しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

月まで届くからあげくん

今月、あの、LAWSONの「からあげくん」が発売開始から30周年を迎えた。

もはやからあげくんを知らない人の方が少ないんじゃないかってくらいの認知度のあるからあげくん。実はあのパッケージのニワトリみたいなのは、鶏ではなくて妖精らしい。


さて、30周年を迎えたことに関して、様々なメディアで取り上げられたのだが、その時の売上高の表現に、僕は思わず唸った。ここに一文を抜粋させていただく。

>>ローソンのヒット商品からあげクンは1986年4月15日に誕生。販売数は累計25億5000万食で並べると月まで到達し、少し折り返したぐらいの距離になるという。<<

みなさんはどう感じただろうか。なに、普通じゃないか。と思った方も居るかもしれないが、ちょっと待ってほしい。「月まで到達」という表現、だ。

だってどう考えたってからあげくんを積み上げて月まで届かせるっていう概念がない。

よく考えたらこういう例え方をすることってよくあるかもしれない。東京ドーム何個分の広さですとか、東京タワー何個分の高さですとか…。

実際よくわかんなくてモヤモヤとしたままで終わるのだけれど、この表現、インパクトだけは絶大だ。

今回のようにたかだかしれた、ちゃっちいからあげの売上高をそのまま数字で表現するよりも、ここで、月まで届いちゃうんです。とすることで、インパクトがあって、おおっ!ってなる。

じゃあこれを使ってちゃっちいものを月まで届かせてみたい。そう思った。


とここまでブログを書きながら、僕はスタバで鼻くそをほじっていた。仕事の合間に一息いれる常連のサラリーマンや、MacBookを開いて何かやってる洒落乙な好青年の並びで僕は鼻くそをほじりながら鼻くその記事を書いている。親が知ったら泣きそうだ。

じゃあ早速、この鼻くそはどんだけほじれば月まで届くのか。


まずは地球から月までの距離を調べる。Googleで一発だ。370300㎞。案外遠くない。僕が勤める会社のポンコツ車はおそらくもう月まで行って折り返して地球に帰還したくらいの走行距離があるもんだ。

で、今回の検証は、一日溜め込んだ鼻くそをほじりだし、その長さを計測、その一個の鼻くその長さを鼻くその全長の平均値として日数で倍掛けする。すると何日間分の鼻くそで月まで届くか分かる。という検証で行う。勿論、この検証方法が正しい、というものではないので、あくまでも一検証としてみてほしい。


とここまで書いていて大変なミスを犯してしまった。いまほじっていた鼻くそを無意識のままで指先で丸め、スタバの店内に弾きとばしてしまっていたのだ。これでは鼻くその計測が出来ない。鼻くその全長を実測もせずに仮定してしまうとあまりにリアルティが無く陳腐になる。

探さなければ。
くそっ。いや、鼻くそっ。

店内を見回す。無意識の中で飛ばした鼻くそがどのくらい飛んだのかは分からないが、おおよその方角は分かっていた。
カウンター状に延びた席の僕の左後ろ方向、10時の方角だ。ちょうど店内の中央部に面していて、ひらけている。おそらく着地点は床だ。

床に這いつくばって鼻くそを探す。綺麗に磨きあげられた木目のフローリングは鼻くそを探すにはあまりに困難だった。ワックスで光が乱反射するし、色が鼻くそと同化している可能性が高い。

しばらく探してもみつからない。そんな時だった。

「何か落し物ですか?大丈夫ですか?」

そう優しく声をかけてくれたのは、スタバの店員さんだった。

そうなんです。実は見つからなくって、鼻くそが。なんて口が裂けても言えない。絶対言えない。ダメ。絶対。もうただのセクハラか、清原と一緒に吸引した人としか思われず通報されてしまうだろう。

「あ、いえ、ほんと、大丈夫なんです。すいません。」

緊張して冷や汗ガンガンかいてしまってて尚更シャブ中だと思われそうなのだけれど、店員さんは、はぁ、そうですか。とだけ言って去っていった。

もう仕方ない。今日はブログ書くのやめにして、明日また改めてほじり直すか。と思った束の間、鼻くそを発見した。

おそらく弾きとばした方角とはあさっての方に飛んだのだろう。そしてスタバの店内の空調に乗って飛距離を伸ばし、鼻くそは一息いれてるサラリーマンの髪の毛に着いていた。もうこれは事件だ。

「あのぅ、頭に鼻くそが着いてますよ?」なんて絶対言えない。それに言ったところで僕がその鼻くそを回収したら誤解を招く。しかし、かといってこのまま鼻くそを諦めて明日ほじり直すとしても、このサラリーマンは頭に鼻くそを着けたまま今日という1日を過ごすことになってしまう。なんて可哀想なんだ。それは避けなければ。

こうなったらもう勢いでワッシャーっと鼻くそ掴んでダッシュで逃げるしかない。これは戦いなのだ。

僕は決意し、荷物をまとめ、用意ができた。

思いっきり頭に手を出して鼻くそを回収し、僕はスタバから走って逃げた。サラリーマンの怒号と周りの客の冷ややかな視線の中、僕は走った。野村ビルの正面に出て、西口の大ガード手前から曲がり、ユニクロの前を抜け、新宿駅の西口まで、ひたすら走った。鼻くそを手に全力疾走する姿はいま思うと泣けてくる。

ゼエゼエと息をきらしながら無くしてはないかと不安になりながら手を開くと、確かにそこには鼻くそがあった。僕は大きく息をついた。

しかし、鼻くそは何故か、半分くらいの大きさになっていた。どうやらサラリーマンの頭に半分ほど忘れてしまったらしい。仕方ない、あるものでやるしかない。

せめても少しでも距離を出そうと、鼻くそを必死に細く伸ばす。西口の周囲の人の目が痛いが、それどころじゃない。

僕の意識は既に月に届いていた。
そう、ユーリイ・ガガーリンのように。

鼻くそを引き延ばす姿が東急ストアのガラスに写る。顔は青かった。


5㎜だった。これを1日の鼻くその平均値にする。

370300㎞を5㎜で割る。
まずはミリの単位に合わせる
370300000000㎜。
を5で割る。

74060000000日かかる。

これを365日で割る。(閏年は計算しない)

すると、毎日5㎜の鼻くそを積み重ねて月まで届かせるのに必要な年数が出てくる。


202904110年かかる。いやもうわけわからん。歴史的にいうと三畳紀で、恐竜や翼竜が生息する時代。このころから5㎜の鼻くそをコツコツと積み重ねると現代で月にたどり着くのだ。なんてこった。




この検証の結果、恐竜に囲まれながらコツコツと鼻くそを積み上げていき、活発な火山活動による低酸素の地球でバタバタ倒れていく生物を横目に、何度となく繰り返される絶滅と繁栄の中、アウストラロピテクスの誕生、人間の誕生、キリストがイエス!とかノー!とか言ってる事なんかもう些細なことにしか思えない。そして日本で監禁とか安倍さんとかが出てくる。そんな2億年という歳月を過ごす。鼻くそをほじりながら。そうして月まで届くのだ。

モヤモヤとしてて、分かりづらいんだけど、インパクトがあって、おおっ!ってなるのは確かだ。




検証以来、スタバのお店の前まで行くと、決まっていつもあのときのサラリーマンが居るからお店に入れない。
もう怖くて怖くて、
チキンになってしまった。あ、妖精か。