しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

つまり分からない方が良いことがこの世にはあるということだ

(2016年2月25日制作)


2月11日、人類は重力波の観測に成功した。
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これはアインシュタインが唱えていた相対性理論の一つが本当だったことを証明した。

地球上では観測が難しい、極微小なエネルギーの通過による振動を宇宙空間で観測したらしい。



と、ここまではメディアででてきた情報で知った。


人類の進歩は驚異的である。



ほんの百数十年前には武士が刀を提げていた時代だったのに

いまでは老若男女が歩きスマホしながら闊歩している。


とりわけ科学技術の進歩によって、これまで神秘に包まれたまま解明されてこなかった現象や物事が明らかになっていく。

今回の発見に関してもそうで、ついに論文上でなく科学的解明を遂げた。

これから先も未知の宇宙の特性や異次元に関するベールが紐解かれていくだろう。

しかし、果たしてそれが良いことなのか?僕は疑問に感じる。

科学的根拠をもって解決されていくと、神秘的で、未知なる物に対する魅力も失われてしまうのではないだろうか。

今はなんでもスマホで調べれば分かるようになっている。虹が出るのも、オーロラが出るのも、流れ星も、すぐ分かる。

とりわけ宇宙なんて未知だからこそ壮大で神秘的なのであって、科学的根拠に基づいて構築された空間だと言い切ってしまえばそれはなんかもうつまらない。

夢もロマンもそこにはないのである。
どんどんそんな時代になっていく。

つまり、分からない方が良いことが
この世にはあるということだ。








まーくん、宇宙ってすごいだろう。




父は湯船に浸かって空を眺めて話した。


冬の寒空に湯気が昇っていく。あの湯気は宇宙までいって天の川になるのかもしれない。暮れた空の底にはまだ僅かにオレンジ色が残っていた。


とても寒い時にわざわざ露天風呂に入るのが不思議でたまらなかった。父に言わせると、この温度差が乙なのだそうだ。よくわからない。


ただ、冬の透き通る空で輝く星を眺めながらお風呂に浸かるのは僕も大好きだ。















…もう何年も前に話は遡る。

僕がまだ小学生の頃、
まだ親父も一緒に住んでいた頃。

個人営業で行っている
ふすまの張替え新調の、
細々とした稼ぎの中で
僕ら家族は生活していた。


旅行も外食も年に一度
あるかないかぐらいのものだったが、

その環境で生まれ育ったものだから、

我が家が貧乏だとか
不憫に感じることは一度もなかった。

ただそれも小学生の高学年くらいに
なってからは、明らかに夏休みとかの
友人の過ごし方に差があって、
我が家が貧乏だと知ったときは驚いた。


そんな生活を送るなかでも一つだけ楽しみがあった。

それは、親父が好きな温泉に親父と兄と僕でたまに入りに行くことだった。


自宅より広い浴場。


広い湯船の中でバタ足をしてみたり、

手で水鉄砲のようにして兄にお湯をかけたり。


そして一通り遊んで疲れると、
父がいる露天風呂の方にいくのだ…













父と一緒に露天風呂に入ると、
いつも星の話をしてくれた。

あそこに見えるのがオリオン座、
この星とこの星を結んでいった先に
○○座があるんだよ、とか
星座の位置の探し方まで教えてくれた。

地球上で僕たち人間が
社会の括りの中で生きている時に

地球がものすごい速さで
太陽を回っていたり、

どこかの惑星が
天体的威力で爆発していたり、

そんな不思議でたまらない宇宙の中に
僕たちが生きているというのが
ワクワクするのだと父は語っていた。

普段家のの一室に閉じこもり、
気むづかしい面持で仕事をする父と、
宇宙の話をする楽しそうな面持の父は
まるで違う人のようだった…



とーさんは、どの星が一番好きなの??



僕が父に聞いてみると、






ほら、あの星だよ。

と言って指さした先には、
一際強く輝く星が出ていた。



とうさん、あの星は何て名前の星なの?





さあなぁ、星の名前は知らないんだよ。

ただね、あの星を見ていると、
不思議と元気がでるんだよ。






父は以前、ふすまの営業で
何日も仕事が見つけられない時期が
あったらしい。

家族に泣き顔を見せる訳にもいかず、
近くの道路に車を止めて一人で
落ち込んでいたとき、
ふと空を見上げると、
一際輝く星があったのだそうだ。
不思議とその星を見たとき
宇宙のスケールの大きさを感じて、


こんなことで負けてちゃダメだ!


と元気が湧いてきたのだとか。










父から教わった星は
それから先の人生の中で
僕も何度も見てきた。


学生時代の頃


社会人になってからも



失恋や将来の不安


そんな悩みを抱えた時は

いつもその星を見ていた。

そして父と同じく、
僕も元気をもらった。


そして僕はふと気になった。


あの星の名前はなんだろう?と。


何年も前から知っている星なだけあって
僕は無性に気になった。

スマホを取り出し調べてみる。

方角、時間帯、星座全体の中での位置。
それらを入力してみると、ついに同じ星が出てきた。










人工衛星だった。







あとがき


適当に人工衛星というオチで
書いたのだけど、
書き上げる直前で
実際に調べてみたら金星だった。
オチにもなんにもならないや。




つまり、分からない方が良いことが
この世にはあるということだ。