初夢は1エロ2サケ3バクチ ②
1月1日、15:30。熊本空港に着いた。
元旦初日っていつも飛行機が安い。やっぱり年越し前にはみんな帰郷して、一緒に年越しイベントをこなしているのだろう。集団行動が苦手な僕みたいなのが、こうやって元旦の飛行機に乗るのだ。
地元の熊本県は抜群にアクセスが悪い。
他の都道府県は空港、主要駅、繁華街が密集しているのに対し、熊本県はその全てが離れている。せめて鉄道で繋がっていれば良いものの、空港はバスか車でないと行けない。立地や予算的なものの兼ね合いもあるのは確かだが、初めてこの土地を訪れる人にとってはショッキングかもしれない。
空港からバスに乗り市内へ。
コロナの影響か、正月だからか、全然人がいない。
しばらく彷徨くと、やたら店から賑やかな声が聞こえるので覗いてみる。ベトナム料理の店で、中はベトナム人100%って感じだ。正月で多くのベトナム人が集まっている様だ。
熊本はベトナム留学生、技能実習生併せて6000人以上住んでいて、県内の外国人最多である。
とまぁ、蘊蓄は置いといて、中に入る。香ばしい匂いが立ち昇る。空いてる席を見つけて座ると、隣の席の人が香ばしい匂いの炒め物を食べているので、同じものを頼んだ。
カエルの香草炒め。
鶏肉と変わらない美味さだ。海外の屋台で食べる様な油っぽさもなくて最高に美味い。
サイゴンビールが香草炒めのピリ辛にちょうど合う。正月はおせちよりカエルだ。
ぺろっと平らげて、店を出た。
あたりはすっかり暗くなってきた。
ほとんどの店が閉まっているし、することもないので予約したビジネスホテルにチェックイン、ベッドに転がりこむ。
コンビニで買った角ハイボール濃いめ500mlをズビズビと啜りながら競輪。日本の公営賭博ってのは狂っていて、元旦から始まっているのだ。前橋、宇都宮、伊東、などなど全国各地でおっぱじめている。こんな日からギャンブルするやつの気がしれんわ!!
とりあえず前橋で3車単フォーメーションで勝負。あっさり負け。適当に買って、負けてしまいスクショも撮ってないし、あまり覚えてない。角ハイが空になったところで寝落ちした。
1月2日。6:00。 目が覚めた。
適当に身支度を整えて、出発。
このホテルまでは前もって予約取っていたけど、ここから先はどこに立ち寄るか、何も決めていないので宿の予約はしていない。
たいして金も持ってきていないので、基本的に博打で増やした金で宿を取るのだ。負ければ野宿。1月の寒空の下はかなり冷え込むので、負けるわけにはいかない。
朝はコンビニで買ったおにぎりと菓子パンと角ハイボール濃いめ500mlで朝食。毎日相当な量の酒を飲んでいるから早死にするだろう。肝臓に神経があったら痛くてのたうち回ってるにちがいない。
7:30。熊本駅。久しぶりに帰ってきたけど、帰る度に駅の建物も綺麗になっていく。この先、台湾の大手半導体企業が綺麗な熊本の地下水を求めて熊本に参入してくるので、きっともっとこれから熊本は変わってくるに違いない。
ここからはいつものお約束、伝家の宝刀、「青春18切符」の出番である。
今日はどこに行こう。とりあえず、北を目指す。今回も長い旅になりそうだ。
博多は前も立ち寄ったし、博多の街は路上で野宿しても定期的に心優しい人に叩き起こされるような治安の良さなので、もう行かない。そうだ、小倉にでも行ってみようか。
熊本から小倉までおよそ3時間半。大牟田で一度乗り換えるだけなので、あとはひたすら電車の中でぼーっとする時間がやってくる。
2本目の各ハイを啜りながら本を読む。西村賢太の「苦役列車」。この著者の話はどれもこれも気持ちいいくらいの底辺っぷりで、サケと女とバクチに目が無い筆者の実体験を元に小説を書いている。かなり僕が好きな著者の1人である。改めて再読。僕もいつかは本を出したいなぁ。そして出すならこのくらいの底辺っぷりがいいなぁ。でも、酒とか女とか博打が好きって文章なんか書いて周りに知られたりしたら恥ずかしいなぁ。
長い間乗り続ける車内もだんだんと退屈になってきたので、途中下車することにした。
小倉より数駅手間の黒崎駅。12:40。
そろそろ腹減った。なにか食べたいと思い、周辺を彷徨く。
黒崎の町は八幡製鉄所に近く、昔はそれなりに賑やかな町だったのだろう。駅から扇状に伸びた街並みは商店街がいくつもあった。今では過疎化と正月休みのダブルパンチでかなり寂しい街並みになっていた。
駅前に巨大なパチンコ屋があった。
よし。まずはここで金を増やさないと。昼飯はそれからでいいだろう。
中に入る。閑散とした店内には年寄りがちらほら。正月からパチンコに勤しむ奴にロクな奴はいない。
ガンダムユニコーンの台が空いていた。この台は一撃1500玉、つまり4ぱちで6000円分吐き出す、当たるとデカい台だ。実際計算すると玉を打ち出し続けたり、換金率とか考えるともう少し下がるが。ただ、まぁ当たりにくい。319分の1。ガンダムとかアニメも漫画も知らないし、登場人物もしらないけど、とりあえず大型の重機に乗る作業員の話なのだろう。
普段パチンコあんまりしないので、諭吉入れるのはヒヨってしまい野口投入。なかなか玉がヘソに入らず、抽選が開始されない。抽選が始まってもなんのリーチもなく、ハズレ。ダメだ、こんなんじゃ黒崎でまともな昼飯にありつけないじゃないか。さらに野口投入。三人くらい野口が入ったところで、赤保留が。キタキタ。赤保留が来ると当たりを引きやすい。つまりアツいのだ。
ながったるいリーチの末、ハズレ。どうやら精神的に異常をきたした作業員が、ユニコーン!と叫んだものの、重機に乗ることができなかったみたいだ。朝起きても会社に出社出来ずに家に引きこもってしまう適応障害の可能性がある。
あっというまに7000円負け。ふざけんな。
これ以上は無駄だと思い、店を出た。そのまま黒崎駅に直行。コンビニでハイボールを買い、電車に乗り込んだ。ギャンブルなんて二度とやらん。
それから30分程で小倉に到着。政令指定都市の北九州市内で最大の大きさの小倉駅。ここから山陽本線の電車に乗れば、門司を抜け、山口県下関まで行ける。九州の最後の寄り道はここでいいだろう。
昼メシはここで食べることにする。
小倉駅の南口改札を出て地上階へ。小倉周辺を回るとそれなりの距離があるのでレンタルチャリを使用する。アプリで指定した駐輪場の電動自転車を選ぶと時間料金をクレジット決済するだけで借りることが出来る。時短とコスパのバランスの取れた最高の交通手段である。
電動チャリに乗り、信号の色が青い方にひたすらペダルを漕いでいく。風の向くまま、気の向くまま。
アーケード街を外れ少し進むと立ち飲み屋を見つけた。「ももたろう」と暖簾に書かれた店内を覗くと、なんとも味のある雰囲気を醸している。チューハイが安い。こりゃ飲むしかないばい。
競輪のYouTubeライブを観ながらチューハイを飲む。美味い。店内の客層は中年のおっさんがほとんどだが、なんかこう、常連って感じじゃなくて、正月で浮かれて家から出てきた中年って感じなので、絡むのをやめた。僕の賭けた2車単流しの福岡出身の競輪選手が大きく捲りを決め、1着。よっしゃ。まだ飲めるぞ。
口座に入っている金でネット上で賭けるのに、なぜその場で飲み食いが可能なのか。それはデビットカードを使っているからである。わざわざ銀行に行かずとも勝ち負けの金は口座から直接会計できるのである。なかなか我ながら賢い。プレーンのチューハイと鳥もも焼きを胃袋に詰め込み、店を後にした。
表に置いた自転車に跨る。ももたろうで、近くで安くて美味い店はないかと聞いたら、天ぷら屋があるよ、と教えてくれた。店の従業員に他の店を聞くなんて不謹慎だが、小倉の人柄なのか、優しく教えてくれた。
天ぷら三品と生ビールで500円は安すぎる。
立ち飲みではなく、カウンター席だった。
もちろん昼飲みセットを頼み、生ビールで口髭を作りながら競輪。怒涛の穴の2車複が的中し、15000円。しめしめ。
熱々の天ぷらが出てくる。
とり天、人参天、春菊天?(忘れた)の三種。
油っこくもなく、さっぱりとしていて岩塩が合う。競輪の勝ちで気分も高揚し、美味いったらありゃしない。
ごちそうさま。表へでた。
腹も膨れたし、散策しますか。
自転車を漕ぎ怪しい小道を抜けていく。
なんか怪しい店がたくさん並んでいる。駅のすぐ脇なのに、このディープ感はすごい。
いかにもって感じの、ディープな街並みはほんとワクワクするなぁ。
僕が日本各地を旅行するとき、必ず訪れる場所がある。そう、風俗街だ。いや、決して風俗街で遊びたいのではなくって、風俗街というのはその土地の歴史に密接に関わっているからだ。ほんとだぞ。
突然たまたま風俗街というのは生まれるものではなくて、そこに石炭や鉄資源などの採掘場ができて発展した結果だったり、船舶の外交の盛んな街であったりと、必ず理由があるのだ。そして現代に至るにつれて都市一点集中化していく中で地方の風俗は衰退していく。
栄枯必衰。
そんな一連の歴史のドラマを肌で感じることができる。内外装の同時改築ができない風営法の縛りもあって、ソープランドは昔の外観のまま残っているのだ。
小倉駅から自転車で5分も行くと小規模のソープ街が現れる。小倉船頭街という地名は、その昔本州と九州を船で渡す際の船頭が多く住んでいた街だからである。中洲の次に大きい風俗街だ。
二筋の小道に並ぶソープの店舗。建物もノスタルジー全開で、アンティーク好きには堪らない。
店の軒先にはそれぞれ客引きのおじさんが立っていて、「姫はじめはいかがですか?」と声を掛けてくる。ちなみに姫はじめとは一年の最初のセックスのことだ。逆に年の最後のセックスを姫おさめと呼ぶ。なんとも風流だ。
だが僕は、そんなものには興味ないのだ。無視する。
そんな時、小道の角の店の入り口にいた、パイプ椅子に座った初老が話しかけてきた。
「いい雰囲気の街ですよね。ここは。」
明らかに他の客引きとは違う雰囲気の初老だった。
「そうですよね!僕、日本中旅していて、こういう風俗街のアンティークな街並みを眺めるのが好きなんです。」
そこからその初老とこの小倉船頭街について語り合った。昔はもっと店が多くて、沢山の人がごった返していたとか、まだ初老が小さい頃からこの辺りに住んでたんだよとか、沢山初老の昔話が聞けた。思わず引き込まれる様な、独特な喋り方に、僕は魅力されていた。初老は言った。
「ぜひ、中でゆっくり、アンティークを感じていきませんか?」
ここまで魅力的に話す初老の話、せっかくだからもっと聞かせて欲しい!僕はうんうん頷いて初老に連れられたが、結局ここはソープランドなのであって、部屋に通されてから出てきたのは話してた初老じゃなかった。
とんでもないババアが出てきて八幡製鉄所みたいな顔してた。確かにアンティークなのは確かであったが、アンティーク好きというのは、そういう意味じゃない。とんでもない姫はじめ、いや、婆はじめになった。
「また来てください。」
そう声をかける初老を無視して、僕は自転車に乗って小倉船頭街を去った。漕ぐペダルに力がこもる。目頭が熱くなる。この日、僕は、いろんなものを失ったようだ。
旅の恥はかき捨て。このことは誰にも言わずに墓まで持って帰ろう。そう、誰にも知られてはいけないのだ。
小倉駅前まで戻って、さぁ電車乗りますか、と思ったらまだ電車の時刻までだいぶ間がある。ここはとりあえず鉄なべ餃子でも食べますか。
一口サイズの餃子。
福岡って言ったらこれよね。
そしてハイボールが良く合う。
ぺろっと平らげて、駅へ。
なんか色々あったけど、
嫌いじゃないぞ、小倉。
また来たい街、小倉。
もしまた来たら今度こそ
姫はじめだな。
そう胸に誓う。
電車が走り出す。ここから下関まで乗り換え無しだ。ここでまたハイボールのプルタブを開けて啜りながら競輪。 さっきの勝ち分が何故か無くなってしまったので(何故だろう)また勝負に出る。2車単フォーメーションに2000円ずつ。結果が出るまでドキドキしながら夕日を眺める。
きたきたきた。
完全に取り返せてはいないが、まぁいいだろう。
17時。18キロもの関門トンネルを抜け、本州へ入り下関に。夕日が彦島の山の奥に沈んでいく。
ちょうど2年前の正月も下関から沈む夕日を眺めていたのを思い出した。正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 1 - しらぼ、あれから2年。さまざまな思い出が過ぎるが、夕日は2年前と全く同じ様に沈んでいく。なんだか不思議に思えた。
2年前はここから下関を彷徨いたりしたが、今回は下関で途中下車はしない。下手に時間を過ごしてしまうと、大変な目にあうのだ。
2年前に乗ったのは瀬戸内海を眺めながら山口、広島、岡山、兵庫を通る山陽本線。
そして今回は山口、島根、鳥取を通る山陰本線。山陽本線に比べると山陰本線はあまり大きい町に留まる駅が少ない。終電を迎える駅が周りに何も無い無人駅だったりすると退屈な夜を迎えてしまうのだ。失敗は許されない。まさに陰と陽。
ここから途中下車無しで6時間フルに乗り続けても主要駅は長門、萩、益田、と続き、浜田駅で終電となる。出雲まで行けば栄えているが物理的に無理だ。つまり今夜はこの道中のどこかで寝ることになる。一月だが寝袋はあるので、基本的にどこにでも寝れる。日本の治安の良さに感謝、である。
発車のベルが高々と鳴り響き、電車がゆっくりと動き出した。
さあ、物語は山陰本線編に突入だ。
つづく