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しらぼ、

松本真青がSFを書くとこうなる。

青春を独り占め

袋とじが消えた。

あんなに暑かった夏が終わりを告げ、いつの間にか季節が変わりゆく様に、それは消えた。

物質が音を立てて崩れ消えていくような激しさもなく、さざ波が砂浜でうっすらと砂に潜りこんでいく潮の余韻のようだ。

雑誌の袋とじのあるはずのページを開くと、どこか淋しげに袋とじの切り取った余紙が、もうしわけなさそうに少しだけ残っていた。

いつもは成人雑誌なんて読まないし、買うこともない。専らXVIDEOを観るくらいだ。ただ、コンビニに置かれた雑誌の表紙に書かれていた、「青春を独り占め!袋とじ18P!」という文章が僕を魅了した。

 

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何らかの文章を書く人間は絶えずアンテナを張っていて、世の中の溢れかえる情報から心の奥の奥に眠る何かを鷲掴みにするような文章を見つけたときは心が震えだすのだ。

 

思わず足が止まる。唾を飲む音が聞こえた。よく行くコンビニのレジに立つ美人の店員にこの雑誌を買う僕の姿を晒す事には多少の躊躇があったが、それでも僕は買った。僕の青春は店員さんのものではなく、僕のものなのだ。

 

青春を独り占めしたかったのだ。

 

ただ、絶対読まないであろうスポーツ新聞を雑誌の上に重ねてレジに置いたのに、店員さんはちゃんと色のついたビニル袋と分けて入れてくれた件についてはここでは書かない。

 

 

 

すぐ開ければ良かったのかもしれない。だが、僕はこの雑誌の文章の余韻を愉しみたくて、袋とじには手をつけなかったのだ。

 

写真や映像は脆く、危うい。想像の範囲が決まっていて、目に映る情報のままにしか事実が伝わってこない。干しぶどうみたいなミイラは何度繰り返し観ても干しぶどうみたいなミイラでしかないのだ。

しかし、文章は違う。文章の中で登場人物に「女」と出てくるだけで、読み手は皆想像の中で多種多様な女をイメージする。読み手によって、髪型も声質も体型も、何もかもが違う。情報が曖昧な分、イメージは美化されるし、想像を愉しむことができる。

今年はVR元年とも言われ、メディアはどこまでも発展していくのかもしれないが、文章というメディアは退廃しないはずだ。

 

成人雑誌を手に取ったあの日から一週間、僕は袋とじを開けずに表紙を観るだけだった。職場の机に置かれた成人雑誌のタイトルは時が流れても遜色なく、そこにあった。

 

でも余韻を愉しみたい、というのはもしかしたら去勢で、本当は袋とじを開けるのが怖かっただけなのかもしれない。そろそろ袋とじを開けてもいいか。そう思った。

 

パラパラとページを捲り、袋とじのページを探した。すぐに雑誌の膨らみで分かると思ったのに、最後のページまで辿りついてしまう。おかしいな、18Pもある袋とじだから、捲る途中で気づかないはずはないのに。

 

その時に感じた、嫌な予感はきっと理屈的なものじゃなく、無意識的なものだった様に思う。

 

注意深くもう一度確認すると、袋とじがあったであろうページがあった。冒頭にも書いたが、そこには袋とじが明らかに何者かによって破りとられた痕跡があった。

 

思わず周りを見渡した。いつもの職場の休憩所の風景と職場の同僚達。全てが敵に見えた。自分の表情が疑心暗鬼に歪んでしまっていないか怖かった。なぜだか、僕が袋とじを盗まれてしまった事を、誰にも知られたくなかった。

 

僕の袋とじを破りとったのは誰なのか。

全員を問いただしたい欲求が僕の心を満たしたが、かといって人を疑うのも嫌だった。僕の全身を駆け巡ったのは、怒りとか悲しみとかとも違う、亜人のようなよく分からない感覚だった。もはや人間じゃない。

 

どうしても袋とじの中身が観たかったのかと訊かれると違う。だけど、こうして袋とじが無くなった事実を目の当たりにすると、なぜだか余計に袋とじの中身が見たくなった。僕は席を立ち、コンビニに向かった。

 

 

今度は新聞も買わずに雑誌だけをレジに置いた。流石に同じ成人雑誌を2度買う客を見て美人店員さんは怪訝そうな顔したが、、いまはそれどころじゃない。僕の青春を取り戻す為には手段は選ばなかった。僕はただ、

 

青春を独り占めしたかったのだ。

 

コンビニを出て、外で色のついたビニル袋からおもむろに雑誌を取り出す。ページを捲るとすぐに念願の袋とじがあった。思わず震える手で、僕は袋とじを引き裂いた。

 

袋とじの中にはいかにも青春を謳歌している様な若い男に貪るように絡みつく、ブッサイクな熟女が18Pに渡って写っていた。「青春を独り占め」ってそういう事か。

僕の頬を一筋の涙が流れていった。

 

○んこう少女

 

東京では変な事がよく起きる。

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田舎では起きないのか、というとそういう訳ではないのだけれど、様々な悩みや欲望を抱えた人間が多く集まる東京は、人間のエネルギーが渦巻いているのかもしれない。

だから外を歩いてたりすると、ダライ・ラマ5世みたいな女子が鼻息を荒げていたり、気持ち悪いキャップとサングラスのデブが歩いていたり、風俗で詐欺にあったと騒ぎ立てる酔っ払いがいたりする。

そんな人達が交錯する東京。そんな場所に生きている一人一人が僕の横を通り過ぎていく度に、彼らにもいままでの人生があって、何かしらの悩みや欲望があるということが不思議で、思わず感慨に耽ってしまう。そこにはドラマがある。そして何かしらの出来事を見かけると、好奇心旺盛な僕はよく立ち止まって、人間観察をする。


あれはいつだったか。まだ春と呼ぶには早い3月頃、僕は歌舞伎町を一人、ぶらぶらと歩いていた。眠らない歌舞伎町。終電の時間を過ぎてもなお、欲望を満たす一心で動き回る多くの人間が、まるで光に集まる蛾のようにウロウロと彷徨っている。

僕は飲み会の帰りなのだけれど、一緒に呑んだメンバーがどいつもこいつも神奈川とか千葉から来ていたものだから、終電に間に合う時間に帰ってしまい、暇を持て余したまま歩いていた。

「風俗ですか?ギャンブルですか?」無精髭を生やした男や、NHKの笹塚地区の集金担当に似た男のスカウトマンが矢継ぎ早に僕に話しかけてくる。

ガンシカするのも気まずいし、かといって何かしら返答でもすれば彼らはどこまでも付いてくる。それが嫌だから僕は歌舞伎町を歩く時にはイヤフォンを耳の穴に突っ込んでいた。

防音ガラス越しに街を眺めているようで、違う世界を俯瞰しているようだ。僕はただ、音楽サイトからランダム選曲されて流れる音に身を委ねる。

洋楽が何曲か続いた後、邦楽が流れだした。普段邦楽は聴かないので曲を飛ばそうとしたのだけれど、ふとどこかで聞いた曲のような気がしたのでスマホを触る手を止めた。

今日現在(いま)が確かなら万事快調よ…

思い出せない。この特徴のある歌い方やが好きだった。歌詞もかなり独創的だ。書き物が好きな僕としては、この歌詞を書いているのはいったいどんな人なのだろうと気になってしまう。

 そんなことを考えながら音楽を聴いていると、さくら通りの一角に脂汗をかいているつるっ禿げのサラリーマンのオッサンと、地下アイドル界の更に地下みたいな女子がなにやら話し合っていた。
なぜだかオッサンはすこし焦ったように唾を飛ばしながら話している。僕の好奇心が高まった。すこし様子を見てみよう。

「でもさぁ、アンタ、もうメッチャ酔ってるじゃん。酒臭いの私ヤダ。」


「なぁ、頼むよ。今日がいいんだよ。どうしても。」

少女の言葉に対してオッサンが唾を飛ばしながら祈るようにそう言った。酒に酔っているのか、呂律が怪しい。

「嫌よ。どうせ酒で記憶なくなるよ?お金もったいなくなるって。」

どうやらこの状況、援交目的の少女とオッサンの二人の会話らしい。そして少女は泥酔のオッサンとホテルに行くのがたまらなく嫌みたいだ。オッサンが喘ぐように答えた。

「いいんだよ〜明日には覚えて居なくたっていいんだよ〜」

明日には全く憶えて居なくたっていいの

おや、と思った。聴いていた歌詞とオッサン達の会話がシンクロしていたのだ。まぁ、そんな偶然は多々あることだ。更にオッサンと援交少女のやり取りを見続けた。

「なぁ?いいじゃないか。お金だってちゃんと渡すんだから。」

「…いくらくれるの?」

「3万だろぉ〜約束通りの。昨日メールでやり取りしたじゃないか。」

「はぁ!?なに言ってんの?マジ意味不なんだけど。そんなに酒臭いのに同じ金額じゃないじゃない。」

援交少女は呆れたように、キレ気味にオッサンにそう言った。少し狼狽するものの、ここでおずおず帰る気にもなれないオッサン。つるっ禿げの頭から汗が流れ落ちた。

「わ、わかったよ〜。いくら?」

「5万。」

「わかったよ〜。」


昨日の誤解で歪んだ焦点(ピント)は 新しく合わせて


地下アイドル界の更に地下みたいな援交少女が5万請求するのもどうかと思ったが、そこじゃない。
また曲の歌詞がシンクロしたのだ。昨夜のメールでの金額のやり取りは、いわば援助交際の中での焦点だ。

援交少女側とオッサン側の焦点がピタリと一致したときに援助交際は成立する。しかしオッサンが泥酔したことで金額のお互いの焦点がズレてしまった。オッサンはそれを新しく合わせたのだ。


「じゃあさ、ハメ撮りは、今回しないから、もうちょっと、値段落としてくれよ〜」

ハァハァと息を切らしながらオッサンが援交少女に聞く。予算的に厳しいのか、今回はハメ撮りも諦めたらしい。


写真機は要らないわ 五感を持ってお出で


また、曲とシンクロした。もうこれは間違いない。作詞を手がけたのは目の前にいるつるっ禿げのオッサンだ。多分そうだ。絶対そうだ。

僕は思わずオッサンの元へ近寄って確認してみることにした。こんな魅力的な歌詞を生み出す過程から発想まで、根掘り葉掘り聞き出してみたかったのだ。しかし、一手先に援交少女が切り出した。

「やっぱりやめとくわ。マジムリ。」

そう言い捨てると、援交少女はオッサンを残し、歌舞伎町の人混みの中に入っていき、姿を消した。オッサンは慌てふためいた。

「ちょっ、ちょっ、まってくれよー!頼むよ!今夜しかないんだよ〜!」

職場と家庭の往復を繰り返す生活だけのオッサン。そんなオッサンにとってまたとない機会で出逢った援交少女はオッサンの理性のタガを外し、先を考えない、今しか知らないとでも言うような行動を起こさせていたのかもしれない。でもそれがオッサンにとっては非日常的で、オッサンの人生を閃かせていたのかもしれない。

私は今しか知らない 貴方の今を閃きたい

援交少女の消えた方向にオッサンが続いてフラフラと追いかけて行った。これが最後になるかもしれない。もう、援交なんかしないで普通の生活に戻ればいいのだけれど、まだどこか諦められない。そんなオッサンの葛藤が、ネオンの光を浴びて光るオッサンの頭を見ているだけで伝わってくるようだった。

 

これが最期だって光って居たい

 

 

 

やはり、東京では変なことがよく起こる。

結局、オッサンが歌詞を書いていた人だったのか、直接確かめることは出来なかった。が、オッサンの人生という1つのドラマを垣間見ることが出来たのは光栄だ。きっといまでも東京のどこかで、あのオッサンがネオンの光を浴びながら彷徨っているのだろう。

 

翌日になって、あの時のシンクロした曲が誰のアーティストのものだったか確かめることにした。アーティストも曲名も思い出せないから少し手間取ったが、すぐに調べられた。

 

 

 

東京事変というアーティストの閃光少女という曲だった。間違いない、あのオッサンだ。

詐欺は人を傷つける

 

彼は深く、深く傷ついていた。

顔は憎しみの重圧に耐えかねたように醜く歪んでいた。血の気の失せた青白い頬と対照的な赤く煮え滾る充血した目はあまりに悲惨だった。小刻みに肩を震わせながら、彼は、神に命乞いをするかのように静かに、しかし力強く、僕に言った。

 

「俺は…騙されたんだ。」

 


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昨今、詐欺が多発している。
「日本は詐欺大国だ。」と感じている人が多いかもしれない。昨今のオレオレ詐欺や特殊詐欺は厳罰化が進む中で被害総額は一向に減らない。


平成20年頃から盛んになったオレオレ詐欺や特殊詐欺。しかし、詐欺認知件数と人口比率で計算すると、詐欺大国と呼べるのはむしろ韓国だ。
日本に比べ偽証罪の件数は66倍、人口比では165倍になる。「韓国人は息を吐くように嘘をつく」という衝撃的な書き出しで書かれた記事がビジネスジャーナルにも掲載されている程だ。日本はそれに比べるとまだ比較的少ない。

なぜ、韓国でこれだけ詐欺が横行するのか。世界的にも韓国は稀な学歴社会でプレッシャーからか自殺する若者が後を絶たないこと、評価基準が人より劣っているかどうか、ということである為、人を蹴落としてでも自分が上に行かなければならない社会であると分析されている。また、学歴社会、世帯の所得差、国そのものの貧困によってそれはエスカレートしていく。

 

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彼は騙されたと自分で口にすることで、騙されたことを認めたからか、怒りや悲しみを通り越して、虚しさだけが残っているかのように見えた。

僕は何も言えなかった。

この彼を前にして、「大丈夫だよ。」なんて容易い言葉は決して口にしてはいけないようだった。沈黙が続いた。ブラインドのついた窓から空を見ると、いまにも降りだしてきそうな雨雲が渦を巻いてそこにただずんでいた。それは目の前の彼と対象的だった。

あまりに気まずい雰囲気に僕は耐えかねて、質問することにした。そもそも何があったのか。誰に、何を騙されたのか。そこを聞かずにして、彼の内面を慮ることは到底不可能だと感じたからだ。

 

彼はおもむろに語りだした。

 


彼はとある夜、したたかに酒を呑んでいた。いま取り扱っている仕事が上手くいかず、ストレスが溜まっていたのか、いつもよりも多く酒を呑んでいた。月夜の明るい夜だった。

ふといつもの職場の帰り道と違う道を歩いてみた。いつもの帰り道では、いつもの光景しかない。それはある意味彼の仕事や一生を表しているかの様な、現実を見せつけられているかの様な、そんな気がしたのだ。変わりたい。違う道を歩いてみれば、何かが変わるかもしれない。そんな、藁にもすがる思いだった。

人は普段なら騙されたりはしない。この時の彼の様に、衰弱して、心に隙が出来た時に騙されるのだろう。

違う道を歩いていくと、見知らぬ男が近づいてきた。「お兄さん、いい話があるんですよ。」全く見知らぬ男。背は低く、無精髭を生やしていたが、不思議と心に響くいい声をしていた。

普段なら、間違いなく無視する相手だが、彼は非日常に飢えていた。話を聞くことにした。どうやら商談のようだった。酔っていたが、それなりに話は理解できる。

商品だか何かを見て、買うかどうかの話なのだろう。若干、訝しげな感覚になったが、「とにかく見てから判断してくれればいい。」と男に言われた。見て判断してダメならば帰っても良いとのことだった。それなら、大丈夫だろう。

彼は無精髭の男の案内する先について行った。汚いビルの入り口に地下に続く階段があった。無精髭の男はそこを勝手知ったる場所のように降りていく。

階段は薄暗く、月の光を避けるように、奥に行くほど暗かった。この無精髭の男はどこに連れて行く気なのか。天国なのか、地獄なのか…

 

 


彼はここまで話したところで、よほど記憶を思い返して不快感が達したのだろうか、いきなり片隅に寄りかかって吐瀉物を地面に叩きつけた。

2、3度叩きつけると、少し落ち着きを取り戻したように息を大きく吐きながら言った。

 

「はぁ、すまない、いきなり吐いてしまって。」


「いいえ、いいんですよ。」

僕は努めて優しくそう答えた。

 

 

 

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先程、韓国が如何に詐欺事件が多いか告げた。では、日本は詐欺は大した問題ではないじゃないか。と感じるかもしれないが待ってほしい。何故なら、韓国の様な学歴社会、世帯所得差については日本も危惧すべき問題で、日本での詐欺事件の多発にも大きく関わってきているのだ。

オレオレ詐欺がこんな短期的に流行しているのは、日本固有の現象で、諸外国だったらここに銃と血が入ってくる。クーデターやデモが起こる。少なくとも日本では階層間の憎悪は貧困差によって出来上がる。

詐欺やオレオレ詐欺の基本的なターゲットは高齢者や高所得者だ。当然ながら低所得者を騙してお金を取るよりも高所得者から騙してお金を取る方が効率がいい。しかし単にそれだけではない。そういったターゲットを恨む社会になっているのだ。

低所得者高所得者が対立している社会。詐欺グループなどは元々暴力団組織や、無職の人などの烏合の衆といった人たちが犯行を行ってきていたのだが、現在ではあらゆる企業を勤め上げた人間や、大学卒業後にまともな就職にありつけない人たちまでが参加してきている。

苦労して勉強して、多額の奨学金を受けたのにも関わらず、ろくな仕事にありつけない。待っているのはブラック企業と利息のついた奨学金の返済だ。そんな時、人は社会や高所得者を恨む。そういった社会人が次々と詐欺グループに参加して、社会に反抗を示していく。

実際に、「日本社会の経済が発展しないのは高齢者が資産を溜め込んで流通させないからだ。」と謳う詐欺グループ内のセミナーも存在する。

事実お金が流通しないと経済が発展しないが、詐欺によって搾取する事の肯定にはならないのだけど、そこに賛同する人は大勢だ。

 

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県警の詐欺事件認知件数自体は減っているが、被害総額自体はおよそ倍に増えている。ここからみても分かる通り、被害者が高所得者であり、加害者は犯行能力の高いグループなのが分かる。

韓国の二の足を踏まない為にも、貧困差を軽減させたり、所得差で恨み合うことのない社会をこれからの日本は目指さなければならない。そしてなにより、詐欺にあった人間は傷ついているのだ。

 


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僕は彼が少し落ち着きを取り戻したのを見計らって聞いた。

「その先に何があったんですか?」


彼は引きつったような笑い方をしながら、ぶっきらぼうに答えた。

 

 

 

 

「風俗店のパネルの写真で指名した女の子が、実物と全く違った。あれは詐欺だ。」

 

キミハボクノセンタクキ

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強い陽射しに照らされた西口公園は月曜日の昼間とあって、閑散としていた。早口で喋る中国人、ポケモンGOをしているだろう姿の若者が数人。

 

大した理由も目的もない空洞な人達を惹きつける何かがきっと西口公園にはあるのかもしれない。

 

気圧の流れで集まった小さな雲達が目的もなく一つの入道雲となって空に浮かんでいる、ここはあんな場所なのかもしれない。

 

そしてそんな自分もその内の1人なのかも知れない。ダンは自虐的な笑みを口元に浮かべながら楽器を置き、ベンチに座った。

 

昨夜長年一緒に活動してきたのに解散したバンド「ass kisser」のことよりも、ダンにとっては一緒に暮らしていた女の子のことで頭がいっぱいだった。

 

あの子はいったい、どこから来たのだろうか。

 

そして、どこにいってしまったのだろう。

 

 

 

 

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ダンは普段からよく酒を呑んだ。

 

顔も整っている方で、女ウケもいい。池袋の西口にあるお気に入りのバーで呑んでは時々女を捕まえては家に連れ帰っていた。

 

ただ、深酒が過ぎるとしばし記憶を西口の繁華街の何処かに落としたように忘れてしまう。朝起きて横を見ると、全く見覚えのない女が崩れた化粧の顔で小さく寝息を立てていることもよくあった。

 

そして、その子と会ったときも記憶を飛ばすくらいに深酒した翌朝だった。

 

初めてみた瞬間に、家に連れ込んだいままでの女の子とは違う印象を受けた。隣で寝た訳でもなく、ダンが起きた時には既に、部屋の片隅にポツンと、まるで部屋の風景の一つのように、壁にもたれかかりながら座っていた。

 

両手で膝を抱えながら、こちらをじっと見つめてくる瞳はぱっちりと開かれていて、ダンの内面まで全てを覗いているのではないか、と感じる不思議な目だった。

 

「あ…えと…先に起きてたんだね。」

 

 

ダンは流石に、誰?と聞くのは失礼だと思い、そう口にした。一緒に家に来たのに、記憶ないから知らない、とは言えなかった。返事の代わりに女の子はコクリと頷いた。

 

 

白いニットシャツ、ショートヘアの黒髪、白い肌。タイプかと言われると分からないけれど、それなりに端正なルックスだった。ただやはり一番の特徴は大きく開いた目だった。あまり化粧が濃くないのに大きく見える。きっとそれなりにモテる女の子なのだろう。

 

「わたし、ここに居ていいのかな?」

 

か細くて少し高い声はなぜだかまるでその女の子の口から出たというよりも、直接脳に響くような声だった。とてもよく通る声。きっと女の子が帰らないのは、昨夜一緒に呑んでまだ二日酔いなのだろうとダンは思った。


「あ、うん。いいよ。」

 

そうダンが答えると、女の子は嬉しそうな顔でニコッと笑った。白い歯が綺麗だった。

 

 

 

 

 


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その子が初めてきた日から1カ月ほど経った。二日酔いが治れば帰っていくものだと思っていたのだけれど、その子はずっと住み続けた。かといって、ダンにとって特に困るようなこともないから、追い出す理由もなかった。

 

毎日、仕事やバンドの練習から帰ると、いつもの部屋の片隅にポツンと座っている。家にいるとよく話すのだけれど、名前とか、どこに住んでるのかとか、そういう質問をダンが投げかけると、その子はことごとく無視した。

 

もしかすると、家出少女なのかもしれなかった。未成年だったらどうしよう、とも思ったが、とても10代には見えないので聞くのもやめた。それに、いつも面倒な家事をその子は引き受けてくれた。

 

掃除や料理は全く手をつけないのだが、洗濯だけはダンが家を空けている間に、いつも済ませてくれていた。

 

そんな不思議な存在なのに、いつしか家に居るのが当たり前になっていて、ダンにとって居て欲しい存在になっていた。

 

人の出会いも雲の流れのように、フワフワと、偶然を装いながらも、実は気圧の流れによって必然的に出会うのかもしれなかった。次第にダンはその子を好きになっていた。

 

 

 

 

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週末の夜、ダンはいつもの西口のバーで酒を呑んだ。ヤケ酒だった。バンドの仲間と音楽の方向性の話で意見が分かれるところから話が肥大化して、メンバーと揉めた。

 

メンバーがみんなして、ダンが異常だと非難した。すこし、ヒステリックになっていた様だ。

 

その後に一人でヤケ酒。最後に呑んだラムが効いたのかもしれない。ダンが気づいた時には朝になっていた。自宅だった。

 

こめかみの痛みを払い退けるように寝返りを打つと、女の乱れた髪の毛が顔に当たった。

 

また、見知らぬ女が横にいた。口を開けて寝ている女の顔がとても醜く見えた。ダンはハッとして、あの子のいる部屋の隅を見た。

 

その子はダンを無表情で見つめていた。大きな瞳で。

 

ダンの心の中の焦りとか、無意識に考えだしている言い訳とか、そういったもの全てを知っている上での無表情なのかもしれなかった。

布団から腰まで起き上がったダンの動きに気がつき、隣の女も起きた。

 

「何?どうしたの?」

 

女はそう聞きながらダンの視線の先を気になって覗きこむ。

 

「なぁ、これには訳があってさ…この女、別になんでもないんだ。本当だって。」

 

狼狽しながらダンは無表情のその子にどうにもならないであろう言い訳をしていた。隣にいた女は本当に意味が分からないといった、呆れた顔をした。

 

「どういう事?なに言ってるの?マジキモいんだけど。」

 

そう言って女は起き上がり、転がっていたハンドバックを持って玄関にズカズカと歩いて出て行った。さっきまで壁にもたれて座っていた、あの子もいつの間にか居なくなっていた。

 

朝からの突然の展開に呆然としながらも、あの子はどこにいってしまったのか。自分のことを失望してしまったのか。昔の私みたいに他の女も家に呼んでいると思われたのではないか。ダンの頭の中に堰を切ったように不安が流れ込んできた。

 

とにかく、まだ近くにいるであろうあの子を探しに、ダンは家を飛び出した。

 

外は叩きつけるような雨が降っていた。ものの数秒で着ていた服が重くなり、全身が濡れた。でも、その時のダンにはそんなこと、どうでもよかった。あの子はどこに行ったのか、見つけたら、どんな言葉をかけてでも、謝りたい。許してほしい。その思いだけだった。

 

しばらく探しても、どこにもあの子は居なかった。雨は更に強さを増していた。

 

最近時折降りだす、ゲリラ豪雨だった。日常の、当たり前だった生活が一変して変わり果てる様は、今のダンと良く似ているのかもしれなかった。

 

息が苦しくなって、ダンは路上で膝をついて座りこんだ。息が、呼吸が、苦しくなった。過呼吸だ。まるで呼吸の仕方を忘れてしまったようだ。どうやって、いままで、生きていたんだろう。

 

そのまま仰向けに倒れこんだ。息が、苦しい。肺の細胞が一つ一つ悲鳴をあげていた。どんどん、意識が遠のいていく。なぜだか、遠のいていく意識の中で、顔に当たる雨がシャワーみたいで心地良かった。

 

 

 

 

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ダンが起きた時の窓の外には、大きな入道雲が浮かんでいた。

 

意識が覚めると、家族とか、友人とかが自分の顔を覗いていて、意識が戻った!と喜ぶものだと思っていたけど、あれはドラマの世界だけらしい。ダンが意識を戻した時には、病室には誰も居なかった。


精神病からくる、重度の精神障害
そう、医者から説明を受けた。

 

こんなに頭の禿げ上がった医者に宣告されると、胸くそ悪い思いをダンは感じた。だけど、受け止めるしかなさそうだった。

 

原因は急激なストレスだった。急激なストレスを感じると、人間は呼吸困難や、ヒステリック、頭痛や目眩といった様々な症状がでる。暫くは安静にするのが一番だ、と言われた。

 

ただ、ダンの場合は、入院生活の中で幾度となく行われたカウンセリングの結果、総合失調症に似た先天性の精神障害を持っていたらしく、ワードサラダ状態や、自分にしか見えない幻覚、躁などの症状もあったらしい。

 

入院生活の中で投与される精神安定剤が効いたのか、ダンはただただ日々が退屈だった。あれほど、女の子がいなくなったしまったショックを受けたのに、いまではあまり気にならなくなっていた。ダンにとって、ものすごく遠い日の思い出の中に、あの子はいた。

 

 

 

 

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楽器ケースからベースギターを取り出す。小さい持ち運びできるアンプと繋いで、軽くチューニングを済ませる。

 

もう、バンドは解散したのだから、念入りなチューニングも、音合わせも、そして自分の作った曲を気に入ってもらおうとおべっか使う必要も、もう無かった。

 

ジャーン ジャジャーンと軽く鳴らして、ダンは歌い出した。

 

 


キミは僕のセンタクキ

当たり前のようにいつも側にいて

でもボクはきみの

ソンザイにゾンザイで

いなくなってから気づいたんだ

キミが洗ってくれていたのは

服だけじゃ無かったんだよね

キミハボクノセンタクキ

キミハボクノセンタクキ

部屋の片隅にいつもいてくれた

キミハボクノセンタクキ

キミハボクノセンタクキ

 

 

 


ダンが時折指のコードを確認しながら引いていると、いつの間にかダンの視界に、目の前に、あの子がいた。

 

いつもの座り方で、ダンの歌う姿を見つめていた。あの大きな目で。

 

 


やはり西口公園には惹きつける何かがきっと、あるのかもしれない。

ダンはそう思った。

 

高畑裕太の逮捕に先駆けて物申す

 


先日、日本のメディアを衝撃が駆け抜けた。

23日未明、前橋市内のビジネスホテルで女性従業員に乱暴しけがをさせたとして、俳優の高畑裕太容疑者が逮捕された。

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警察によると、ホテルの電話を使って女性従業員にアメニティの歯ブラシを自分の部屋に持ってくるよう依頼し、従業員が部屋の前まで来たところ、無理やり部屋に連れ込んだ。また、調べに対し「女性を見て欲求が抑えられなかった」と供述し、容疑を認めている。

事件があったホテルには、映画の撮影のため宿泊していて、部屋に入る前はスタッフと酒を飲んでいたと話しているということで、警察は、当時の状況を詳しく調べている。

(ニュース記事より抜粋)

 

僕はからっきしメディアとか見ないから、親子揃ってまぁ!なんて顎のしゃくれたやつだとくらいしか思っていなかったのだけれど、バラエティで人気を得ていたものだから、あらまぁ!(貴婦人声)しかも強姦だなんて!ってお茶の間でもなる訳ですよ。あんな好青年が!ってなる訳ですよ。逆にこれがグルメリポーターの彦摩呂くらいがホテルで「アメニティの宝石箱やぁ!」だと、ふーん。くらいで終わるものかもしれない。イメージが正統派だっただけにそのギャップが大きくてこれからの非難轟々は避けられないとおもう。

でもね、ちょっと待ってくださいよ、そんなメディアからなにから、みんなで叩くのはイジメですよ。せめてほんのちょっとでもいい、裕太の肩を持つ少数派が居てもいいのではないか、僕はそう思うんです。そりゃあ22歳のヤンチャ盛りな時期でもありますし、犯罪は犯罪だけども同じ男としてはどこか同情する部分もあるじゃないですか。電車に揺られるサラリーマンのお父さん方も心の中では一度や二度は目の前に吊革を掴んで立っているアメニティを求めるような妄想も繰り広げていた筈です。お父さん、分かるでしょ?

という訳で、今回の「先駆けて物申す」は前回の相武紗季さんに対する非難とは趣を変えてみます。

相武紗季の結婚に先駆けて物申す - しらぼ、(過去記事タグです)

様々な視点から事件の情状酌量を見つつ、メディアとしてのイメージアップも含めて裕太を擁護していこうと思います。このブログが高畑裕太の裁判に活用されることがあれば、より有利な裁判の流れが見込めるのではないか。という願いを込めます。
裕太、僕は味方だぞ。

 

1 高畑裕太はアメニティと間違ってしまったのではないか

 

まずは犯行当時の高畑裕太の行動を確認していこう。抜粋した記事にはこう書かれている。

女性従業員にアメニティの歯ブラシを自分の部屋に持ってくるよう依頼し…

そう、ここで挙げられる可能性としては、高畑裕太は女性従業員を歯ブラシと間違ってしまったのではないか。ということだ。
寝る前に歯をみがきたいなぁ。(みつを)しかし、部屋には歯ブラシがない。うーん、困ったどうしよう。辺りを見渡しても歯ブラシらしきものはどこにもない。そこでフロントに電話をかけて歯ブラシを持ってきてくれと頼んだ。だが歯ブラシが部屋に来るまでには時間が掛かる。あぁ歯ブラシ。歯ブラシ歯ブラシ。歯ブラシ歯ブラシ歯ブラシ歯ブラシ歯ブラシ歯ブラシ歯ブラシ歯ブラシ。もう頭の中は歯ブラシでいっぱい。そんな時に部屋のチャイムが鳴り響く。そーら、歯ブラシが来たぞう!と熱り立ってドアを開けたらそこには歯ブラシが立っていた!うおーりゃ!ぐおーりゃ!がおー!と歯を磨く高畑裕太。よし磨き終わったと思ったらよく見たら人間だった。という可能性。いや無理か。

いや諦めたら高畑裕太の擁護にならないので、可能性として考えると、強い幻覚作用のある高純度のアレとかソレとか吸ったか打ったかで歯ブラシと見間違えた、というのが有力だ。裕太、それは歯ブラシやない、人間や!

 

 

2 高畑裕太は実はそんなに悪いことをしていないのではないか

 

さて、1項目ではまずは高畑裕太の故意ではなく過失として充分に情状酌量を証言した。次は俳優としてのメディア上の評価とお茶の間のバラエティ復帰に向けた世の中のイメージアップを図る。

高畑裕太の犯行は刑法177条の強姦罪に当たる。刑期としては3年から最高20年というなかなかハードな犯行だ。ちなみに補足だが、強姦罪として成立するのは男性が女性を襲う場合のみで、女性が男性を襲う、又は男性が男性を襲う場合は強姦罪としてではなく、強制わいせつ罪になる。さらに、強姦と強姦未遂の違いは性行為が行われたかどうか、この一点に限る。「先っちょだけ」が強姦と強姦未遂のボーダーラインである。刑期や刑罰もおよそ半分になる。巷で援助交際ばかり勤しむお父さん、先っちょだけが命とりですよ。

 

ここまで高畑裕太の犯行を説明していくとハードな犯行に感じてしまう。これじゃあお茶の間でも高畑裕太がテレビに映ればチャンネルを変えられ、メディアに載れば「ああ、あの歯ブラシの人か」となってしまう。が、ちょっとまってほしい。世の中にはもっと残忍かつ凶悪な犯罪が溢れており、上には上の凶悪犯が渦巻いている。それに比べたら高畑裕太の犯行なんてなんてちっぽけなんだ!と思えるかもしれない。

 

という訳でdoor in the faceを活用してみる。日本語でいうところの譲歩的要請法だ。商法としては効果的な方法として知られており、無理な商材を提案した後に落とし所として条件の良い商材を提案する。すると、最初から提案するよりも購買意欲をそそるのだ。

 

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ジェフリー・ライオネル・ダーマー(Jeffrey Lionel Dahmer、1960年5月21日-1994年11月28日)は、アメリカ合衆国の連続殺人犯。ミルウォーキーの食人鬼との異名を取る。1978年から1991年にかけて、主にオハイオ州ウィスコンシン州で17人の青少年を絞殺し、その後に死姦、死体切断、人肉食を行った。その突出した残虐行為は、1990年代初頭の全米を震撼させた。またこの事件では、ミルウォーキー警察当局の無能と、人種的および性的マイノリティに対する偏見がダーマーの蛮行を許したとして厳しく非難されることになった。

  

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セオドア・ロバート・バンディ(1946年11月24日 - 1989年1月24日)はアメリカの犯罪者、元死刑囚。

バンディは、1974年から1978年にかけて、全米でおびただしい数の若い女性を殺害した。被害者の正確な総数はわかっていないが、彼は10年間にわたる否認を続けた後、30人を超える殺人を犯したと自白している。彼は原型的なアメリカのシリアルキラーとして考察される。

残忍な殺人犯という一般的な評価に反し、しばしば知的でハンサムで愛嬌がある青年であったとも評される。また、日本のメディアにも題材として登場し、ハンサムで頭脳明晰なシリアルキラーとしてショッキングに扱われる。

 

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アルバート・ハミルトン・フィッシュ(1870年5月19日 - 1936年1月16日)はアメリカの連続殺人者、食人者。「満月の狂人」(Moon Maniac)、「グレイマン」(Gray Man)、「ブルックリンの吸血鬼」(Brooklyn Vampire)などの異名で知られている。正確な数字は明らかではないが、多数の児童を暴行して殺害(1910年から1934年までに400人を殺したと自供)。肉を食べる目的で殺害された児童もいる。また、成人も殺害しているとされる。なお、「満月の狂人」という異名は、犯行が満月の日に行われたことが多かったことに因む。

アメリカ犯罪史上最悪の殺人鬼と呼ばれている。

 

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高畑裕太

強姦一件。

 

ほら、全然悪くないぞ、裕太。

 

 

 

 

まとめ

 

1. 高畑裕太は薬物中毒だった。歯ブラシと女性を間違えるレベルで。

 

2. 性犯罪者の写真のコラージュを作ると、意外としっくりくる。

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これはもう例えるならあれしかない。

性犯罪者の宝石箱やぁ!

 

 

無くしものをしないようにしよう

目標を立てた。

 

あれは確か小学生の頃だったろうか。クラスで月毎に1人ずつが目標を立てるのだけど、「たくさん手をあげて発表する」「ろうかを走らないようにする」といった他のクラスメートの目標に対して、僕の「無くし物をしないようにしよう」という目標はやや異質だった。

ただ、結局は月毎の目標を立てたところで、掲げた目標などすぐに皆忘れていて、手を挙げるどころか居眠りする奴、廊下をリオオリンピックのジャスティン・ガトリン並みに全力で駆け抜ける奴、そして物を片っ端から無くしまくる僕がいた。

目標という壁を乗り越えてこそ達成できるものだが、あの目標を掲げてから10年以上も経つが、未だに忘れ物や無くし物が後を絶たず、未だ達成されていない唯一の目標となっている。その後の人生で立てた数々の目標の中ではある意味、1番的を得ているのかもしれない。

 

 

 

…と、ここまで書いたところで、ようやく僕を乗せた電車は福岡の県境を越えて、故郷熊本に入った。

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毎年、お盆や正月のシーズンは運賃も倍程に上がり、帰省ラッシュにのまれるのも目に見えていたので、こんな時期に田舎に帰る奴はお中元にハムを押し付ける阿部寛か、キチガイだけだと思っていたが、遂に僕もお盆に帰省することにした。

無論、倍以上もする運賃では飛行機も新幹線も乗ることが出来ず、青春18切符を利用した。青春18切符というのは、在来線なら終日乗り放題で、何度でも途中下車が可能な優れもの。ただし注意点は券が一枚だけなので、紛失すると使用できない事と、新幹線や特急には乗れないので、長距離の移動には全く向いていない。

東京から夜行列車ムーンライトながらに乗り込み、名古屋からは鈍行で熊本を目指す。途中の乗り換えの待ち時間も含めると熊本まで30時間くらい掛かるだろうか。こんな方法で帰省する奴は間違いない。キチガイだ。

そして3日目の早朝、博多始発の電車に乗り込み、熊本への電車に乗ると、懐かしい景色が見えてきた。それは南荒尾駅から川尻駅までの景色である。僕は通勤通学には電車は一切使っていないが、ある時期に川尻〜南荒尾駅間のを使っていたのを思い出した…

 

 

 

 

あれはまだ16歳の頃だった。

僕は恋愛をしていた。同い年の彼女だった。まだスマホなんて物も無くてガラケーでメールを打ちあい、絵文字のハートがEメールで届く度に愛を確かめ合っていた。

 

高校が一緒ならば登下校で一緒になったり、お昼休みに一緒に弁当を食べたり出来たのだろうけど、僕と彼女は高校も違えば、住む場所も遠かった。免許なんて勿論無くて、自転車しかない僕にはその距離は途方もなく遠かった。

 

唯一の会う手段が電車だった。僕の家の最寄り駅が川尻駅、彼女の家の最寄り駅が南荒尾駅で、片道1時間弱、往復で1880円掛かった。

とてもじゃないけれど、この距離は16歳の男女には遠かった。電車の時間は百歩譲ったとしても、往復の1880円は最低時給630円の熊本では到底通える額じゃなかった。

 

だが、そこはまだ十代の若さがあった。じゃあどうするかというと、南荒尾駅が無人駅であることを利用して、正規の金額を払わずに下車するのである。川尻駅から210円で熊本駅行きの切符を買い、そのまま南荒尾まで乗って行く。無人駅なので降りた後は支払いもせずにそのまま駅を出てしまうのだ。そして、帰りは切符を買わずに電車に乗り込み、川尻駅で「熊本駅から乗ったけど、切符を無くした。」と駅員に告げるのである。これで420円。正規よりも1460円安くすることができるのである。なんとも人道から外れた行いだ。

 

それからは420円で彼女に会いに電車に乗るようになった。

 

しかし人間とはなんと強欲な生き物なのか、この420円すらも惜しくなってしまったのである。

そう、週に三回も行き来すれば、1260円も掛かってしまうのだ。これをどうにか安く出来ないものか。そう考えてしまったのである。

 

それにもう一つ、この420円で行く方法では、毎回川尻駅で下車する度に駅員に切符を無くしたと告げなければならない。

 

ある日川尻駅から改札を通ろうとすると、駅員のおっちゃんが話しかけてきた。

 

「最近よく見るけど、にいちゃんはいつもどこに行きよると??」

 

きっとおっちゃんは怪しんでいるというよりも、通勤通学でもなさそうな若者が電車を使うのが余程珍しいと思って声を掛けたのかもしれないが、後ろめたい気持ちを抱えた僕は冷や汗をびっしょりとかいた。

 

「あ、彼女に会いにいったんです。」

 

と、一言だけつげて、僕はそそくさと改札を抜けてに駅を出た。これではバレてしまうのは、もう時間の問題だ。

 

そこで考えたのは、壁を乗り越える方法だった。帰りの電車で川尻駅のホームに降りた後、タイミングを見計らって改札の駅員から離れた位置で壁を乗り越えて切符を買わない方法であった。これだと駅員に怪しまれる事もなく、一回の往復で必要な金額も210円になる。一石二鳥である。

 

とことん味を占めた僕はそれ以後は何度も何度も壁を乗り越え続けた。人としての善悪すらも乗り越えていた。人間、悪事も繰り返すと不思議なもので、最初に抱えた罪悪感だとか、持っていた倫理的な感覚も狂ってしまう。もう当然のように、乗り越えて帰っていた。

 

そんなある日のことだった。夜8時ごろの人気のないホームから壁を乗り越え、川尻駅の前を通った時に、突然声を掛けられた。あの、以前声を掛けてきたおっちゃんだった。

 

「ちょっと、こっちおいで。」

 

そう呼びかけるおっちゃんは怒っているようにも見えず、逃げ出せばよかったものの、僕は呼ばれるがままに駅の構内に入っていった。もうなるようにしかならないよね、と思った。


「にいちゃん、彼女さんとこの帰りね?」

 

おっちゃんは咎める訳でもなく、怒る訳でもなく、どこか淋しそうな目で僕を見ながら言った。

 

「…はい。」

 

「俺も若い時、にいちゃんくらいの時はよく悪さしとったよ。でもね、にいちゃん、それじゃあ彼女さんは会っても本当に喜べるのかな?」

 

つぶやくように語るおっちゃんに、僕は何も言えず、ただただ俯いていた。怒られるよりも、語りかけるおっちゃんの言葉の方が、ずっしりと重く感じた。

 

「にいちゃんは、どこの駅まで行きよっと?」

 

「…南荒尾です。」


ふぅ、と小さくため息をついたおっちゃんは座っていたパイプ椅子から腰を上げて歩きだした。そのまま自動券売機の前に立った。僕はその場で立ち尽くしたまま、待っていた。料金の精算を請求されるのだろう。

 

おっちゃんはズボンのポケットからおもむろに黒い萎びた革財布を取り出し、お金を券売機に入れていく。
再び僕の方に戻ってきたおっちゃんが言った。

 

「にいちゃん、とりあえずこれで今度から彼女さんに行くたい。」

 

おっちゃんから渡されたのは川尻駅から南荒尾駅の定期券だった。僕は訳が分からなかった。

 

「え…?これは…」

 

「定期券だけん、ずっとは使えんけど、しばらくはこれで行けるど。もう変なこつはするなよ。ほら、もう遅いけん帰れ。」

 

ニッとはにかんだ顔で僕の顔を見るおっちゃん。まさか、定期券を譲って貰えるなんて思ってもみなかった。

 

貰った定期券をポケットに入れ、駅に止めていた自転車に乗り、ペダルを踏み込んでいく。田舎道の羽虫が時折顔に当たるのも気にならない位に、僕の心はショックを受けていた。過去に大人から怒鳴られたりする時よりも、心の中のずっと深い所に、スッとおっちゃんの言葉が染み込んで来た。


僕は自分がズルいことをしていくうちに、心の「大切な何か」を無くしてしまっていたのだろう。とっても、無くしてはいけないものを。それをおっちゃんは僕に思い出させてくれたのかもしれなかった。


なぜおっちゃんは見ず知らずの僕なんかに、定期券を買ってくれたのか。しかも距離が距離だから金額も相当なものだったに違いない。自分が情けなくなって、ボロボロと涙を流しながら僕はペダルを漕ぐ足に力を込めた。夏の夜は涼しかった。

 

家に帰り着き、家族のいる居間には行かず自分の部屋に直接入った。泣いた後の顔を家族には見せたくなかったからだ。
ポケットに入れた、おっちゃんに貰った定期券を取り出そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 


無くしてた。

 

 

 


と、そんなことを思い出しながら電車の車窓から外を眺めていると、川尻駅に着いた。あれから何年も経ったいま、あのおっちゃんは今もいるのだろうか。

 

扉が開いて、夏のムワッとする熱気と入れ替わるようにして僕はホームに降りて改札に向かった。

 

改札には若い駅員さんが1人いるだけで、あのおっちゃんは居なかった。もしかしたらもう定年になったのだろうか。

 

もし、もう一度会うことが出来るのなら、あの時のお礼を言いたかった。仕方なく、ポケットに入れた青春18切符を駅員に見せて改札を出ようとした。

 

 

 

 

 

 

 

無くしてた。壁でも越えるか。

大丈夫だよ。

大丈夫だよ。

 

 

こんな心強い言葉が他にあるだろうか!

 

 

ストレス社会の現代の中で、常に不安や恐れを抱えながら生きている人々にとってはかけがえのない言葉だ。

 

叱責はもちろんだが、頑張れ!といった言葉も励ましというよりプレッシャーになる方が多分にあるだろう。その中でこの、「大丈夫」という言葉は全身にのしかかる負担を取り除いてくれる唯一の言葉だと思う。

 

 

元々の語源をたどるとこの「大丈夫」というのは和漢異義語というもので、中国の言葉がそのまま伝わってきている。周の時代の成人男性の身長を一丈と表したところから丈夫という言葉が生まれた。

 

大きく、力強い男がいる。そんな安心感が伝わってくる言葉だ。

 

 


そんな、「大丈夫」という言葉をかけられて、心に響いたエピソードが先日あった。

 

 

 

僕は普段、建築現場で働いている。朝、様々な交通機関を使い、現場に着いてから仕事をする。普通の会社員なら職場というのはずっと変わらずオフィスで、通年同じ職場に通い詰めるのだろうが、建築の仕事では現場が変わるたびに朝の通勤ルートも通勤手段も往々にして変わるのだ。

 

 

地元の熊本で働いていた時は公共の交通機関が充実していないので専ら車での通勤だったが、東京ではバスや電車で現場に通うのが主流だ。ただ、それだと作業道具とヘルメットをバックに詰め込んで運ばないといけないので、荷物がかなり重い。それに朝の通勤ラッシュに重なると、デカいバックがかなり他の乗車客の顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまう。やはり車での通勤が1番である。

 

 

先日通い詰めた現場が足立区のとある市民プールの解体現場だった。僕は一つの建築会社で勤めているだけでなく、フリーランスで他社の仕事も受け持つことがあり、この解体現場も他社の仕事だった。

 

 

普通なら電車とバスを乗り継いで現場に向かわなければならないのだが、この会社の高橋さんという五十代のオッサンがとても親切で毎日車で送り迎えしてくれた。

 

 

建築業の職人の世界では、上下関係というのは絶対的なものだ。経験年数が多く、仕事が出来る人ほど偉い。下の人間は仕事もプライベートもなく、上の人の言うことを聞き、使いパシリをして一緒に仕事をすることで技術を盗むことができる。

 

この高橋さんは二十年以上の経験年数の大ベテランで、僕なんてヒヨッコ同然なのだけれど、威張ることもなく、毎日迎えに来てくれた。僕は嬉しい以上に申し訳ない、いたたまれない気持ちになった。

 

 

ある朝、高橋さんの運転で現場に向かう際、僕はそんな胸のうちを伝えた。

 

「高橋さん、毎朝いつも送り迎えさせてしまってすみません。」

 

 

礼儀とかではなく、本心だった。

 

高橋さんはそれを聞いて、フッと鼻で笑いながら答えた。

 

 

 

「なぁに、そんな礼なんか要らないよ。これが俺の役割なのさ。」

 


「でも、僕なんて現場に直接行くのが当たり前なのに、わざわざ来て貰っているから…」

 

そう言った僕に高橋は優しく、語りかけてくれた。

 

 

 

 


人にはそれぞれ、役割があるのだと。

世の中には色んな人がいる。

そして色んな仕事があって、色んな役目がある。毎朝電車に揺られるサラリーマン、街を巡回するお巡りさん、商品を並べるコンビニのアルバイト、そして僕ら建物を作ったり、壊したりする職人。自分にはサラリーマンもお巡りさんもコンビニ勤めも出来ないけれど、足場鳶の仕事ができる。

 

出来ないことを恥じる必要なんて無い。自分の役割を果たせば堂々と生きていける。朝、同じ現場で働く仲間を車で送り迎えするのも自分の役割なだけ。

 

 

と高橋さんは言ってくれた。

 

ハンドルを握りながら、何気なくそう言ってくれる高橋さんの姿が、大きく、そして力強く見えた。職人の魂のようなものが垣間見えた気がした。

 

建築業の人なんてほとんどがアル中とか前科持ちとか、社会のルールも守れないろくでもない人ばかりなのに、この人は違う。そう感じた。

 

 

 

 

胸が熱くなった。
感謝の念がこみ上げてくる。

 


だから余計に、申し訳ない、とも思ってしまい、つい言ってしまった。

 

 

「せめて運転だけでも代わりたいんですけど…すみません。運転免許が無いんです。」

 

 


僕は元々免許を持っていた事、それが剥奪され、今は持っていない事を伝えた。日頃人に言う話では無いのだけれど、高橋さんにならなんでも話せるような、そんな気がした。

 

 


高橋さんはそれを聞いて、フッと鼻で笑いながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ。俺も免許ないから。」