しらぼ、

松本真青がSFを書くとこうなる。

正月企画!青春18きっぷ一人旅 熊本〜大阪 2

1月3日。午前11時。

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元日に熊本に到着してからは、地元の友人と会っては酒を呑み、と楽しい2日間を過ごし、そしていま、僕は西熊本駅に着いた。無人の改札を抜けてホームに出る。冷たい風が肌を刺すが、正月らしい快晴。なんてめでたいんだ。こんな日にまさか電車にこれから十数時間も電車に乗るバカ野郎なんてきっといないはず。

 


列車がホームに滑り込んできた。2両車。小豆色の渋い車体が陽の光を浴びてギラギラとしている。田舎の閑散とした車内、と思いきやまさかの満員電車で、もみくちゃにされながらなんとか乗車。え、こんなに乗るやつおるん???

 


ジャコメッティみたいなポージングのまま博多駅まで行くのかと考えただけで震えが止まらなかったのだけれど、すぐ次の熊本駅で大量に乗客が降りていった。空いた椅子にすぐ座る。車内は一気にまばらに。車両が動き出す。

 


植木、玉名を抜けていく景色は昔と変わらない。しっかし田舎だなぁ。とぼんやりと肩肘をつく。南荒尾。現在も無人ホームのままだ。よく無賃乗車したなぁ。

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1時間ほど列車に揺られ、久留米へ。ホーム向かい側の列車に乗り換え、博多に。ここでようやく30分程時間が空くので博多駅を出た。

 


駅前は正月の雰囲気のままに賑わっていた。

金髪のあの人が喋っていて、写メを撮っていたらスタッフに注意されてしまった。

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そういえば以前にも博多でこんなことがあった。

数年前に東京から電車で向かったときはここ博多駅で終電を迎えてしまい、ラーメン屋も居酒屋もろくに開いてない中でセブンイレブンで豚骨ラーメンを買って路上で食べた思い出がある。東京にも売っているラーメンを平らげ、その辺で寝ていると、親切な通行人に起こされた。


「お兄さん、ここで寝たら危ないですよ?」


優しいサラリーマンに揺さぶられ起こされる。あぁ、すいません、どうもありがとうと言って、僕はまた100mくらい近くの路上にもう一度横になる。

30分程経ち、そろそろ眠りに入ると思った頃にまた、今度は別の人に注意され起こされる。そんな事を何度も繰り返すうちに夜は開け、始発の時間を迎えた。福岡の県民性なのだろう、とっても優しいんだけどありがた迷惑だった。

 


そんな事を振り返りながら、駅に戻った。酒を買い、ホームにやってきた電車に乗り込む。ここから1時間半ほどかけて下関トンネルを抜けた下関に向かう。


長いトンネルの中にいると、耳が痛くなった。


ウトウトしてきた頃、下関に着いた。16時45分。正月の日は沈むのも早く、夕陽が下関の離島に今にも隠れていきそうだった。とても綺麗だ。

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さて、下関といえば、そう!皆さまもご周知の通り、本州最西端の歓楽街である。いずれは行ってみたい、そんな熱い気持ちで悶々としていたのだけれど、ついにこんな機会があったので電車の乗り換えもほったらかして街に出てきたのだ。


下関の歓楽街の歴史を辿ると、意外に古い。1185年、平氏と源氏の最後の戦い、壇ノ浦の戦いが行われた。その時に敗れた平家の女官たちらが生活の為にと売春を始めたのが下関の遊女の始まりとなっている。小鳥になりたいとか鈴になりたいとか言いだして一世を風靡した金子みすゞなんかも、この辺りに住んでいた。

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現在ではちょこっとソープランドが点在しているくらいだが、戦後残った遊郭や料亭の数々がなんともレトロな雰囲気を醸して残っている。

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もちろん、僕はソープランドとかマットプレイとかローション風呂なんてのには一切の興味もなく、歴史あるこの街並みを観にきたのだ。ほんとうだぞ!


とまぁ、そんなレトロな街並みを堪能し、とてもサッパリした気持ちで、下関を後にした。

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列車に乗り込む前に酒とおっとっとを買う。ここからは鹿児島本線から山陽本線に路線が切り替わるのだが、道のりがひたすら長い。下関からストレートに大阪まで向かうと10時間くらいかかる。っていうか、もうその時間に列車は走っていないので、この時点で大阪には今夜辿りつかないという事だ。


だが、青春18きっぷなら問題ない。降車駅を決めずに列車に乗るので、好きな駅にぶらりと降りてしまえば良いだけなのだ。とりあえず時間に余裕をもって、山口県内のどこかでぶらぶらして、最後は広島県に辿り着くプランで行くことにした。旅は気まぐれ風まかせとはよく言ったものだ。


電車に揺られながら外を見た。すっかり日が落ちてしまい、もうさっき乗った下関トンネルと景色が変わらないくらい真っ暗になっていた。


持参していた本を取り出し、読みふける。1時間程読んでしばらく休憩と手を止め、車内を見回した。生暖かい暖房が車内に充満し、少ない他の乗客達が沈黙の中でも存在を明らかにしている様に息をしていた。やけに静かだった。


ふと、僕の前の席に座っている若い2人組の男を見ると、どこか見覚えがあった。そうだ、博多駅のホームで見かけた奴らだ。1人の男が言った。


「てかさぁ、やっぱりこんな鈍行列車で移動するとか、狂ってるよな。」


「うん、マジで疲れたわ、暇だし。」


どうやらこの2人、青春18きっぷで僕と同じ様に旅をしている様だった。会話が気になってしまい、本を開くのを止め、聞き耳をたてた。


「なぁユウキ?中洲、下関、って流れで来たから、次は広島かなぁ?」


一人はどうやらユウキという名前らしい。

そしてこの2人組、おそらく青春18きっぷを駆使して地方の風俗街を回って遊んでいる様だ。なかなかの強者だ。


ユウキはその言葉に少し驚いた様に答えた。


「広島!?カズ、何言ってんだよ、せっかく電車で移動してるんだ、真っ直ぐ広島まで行くのはもったいないだろ!」


ん?このユウキという男、なにを言っているのだろう。広島までの道中にどこか魅力的な場所があるのだろうか?僕は首を傾げた。ネットで調べた限りでは、さして有力な情報は無かった筈だ。


「え??なに?どこ寄るの?」

カズがすかさず聞いた。

 

「…徳山だよ。」

 


「…徳山‼︎?」『…徳山‼︎?』


ゴクリ。と唾を飲み込む音が僕の喉から聞こえてきた。緊張

がカズと僕の中に渦巻いていた。


「そうだよ、徳山だよ。なんでも、徳山にはものっすごいギャルで巨乳のデリヘル嬢がいるらしい。その人気は凄まじいもので、県外からのリピーターもいるらしい。口コミ情報によると、巨乳過ぎておっぱいが3つあるとか、徳山の守神だとかの都市伝説まで流れてるんだぜ…」

 


「…徳山だっ!」『…徳山だっ!』

 


その時、僕の心の声と、カズの声がシンクロした。

 

ユウキとカズの事、今まで知らない他人とか、イカれた青春18きっぷ野郎だなんて思ってしまったけれど、ごめんな。

 


僕たちは仲間なんだ。

 


硬いで結ばれているんだ。

 


腕時計を見る。19時を少し回った頃か。

間も無く徳山駅に電車は着く。

 

ブルッと身体を震わせた。

武者震いがしてやがる。

 

僕は扉がひらくと同時に、徳山の地に降り立った。