

「とりあえず、謝るから今から会いに行くよ。」今更何を謝るんだと自分でも呆れるものの、クリスマスを一人で過ごす訳にはいかないのだ。ここは忍耐あるのみ。

家の玄関を出ると、北風が肌を刺すような寒さをぶつけてくる。なにもこんな寒い日に会いにいかなくても。と思わず自分で呆れるものの、クリスマスを一人で過ごす訳にはいかないのだ。満月の月の下をトボトボと歩いた。

彼女の家は家からさほど遠くない。歩いて着く距離だ。ラインで「家に着いた。」とだけ送る。すぐに既読。彼女から返ってきた言葉は、「もう帰って。」だった。こんな寒い中歩いてきたのにあっさり帰れるかい!と思い、玄関のチャイムを鳴らす。

しばらくすると玄関の向こう側に人の気配がして、ガチャリと扉が開く。しかしドアロックされたまま、彼女はその隙間から顔を覗かせてこう言った。

「もう帰ってほしい。」

またすぐにドアを閉めようとする彼女。この扉がしまれば、二度と開くことはないのだろうと、慌てて僕は扉の隙間に手を差し込み引っ張る。だが彼女は扉を閉める手の力を緩めることなく閉めようとしてくる。恋愛とは残酷なもので、冷めた恋の先には相手を慮る気持ちは全く残らないものだ。

思わず手が挟まりそうになり、恐れおののいて手をはなすと、扉はバタン。と閉まってしまった。

僕のことが嫌いなんじゃないか。

ってくらいトイレの蓋が開かない時のショックは大きかった。結局壁についている便座の開閉ボタンを使えば開くつくりになっていたのだけれど、こんなの恐怖を煽るだけで必要無いよ!!と思う。ここまで自動式になるといきすぎた便器だ。便器だけど不便だ。


とまぁ、こんな感じで文章を書いたのを投稿前に友人に見せたら、

「またトイレネタ?それしかないの?それに例え話がいきすぎてるし。こんんな作り話よく妄想して書けるね。」

と露骨に言われ、こいつ、

僕のことが嫌いなんじゃないか。

という思いが脳裏をよぎった。どうせ僕のブログなんて身も蓋も無いですよ。いや、蓋はあるか。

「残業100時間で自殺は情けない。」

「残業100時間で自殺は情けない。」とコメントした武蔵野大学教授、長谷川秀夫さんが処分を受けるに至った件。

電通に勤める女性が「仕事にいくのが怖い。」等のツイートをしていた事も話題になりました。

この一件がTwitterやらニュースタグやらでお盛んになっていて、僕としては非常に良くないと思うんです。

何がいけないかって、このコメントがじゃあ亡くなられた女性に失礼極まりないとか、いや確かに情けないよね、とかの内容の部分ではないんですよ。

こういう世論とは反したコメントが圧倒的な勢いで叩かれて処分されていく、この世の中が非常に良くないと僕は思う訳です。

世の中には様々な人がいる訳で、みんな頭の中じゃ多様なことを考えているんですよ。だからこそ議論を交わし合うことが出来て、より良い方向に向かって行く訳ですよ。

それをメディアが叩いて、世の中の人がみんなして「秀夫はひでぇ」なんて酸っぱいことを口を揃えて唱えたら、これは1つの情報統制な訳です。

皆が皆FacebookTwitterで不適切な発言を避ける。となると、自由に多くの情報を発信できるのがメディア側だけになる訳です。

「メディアの報道=世論」みたいになってしまう。メディアの報道が正しくて、それにみんな同じ様に考えているんだな。となってしまえばもう全体主義の完成です。全体主義で個人を思考不能にしていく様はナチス全体主義政権下や大日本帝国政権下の下地作りのままですね。天皇万歳!

とまぁこんな感じでメディアの話題から哲学、歴史、世界情勢の話まで友人とドップリ語り合った訳ですよ。僕らは世界平和の事を考えると飯も喉を通りませんから。ずいぶんとカオスなトークでしたよ。

そこから飛躍して中国と米国の南シナ海をかけた情勢悪化による戦争が起きるんじゃねえかとか、TSUTAYAにいつになったら杏里がレンタルに出されるんだとか、そういった討論を重ねていたらもうこんな時間ですよ。

ド平日の午前4時45分。もう少ししたら仕事です。「仕事にいくのが怖い。」