しらぼ、

松本まさはるがSFを書くとこうなる。

韓国放浪記〜釜山は○○〜 後編

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無事に日本に帰ってきた。

やっと帰ってきた。

羽田空港内に広がるレストラン街は
その一つ一つがどれも魅力的で
僕の胃袋を震わせた。

その中で適当なレストランに足を運ぶ。

メニューを見る。

どれも日本語で金額も書いてある。

真っ白いホイップクリームがパンケーキの上を踊るように盛られている写真を見て決めた。それと熱々のコーヒーも。






日本がやっぱり一番だ。


この、「やっぱり」というのは日本を出て初めて分かる。一度も海外に行ったことのない人には分からない。知識ではなく、感覚だ。


海外に出るという事は即ち、日本を見つめ直す、ということかもしれない。


しばらくして、ウェイトレスがトレイを抱えて持ってきた。










「기다리게했습니다」


韓国語で一言告げたウェイトレスがテーブルに料理を置く。

そこには真っ赤なスープと死にかけた顔のニワトリが口から火を吐いている絵があるカップラーメンがあった…

 


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韓国放浪2日目。
ここで目が覚めた。夢だった。



現実にあるのは、ボロいホテルと、二日酔いの肉体と、死にかけた顔のニワトリが口から火を吐いている絵があるカップラーメンの残骸であった。

まるで他宗教間の争いが日々耐えることのないとある中東を風刺的に表した様である。



外は相変わらず寒そうだ。チェックアウトは12時とのことだったので時間ギリギリまでホテルの中で過ごすことにした。…そのときだった。



ズゴゴゴーゴルルルルルルァァアブァァ




凄まじい轟音と下腹部の痛み。


そう。僕は腹を下したみたいだ。


慌ててトイレに駆け込む。



下痢だった。


怒りをぶつけるかのように

叩きつけるかのように

便器にジェイソン(食事中の方もいらっしゃると思われるのでこう呼ばせてもらう)を吐きだした。



いやそんな下痢の具合なんて正直どうでもいい、何よりも衝撃だったのは、色だ。





真っ赤だった。

真っ赤なジェイソン。






それはまさに日の丸の如き真紅。深紅。
大日本帝国万歳。である。

これにはおそらく右翼もビックリ、だ。


ひょっとするとお弁当のご飯の真ん中にコロッと転がしてたら梅干しと見間違えるかもしれない。いや無理か。



昨日の激辛料理の数々が原因であることは言うまでもないだろう。
それに加えて痔にもなった。



痔〜痔〜痔〜痔〜痔〜(少女時代風)






この放浪の旅、辛かった。
いや辛かった。


漢字が一緒だから伝わらなくて隔靴掻痒なんだけれど、辛いんじゃない。
辛かったんだ。


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残金22000ウォン弱。日本円でいうと2200円。物価も大して変わらなかったこの国でどうしろっていうんだマジで。





チェックアウト、といっても部屋の鍵をカウンターにぶん投げて帰るだけ。

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12時。ホテルを出た。外観を見てこれがホテルだと分かった自分自身に戦慄した。





とりあえず、二日目は野宿でもなんでもすればヨイサ!というノリで観光に。

昨夜日本人から聞いた、チャガルチ市場を目指す。ソミョン駅から切符を買う。1000ウォン弱。確かに安いんだけどもう金のない僕にはキツい。


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延々と続く長い市場に無数に並ぶ魚市。それがチャガルチ市場だ。途中に飲食店も入っていて、魚をツマミに酒を呑める。焼き魚の身の焼ける香りが鼻をついた。ようやくこの旅にも一興があると思えてきた。

よし!海の幸でもいただきますか!と買おうとしたらだいたいどれも40000ウォン。買うかっ!てか買えないっ!
小魚、ではなくてどれも一匹丸々焼いちゃってるもんだから四、五人でツマミにするサイズの魚しか焼いてなかった。


仕方なくコンビニで買った1300ウォンのチャミスル片手に市場を後にした。



電車代もそろそろ惜しくなってきたので市場から適当に歩いてみることにした。

一駅ほども歩くと、龍当山公園。

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龍当山公園は小高い山の上にあって、その周辺を砦のようにラブホテルが囲っていた。地元の花岡山を思い出す。

ラブホテルがある、ということは当然、アダルトショップもある。ここで意識高い系の僕は韓国のアダルトショップはどんなものなのか、日本との文化の違いを愉しもうという向上心を持って踏み込んだ。

決して、アダルトショップが好きなんだとか、数の子天井とか、ブラックテンガとか、興味ない。決して、だ。

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意外なことにほとんどが日本製だった。

精密かつ、巧妙な造りを求められるこれらアダルトグッズは、やはり日本の技術をもってして造られるべきなのだ。

数の子天井とか。ブラックテンガとか。日本人としてこれは誇り高い。ただ、ほだしってなんだよおい。

お金がないから買わなかったんじゃないんだ。興味ないから買わなかったんだ。そこのところは一つ、理解してほしい(白目)



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学校?の外壁に描かれた三国志の名場面、「桃園の誓い」だ。劉備の住まいの桃園のところで劉備張飛関羽が揃って酒を酌み交わす。4000年の歴史を感じると思わず胸が熱くなる…ってこれ中国じゃね??
神に捧げられた美酒と穀物、スクーターがなんともいえない哀愁を醸している。


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日が暮れ、夜がきた。
もはや所持金は底をついた。
野宿決行かと思ったけれど2月末の韓国の風は思いの外冷たく、僕の心を削り取っていく。どうにかして泊まらなければ。

お金を得る手段…仕事なんて言葉も通じないこの国では無理だし、ビザもないから不法労働だ。と、思ったところで気づいた。

そうだ。カメラを売ればいいのだ。


数少ない所持品の中で、流石に上着とケータイは手放したくないので、デジカメを売ることにした。過去数多と旅行に赴いては様々な光景を撮ってきたこのデジカメ。僕にとっては無二の親友、なのだ。そこには情がある。手放したくない。

SONYのデジカメだ。買ったとき8万くらいしたからきっとものすごい金額で売れるにちがいない。そしたらもっと美味しいもの食べて、暖かい場所で寝よう。
よし売ろう。とっとと売ろう。

ソミョンまで戻った僕は早速カメラを売るためにまずは翻訳した画面を保存して、ひたすら通行人に訪ねて回る。

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何度も何度も訪ねても、カメラを買わないどころか、くたばれジャップ!失せろ乞食!ぐらいの勢いで睨みつけてくる。もうくたばった方がいいのかもしれない。

そこまで落ち込んだところに、奇跡が起きた。

なんと日本語の案内をするボランティアのカウンターが地下道にあったのだ。もっと早く知りたかった。

半泣き状態でボランティアのおじいさんにすがりつく。

こんな異国の地で日本人のおじいさんにすがりついてそのままおじいさんに身も心もされるがままみたいなハード系のAVとかあったらかなり売れそうだ。いや、無理か。

どうやら話を聞くと地下道でカメラとかケータイとか買い取ってくれる露店があるらしい。早速連れて行ってもらった。

そこの露店商がウンウン唸ってSONYSONYだ唸ってしばらくしたら金額を言ってきた。


25000ウォンだった。

もう背に腹は代えられないので売った。
さよならデジカメ。

とりあえずほんのすこしお金を用意した僕は、今夜の宿探しに出た。

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30000ウォンのラブホテル。
結局この相場が限界らしい。

だけど二日目のホテルはちゃんと歯ブラシも未使用。で、テレビつけると、ばっちりお料理番組やってたからホッとした。







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どうやら韓国では3分では料理は終わりそうにない。







三日目。
朝ホテルを出るとキムチ臭いサンタがゴミを漁っていた。あまりにも無感動な自分に驚く。おそらく旅行で疲れたのだろう。


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電車に乗って港近くの地下鉄を降りてしばらく歩くと港に着いた。さあ!早く帰ろう。

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国際船ターミナルに入る。
たった二日前に来たのに、ものすごい昔にかんじてしまう。こりゃああれだ。竜宮城か?

出国ロビーに入り、港使用料を払う。4200ウォン。何度も計算を重ねた結果、港使用料と港から天神、福岡空港への交通費はギリギリ足りるのだ。逆に言えばなにかひとつでも間違いがあればこの韓国の地に根をおろし、新たな人生をスタートさせなければならない。いやそれはマジ勘弁、だ。

港の使用料を払った後、お金を換金する。日本円にして千円弱。どうやら足りたし、缶コーヒーくらいは呑めそうだ。

そしてWi-Fiも港で使えるので、早速ケータイを弄って暇をつぶす。約3時間。もう港からでたくない。じっとしていたい。黙々とケータイを弄って日本語の文章を読んでいると韓国に居るのを忘れさせてくれる。なんだかんだいって日本大好きなんだなぁ(みつを)

しかしガヤガヤとロビーが騒がしくなる。振り向くとそこには日本へこれから観光にいくツアーの団体がなにやらガヤガヤと騒いでいるのだ。

顔を真っ赤にさせたおじさんは韓国の国歌?のようなものを熱唱しているし、その周りの年寄りは手拍子している。なんて節操のない奴らなんだ。同じ船かもしれないと思うとうんざりする。



やがて出国手続きが開始された。
ゾクゾク人がパスポートの確認や手荷物検査を受けていく。ものすごい長蛇の列だ。

パスポート確認を済ませるとその先に手荷物検査のベルトコンベアが何台か設置されていて最初の列からそれぞれまた別の列に分かれて行く。やれやれもう少し、と思った時だった。

誰かが韓国語で叫んでいる。

どうした?なんだ?テロか?と思って周りの人たちも声のするほうを見たのだけれど、おじさんが列から抜けて他の列に強引に割りこもうとしていた。

よく見たらさっき歌ってたおじさん。どうやら並ぶ時にツアーの仲間とは違う列に並んでしまったらしい。すかさず職員が駆けつけてなだめている。

どの列で検査しても問題ないのだとおそらく伝えているのだけれど、もうおじさんはツアーの仲間とここで今生の別れだと思っているらしく、顔を真っ赤にして泣きそうな顔で叫んでいる。なんて奴だ。

僕はこれは面白いとばかりにケータイで動画を撮る。せめて最後くらいこういう面白い思い出を収めたい。そう思った。

そろそろ警備員にあのおじさん連れて行かれるぞ。と思った時、がっしと警備員に両腕を掴まれた。



僕が。

そのまま別室に連れて行かれる。
泣きわめいたおじさんが、連れ去られていく僕を、節操のない奴を見る目で見ていた。あんな奴と船にのるかも知れないと思ってうんざりしているのだろうか。


取調室に座らされてしばらくすると、日本語の話せる警備員が来た。どうやらパスポートチェックや荷物の検査の場所では撮影などはご法度らしい。
テロ対策強化の影響なのか、韓国で撮影した内容を見せないといけなくなった。

ラブホテルのAVの映像とかアダルトショップの写真とかお宝エロ動画とかわんさわんさと暴かれてしまったときは
僕の方がおじさんより顔を真っ赤にして泣きそうだった。




出航ギリギリで取調べも終わり、
半べそかきながら船に乗り込んだ。




「釜山は悲惨」だった




終わり




追記
その後無事に天神から福岡空港行って飛行機乗って羽田空港に着いたのだけれどそこで所持金が尽きて帰れなくなった件はさすがに恥ずかしくて言えない。