しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

その女、デンマーク

今、左の乳首がヒリヒリする。

ブログを書き出してから早いこと8年目になるが、いまでもこんな書き出しでブログを書けると思うと、日本はつくづく平和なものよと感慨深い。
今年も良い年になりそうだ。


さて、本題に戻る。左の乳首がヒリヒリするのだ。何故ヒリヒリするのかというと、それはある1人の女との出会いが全ての始まりだった。また妄想かよ!!と多くの読者は感じるかもしれないが、決してそうではない。

初めての出会いは唐突だった。
朝夕が寒くなってきた昨年の10月頃、彼女はショップの店頭にいた。


上野でも有名な、市場や居酒屋が軒を連ねるアメ横から、一本隣の通りに出ると、喧騒も少し治り、そこにはいくつものセレクトショップが並ぶ。

僕は昔から服が好きで、買う金も持たなくてもプラプラとあちこちの服屋を見ては掘り出しものの服がないか見て回る癖がある。

だから自然と、またこいつ来た。みたいな冷たい対応を店頭のスタッフにされてしまう。

いくら服が好きだからといっても、所詮は服を買ってくれない客にスタッフは用がないのだ。愛想はそこにない。

ただ、その日行った一軒の服屋に居た女は違った。他のスタッフが冷たい目で見る中、その女だけは何か遠くを見るような目で、僕を見ていた。そして冷たい態度を取るわけでもなく、ただ、見つめていた。

初めての対応に、僕は何故か不快になってしまい、そそくさと店を出た。なんだか不思議な気持ちになった。恥ずかしいような気持ちになった。

あの女の目は、僕を俯瞰しているような、心の奥底まで全てを見据えているかのような、そんな目をしていた。深い深い海のような、そんな瞳。海の底にあの女は居て、こっちを見ている。そんな夢も見た。

何日か経っても、その女が脳裏に焼き付いた。仕事をしていても、飯を食べても、その女は確かに、僕の脳裏にいた。まるで一緒に居たいのかの様に。それが相手からなのか、僕が一緒に居たいと望んでいるのか、それすらもよくわからないまま。

数日後、また僕は上野に来ていた。目的は言うまでもなく、女に会うためだった。プラプラなんてせずに、まっすぐに店に向かう。

女は店頭にいた。初めてあったときは、その吸い込まれるような瞳ばかり気にしていたけど、改めて見るとかなり特徴的な女だった。

柔らかい質感の白い肌、
額の真ん中で分けたロングヘア。
艶めかしい、色気のある身体つき。
そしてまるで雪原の中で踊る赤いドレスの少女の様な、白い肌に浮き出る、赤い唇。


ハーフなのだろうか?
どことなく日本人っぽくない。

極端に白い肌はロシア系なのかわからないが、ヨーロッパ系らしい感じだ。

雑な接客もなければ、挨拶も特になく、ただ店にいる女。普段はどんな接客をしているのだろうか。失礼だが、こんな態度で働いて、よく首にならないものだ、とも思った。

その日も特に服を買うこともなく、僕は店を出た。スタッフはもちろん用のない客には挨拶をしない。女も、なんの挨拶もしてこなかった。



それから、更にしばらく日が経ち、12月になった。あの女はいまも、店にいるのだろうか。相変わらず、そんなことばかり気にしていた。

薄々、僕自身があの女に惚れているのも、もう分かっている。会って声でもかければいいのかもしれないが、いまいち勇気が出ず、いたずらに時が過ぎていた。

我慢出来なくて、店に向かった。せめて声がかけれなくても、あの女を一目見たい。そう思った。ストーカーになる男の心理が、いまならわかる気がした。


いつも店頭にいた女が、居なかった。
12月の寒風が、僕の身体を冷やす感触が伝わってくるのが分かる。深い哀しみのぬかるみに足をつけている様な感じがした。


どこに行ったのだろう。あの接客で、首になったのだろうか。

僕は他のスタッフに聞いた。あの子はどこに行ったのか、と。

あ、あのデンマークの女ですか。
もうウチにはいませんよ。確か…

スタッフは一度店内の奥に入り込み、しばらくすると戻ってきた。

今は池袋の店舗にいますよ。

僕はその言葉を耳にしながら、もう身体は外に向かっていた。もう外の空気は寒く感じなかった。


もう、迷わない。そう自分に言い聞かせた。離れて見てるだけじゃダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ!!自分の気持ちを伝えればいい。君のことが好きだと。一緒に居たいんだと。その後のことは、…今は考えてもしょうがない。



池袋の東口にPARCOがある。そこの4階のテナントの一画に、上野のお店の系列店が入っていた。

そこに女はいるらしい。やはり、あのスタッフの話を聞いた限りでは、あの女はデンマーク出身か、デンマーク人のハーフなのだろう。

エスカレーターを歩いて登りながら、4階のテナントに行くと、女はそこにいた。初めて会ったときと変わらない、遠くを見るような目で、僕を見ていた。

僕は気持ちを伝えようとして、女に近寄り、女を掴み、言った。


「これください。」





とまぁ、こんな話なんですけど、
素肌でこの服を着ると、ちょうど左乳首が人魚の尾ヒレの裏地に当たって擦れてしまってヒリヒリするんです。

とりあえず貝殻つけとくか。